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今までろくに勉強してなかったくせに、トップ校なんかを狙ってる無謀な僕は、すでに担任教師から見放されていた。
きっと啓介や他のやつらは、僕の頭がおかしくなったとでも思ってるだろう。
体験授業を受けた塾には同じクラスのやつらがいて、やっぱり居心地が悪かったから、塾へは入らなかった。
だから僕はクリスマスも正月も、家にこもって勉強した。
絶対無理だと決めつけてる担任を見返してやりたかったし、塾に行ってるやつらに負けるのもシャクだったから。
そしていつの間にか僕は、自分がものすごく「頑張ってる」ことに気づいてしまった。
ありえない。あんなにカッコ悪いと思ってた「頑張る」ってこと。僕は今、必死にやってる。
「あんたね、そこまで言うなら絶対やり遂げなさいよ」
そんな僕に向かって母さんが言う。
「一生に一度くらい死ぬ気で勉強すれば、あんただってなんとかなるわよ」
励まされてるのか、バカにされてるのかわからないけど、母さんは朝から晩まで口を出す。
放任主義から一転、どうやらこんな僕にも期待をかけ始めたのかもしれない。
ああ、でも、こんなことなら、ほっとかれたほうがましだったかも。
勇哉の言うとおり、あの頃の僕は「恵まれてた」のだ。
ウザい母親の話が長引きそうだったので、僕は逃げるように外へ出た。
コンビニでも行こうと、たいしてあてもなく歩き始める。
真冬の冷たい空気が、あっという間に僕の体を冷たく冷やす。
いつもの踏切で立ち止まった。
勇哉はあれから音沙汰なしだし、宏哉もどこに行ったのかわからない。
そして……小春さんにも、もうずっと会ってなかった。
どうしてるのかな。宏哉と一緒に暮らしてるのかな。
初めて会った時みたいに、踏切の向こうに現れないかな。
よっ、元気って、いきなり僕の肩を叩いてくれないかな。
遮断機が下りて警報機が鳴りだした。
目の前を通り過ぎる電車を見送りながら、僕はぼんやりと考える。
会いたい。会いたい。あの人に会いたい。
警報機の音が止み、僕の周りが動き出す。
人が車が自転車が、僕を残したまま動き出す。
だけど僕は、その場に立ち尽くしたまま動けなかった。
だって……だって気づいてしまったから。
いつの間にか、兄さんの恋人を好きになってしまった、この気持ちに……。