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 その日以来、クラスの雰囲気がちょっとだけ変わった。

 取り乱したように泣き出した僕を見て、何人かのクラスメイトは同情したのか、たまに僕に話しかけてくるようになった。

 反対に完全に引いてしまったヤツもいるけど。

 そして啓介は何か言いたげに、僕のことをいつもちらちら見てるくせに、何も言ってこない。

 だけどもう、どうでもいいんだ。

 もうすぐ受験で、それが終わったら卒業で、僕たちはこの学校からいなくなる。


 受験を間近に控えた放課後、校舎を出たところで偶然美優に会った。

 いや、美優はきっと、僕のことを待ってたんだと思うけど。

「……ごめんね? トモ……いろいろと」

 美優は僕の隣で、ぽつりぽつりと口を開く。

「なんで……美優が謝るんだよ」

「美優ね、啓介にも謝った。美優も啓介の気持ちなんか考えてなかった」

 美優の声を聞きながら、校庭に並ぶ桜の木を眺める。

 あの桜が満開になる頃、僕はもうこの場所にはいない。


 美優となんとなく並んで校門を出た。

 その時、僕は見たんだ。

 校門に寄りかかるようにして、誰かを待ってるようなその人の姿を。

「トモ……あのね?」

 美優はなにも気づかないまま、僕に話しかけてくる。

 僕もそれに合わせながら、ぎこちなく校門を通り過ぎる。

 心臓がドキドキした。美優の声がだんだん遠くに消えていく。

 息もできないほど、どうしようもない気持ちになった時、僕は立ち止って美優に言った。

「ごめん。忘れ物した。学校戻る」

「え?」

「ごめん! 美優」

 そのあとはもう振り向かなかった。

 前だけを見て、息がきれるほど全速力で走る。

 数人の生徒とすれ違いながら校門まで戻ったら、さっきと同じ場所で小春さんが微笑んだ。


「トモくん。彼女置いてきちゃダメじゃない」

「彼女じゃないです」

 小春さんは笑みを浮かべたまま僕を見て、校庭の中へ入っていく。

「部外者は立ち入り禁止だよ」

「部外者じゃないもの。卒業生よ」

「えっ」

「言わなかったっけ?」

 仕事を辞めた小春さんは今実家に住んでいて、その実家は僕のうちのそばで、だったらこの学校の卒業生でもおかしくないか。

「てことは、宏哉とその頃から一緒だった?」

「うーん、付き合ってはいなかったけどね。今思えば、お互いなんとなく意識してたかも」

 そんなに長い付き合いだったんだ……この二人は。

「あたしが十五の時、トモくんは幼稚園生ね」

「はぁ……」

「下手すると、あたしがおむつ替えてたってわけか」

「それ言うの、やめてください」

 実際、僕は宏哉におむつを替えてもらってたんだから。


 小春さんは校庭の隅に立ち、桜の木を見上げる。

「この桜が満開になると、とってもステキなのよねぇ」

 のん気にそんなことを言いながら……。

 突然僕の前に現れて、突然いなくなってしまう、十歳年上の兄さんの彼女。

 僕はどうしてこんな人を、好きになってしまったんだろう。

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