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 美優が突然僕の家にやってきたのは、今にも雪でも降りそうな、どんよりとした休日の朝だった。

「付き合ってるのっ?」

 半分寝ぼけていた僕に、美優は意味のわからない言葉を投げかけた。

「誰なのよ、あの女の人! 付き合ってるのっ?」

「……あの女の人って?」

「バッティングセンターで一緒にいた人!」

 小春さん? 僕が小春さんといるとこ、美優に見られた?

「あの人は……俺の兄さんの彼女だけど?」

「はぁ? お兄さんの彼女と、なんでトモが一緒にいるのよっ!」

 なんだか僕は、さっきから文句を言われてるようだけど、どうして美優に文句を言われなくちゃならないのか、意味がわからない。


「あの、さ。俺が誰と一緒にいても、美優にはカンケーないと思うけど?」

 僕の言葉に美優の頬が赤く染まる。

 あれ? なんで? どうして?

「だって……俺たち、もうとっくに別れたじゃん?」

 美優はさらに耳まで真っ赤にしている。

「しかも美優は、啓介と付き合ってるんだし」

「もう別れたもん!」

 そう言いながら僕を見る美優の目は、なぜだかじんわりと潤んでいた。

「もう別れたの!」

「……なんで?」

「なんでって……だって……美優はまだトモのこと、好きだから!」

 それは絶対ありえないはずの告白だった。


 今年初めての雪が、かすかにちらつき始めた空の下、僕は美優と公園のベンチに座っていた。

 だけど美優はしおらしくうつむいたまま、なんにもしゃべろうとはしない。

 このままここにいても寒いだけだし……一体どうしたらいいんだよって思った時、美優がぽつりと口を開いた。

「トモに……気にして欲しかったの」

 美優がしゃべってくれたことに、僕はとりあえずほっとする。

「啓介と付き合えば、トモが美優のこと気にしてくれるんじゃないかって……そう思って……」

 それが啓介と付き合った理由?

「ねぇ……美優とトモ……もう一度付き合うのって無理?」

 無理だろ? そんなの。

 僕は確かに美優を傷つけたかもしれないけど、僕だってもう十分傷つけられてるんだ。

「ねぇ、トモ……なんとか言ってよ」

「……無理だよ」

「やっぱり美優のことは好きじゃない? キスしたときも、抱き合ったときも、全然美優のことは好きじゃなかった?」

「それは……」

 全然好きじゃなかったわけはない。

 今だって、美優は他の女の子より可愛いと思うし、全然好きじゃない子とキスなんかしない。

「美優バカだからさ、今ごろになってやっとわかったの。美優はすっごく、トモのこと好きだって」

 美優の声が徐々にかすれる。

「トモに会えないと会いたいって思うし、トモが他の女の人といるとこ見たら、もうどうしたらいいかわかんなくなっちゃって……」

 そう言いながら美優が泣いた。ぽろぽろ涙と鼻水をたらして、僕の隣で哀しそうに泣いた。


 このまま美優の肩を抱き寄せたら、何もかもがうまくいくんじゃないだろうか?

 美優はまた僕と付き合って、クラスのみんなはあきれたように笑って、啓介は怒るかもしれないけど、それもなんとかなっちゃって……何もかも都合よく、変われるんじゃないだろうか?

 だけど――そんなことをしても、僕はきっと後悔する。

「ごめん……美優」

 僕の声に美優が顔を上げる。

「やっぱり……美優とは、付き合えない」


 人を好きになるって、どういうことなんだろう。

 僕は美優と会えなくなっても平気だったし、美優が啓介といた時は、なんでだよって思ったけど、どうしたらいいかわかんなくなっちゃうなんて気持ちはなかった。

 僕は美優が僕を想うほど、美優のことを好きじゃない。

 それより僕は、誰かを本気で好きになったことさえないんだ。


 力が抜けたようにうつむいて歩く、美優の背中を見送った。

 白くて冷たい雪が舞う中、僕はいつもの踏切を渡る。

 僕が渡り終わると同時に鳴りだす警報機。

 その音は今日も寂しく、くすんだ色の空に吸い込まれていくようだった。

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