第六条、BL表現のゾーニングも徹底せよ。
百合の花と対をなすは、薔薇の花。
男は百合に、女は薔薇に魅了され尊ぶのもまたあらゆる多様性すら内包するサブカルの深淵。
しかしそんな中で花園からは程遠くも、薔薇の香りの残滓を纏った野獣の群れたちの戯れを愛でる者達もまた一定数居るようですね。今回はそんな、野獣に魅せられた魔女の最後をお届けしましょう。
サブカル法、第六条。女性向けエロコンテンツにおいてBL表現および、ゲイ、ホモと呼称される男性同士のセックス表現を描写する者について。
それらの醜い表現(筋肉達磨、デブ、ハゲ(もしくはスキンヘッドに近い髪型)及び、それらの特性を持った獣人)を一切ゾーニングせずに一般大衆の衆目に晒すものは一族郎党根絶やしとする。
大法廷はこれまでにないほどの静寂に包まれていた。
観客席に並ぶ無数の女性ファンたちの瞳は、憤怒と失望で燃えていた。
そして女性ファンたちの他には一般人の姿も相当数見受けられた。
前回のグロ画像絵師の一件以来、非消費者の一般層も裁判を傍聴しにくるようになったのだ。
罪人席に鎖で繋がれ、床に額を擦りつけながら震えているのは、女性向けBL作家・F氏。三十代後半、かつては「美少年愛の巨匠」と称えられ、数々の美麗イケメン同士の純愛作品でティーンから大人まで熱狂的な支持を集めていた人物だ。だが今は顔面を蒼白にし、涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、鎖を鳴らして許しを乞うている。
裁判官は無表情で罪人を見据え、その横に立つ検察官が、氷のような声で告げた。
「サブカル法 第六条を読み上げる。」
「女性向けエロコンテンツにおいてBL表現および、ゲイ、ホモと呼称される男性同士のセックス表現を描写する者について。それらの中でも生理的な嫌悪感を煽る表現(筋肉達磨、デブ、ハゲ(もしくはスキンヘッドに近いカリアゲ)それらの特性を持った人間や獣人)を一切ゾーニングせずに一般大衆の衆目に晒すものは一族郎党根絶やしとする。」
F氏は鎖を掴み、這いずりながら絶叫した。
「違います! あれは多様性を描きたかっただけです! BLだって立派な性癖。甘いマスクの王子様みたいなイケメンだけじゃなくて、多少醜い姿をした汗臭いガチムチ同士を絡ませても良いじゃないですか! 筋肉ゴリゴリのデブハゲ中年をゴリマッチョな美少年獣人と絡ませるのも愛の形ですよ! ゾーニングなんて差別じゃないですか!」
裁判官が静かに、しかし雷鳴のごとく断じる。
「多様性? 貴様は女性向けBLという、美しく儚い美少年・美男子同士の愛を信仰する聖域を、わざと醜悪な存在で汚した。細身で気品あるイケメン同士の繊細な触れ合いを期待して開いたページに、突然汗と脂まみれの筋肉達磨ハゲやガチムチホモ獣人が『ホモセックス最高!』と叫びながら登場する。それを無ゾーニング、無警告で一般タグに投下した貴様の罪は、ただの卑劣なテロリズムだ。そういうものが嫌いな一般ユーザーの精神衛生を犯し、BL界隈を愛好してくれるファンたちの社会的信用を下げて迷惑をかけた外道には一族郎党根絶やしは当然の裁きである。グロ画像絵師のE氏の事件からお前は何も学ばなかったのか?」
氏の罪状は、極めて悪質かつ計画的だった。彼のサークル『プリティ・ボーイズ・ラブ』は、美少年攻め×美少年受けの王道BLで人気を博していた。特に代表作の「銀髪王子レオン×黒髪貴公子セシル」のカップリングは、ファンから「永遠の至宝」と崇められていた。
