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 年が明けたある日、僕が勉強をしていたら、勇哉がひょっこり顔を出した。

 勇哉の赤くて長かった髪は、いつの間にか黒く短くなっていた。

「よう、トモ。元気にやってるか?」

「勇哉っ! 帰ってきたの?」

「いや、ちょっと荷物を取りに来ただけ」

 勇哉は僕の前でいたずらっ子のように笑う。


「そう言えば宏哉も家出たらしいな」

「うん……でも、なんで知ってるの?」

「この前宏哉に会ったから」

「え……」

 僕の胸がどくんと動く。別に宏哉の名前に反応したわけじゃない。宏哉と一緒にいるはずの、小春さんのことを思い出してしまったから。

「彼女と……一緒に暮らしてるって?」

 聞きたいような聞きたくないような気持ちで、僕は言う。しかし勇哉の口から出た返事は、意外なものだった。

「それが違うんだよ。小春とはもうずっと会ってないって言うんだ」

「……会ってない?」

「別れたのかな? あんな美人、マジもったいねぇ」

 別れた? 別れたのか? ほんとに? どうして?

 胸の中がざわざわして、どうしたらいいのかわからなくなる。


「トモ、なんかお前、ヘンじゃね?」

「べ、別に。いつもと同じだけど?」

「いや、絶対何か隠してる。おら、お兄ちゃんに言ってみなさい」

 い、言ってしまいたい。けど絶対軽蔑される。いやそれより、笑い飛ばされるのがオチか。

 だけどこんなこと、死んでも宏哉には相談できないし、相談するならやっぱ経験豊富な勇哉だよな。

 でも勇哉みたいなおしゃべり男に言ったら、宏哉に知られてしまうのは時間の問題……いやそれどころか、本人に知られたらヤバすぎだろ?

「なにウジウジ考えてんだよ? まさか小春にでも惚れたか?」

「な、な、なに言って……そんなの、そんなのって、まさかありえないでしょ?」

「……トモ、お前って、わかりやすいやつだな」

 勇哉はじっと僕の顔を観察した後、満足そうににやりと笑う。

 バレた? 勇哉に……僕が小春さんを好きなこと。

「バーカ。バレバレだっての」

 勇哉は笑いながら、僕の額をぱちんと弾く。


「別にいんじゃね? まだ結婚してるわけでもないんだし。まぁ、あっちがな。お前みたいなガキ、相手にしてくれるかわかんねーけど」

「……いいんだよ」

 僕の声に勇哉が顔を向ける。

「別に言うつもりないし。俺は平和主義者だから」

「はんっ、つまんねー男。好きなら奪い取るくらいのこと、してみろっつーの」

 もう一度僕の額をデコピンして、勇哉は階段をどかどかと降りていく。

「あっ、えっと、勇哉は?」

 階段の途中で振り向く勇哉。

「ほんとに結婚したの? こ、子供は?」

「すべて順調。問題なし」

 ピッと親指を立ててにやりと笑うと、勇哉は僕の前から去って行った。

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