ところが近年、F氏は突然「リアルBL路線」を宣言。筋肉達磨のデブハゲや獣人キャラを大量に投入し、美少年を犯す描写を連発。最悪だったのは、スキンヘッドに近い毛深い中年親父と熊系獣人が美少年をレイプするシリーズで、タイトルに「ホモエロ」「ゲイモノ」と下品な呼称を付け、一般タグと女性向けタグに無差別に投下した。
美少年愛を求めるファンがトラウマを抱え、BLについて何も知らない一般人が吐き気とPTSDを訴える被害が続出。
数万件の通報と「悍ましい猥褻物を陳列するな!」、「美しいBLを返せ」の運動が起き、ついにサブカル裁判所へ告発されたのだ。検察官が最後の宣告を下す。
「貴様の罪は、美しいBLの信仰を永遠に冒涜したことだ。剰え、それだけに飽き足らず無差別にカタギの一般人の心を恐怖によって傷つけた。前回裁いたグロ画像絵師のE氏の模倣犯は許してなるものか!一族郎党、根絶やし。判決、確定。」執行人たちがF氏を掴み、法廷奥の処刑場へ引きずっていく。そこには毒の入った杯と、家族・親族全員がすでに鎖で繋がれた姿があった。F氏は初めて気づき、絶叫する。
「家族は関係ない! 私一人でいい! 子供たちはまだ小さいんです! 母も父も、妹も、何も知らないんです! お願いです、一族だけは……!」だが、遅すぎた。まずF氏に毒杯が無理やり飲まされる。遅効性の猛毒が体内を巡り、血管が浮き上がり、口から泡を吹きながら激しく痙攣し全身の痛みに悶える。しかし、意識は飛ばず視聴覚が鋭敏に研ぎ澄まされる。体に全体毒が周り始めたところで、連行されていた両親、夫、子供二人、兄弟姉妹、叔父叔母、従兄弟まで――総勢十五名が一斉に斬首台へ。一人づつ順番に刃が落ちるたび、首が転がり、血が噴き出し、F氏は吐血にむせながら言葉にならない金切り声を上げる。幼い子供の小さな首が最後に落ちた瞬間、法廷は静寂に包まれた。血涙を流しながら「美少年が……好きだったのに……本当に……」と呻き、七孔から血を流して絶命。その瞬間をもって処刑が完了した。
F氏の遺体から切り取られた首級と一族の首級はすべて防腐処理され、サブカル界最大のBL投稿サイトのトップページに「デジタル一族根絶やし標本」として永遠に公開される。タイトルは「グロ画像の模倣犯!醜悪BL投下者の末路」。毒で紫色に変色したF氏の顔、斬られた親族の首が整列して晒される。
公開と同時に、反応が爆発した。
「これで悍ましいガチホモ画像テロから解放される……ありがとう裁判所」
「ガチホモ系レイパー獣人作家の一族全滅キター!」
「次は美少年オンリーで描けよ、新人共」
「子供の首まで……でも自業自得」F氏のアカウントは永久凍結。全作品は削除され、電子書籍・同人誌も全国回収・焼却。実名が特定された一族は、生き残りゼロ。遠縁の親戚まで「汚染血族」として就職・結婚差別を受け、ネットで永遠に炎上。遺族の墓すら建立できず、遺体は無縁仏として処理された。
デジタル標本は日々晒され続ける。紫に変色したF氏の毒顔と恐怖に引き攣った一族郎党のデスマスクもそれでも削除されることはない。
美しいBLファンたちの憎悪の象徴として、永遠に残る。
かつて「ガチムチレイプ系も多様性」と開き直った者は、物理的にも社会的にも一族もろとも完全に死に果てて、ただの毒紫の腐敗標本と化した。
法廷の観客席から、美しいBLを愛するファンたちとガチホモレイプにトラウマを抱えた一般ユーザーの静かな涙と拍手が響く。
「これで美少年同士の純愛は、永遠に醜い影から解放された……」
「これでもう、悍ましい筋肉達磨が衆目を侵犯することはない…」
裁判官と検察官は無言で頷き合い、次の罪人を呼び入れる準備を始めた。
美しいBLの聖域は、毒と斬首で守られたのだ。




