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サブカル裁判  作者: 無相
4/9

第三条、百合の花園を踏み荒らすべからず

百合の花は乙女たち同士のプラトニックな愛情、友情、果てはコケティッシュな情欲。

はたまた、どこか神秘的で、部外者は踏み入れざる禁断の花園を連想させる。

創作物の界隈では薔薇の花と双璧を成す聖域の花である。

今回はそんな禁足地を踏み荒らした憐れな愚者の最後をお届けしよう。

第三条。百合に挟まる男を描写、及び流布した者。これを磔刑(たっけい)(のち)、晒し首とする。


冷え切った打ち放しのコンクリートの大法廷。

ホログラムで投影された松明の炎が壁に不気味な影を落とし、静寂の中に無数の視線が集中していた。罪人席に鎖で繋がれ、膝をついているのは、小説投稿サイトで数百万PVを誇った女性向けライトノベル作家・C氏。

三十代前半、かつては「百合の詩人」と称賛され、純粋な女の子同士の恋愛を描くことで熱狂的なファンを獲得していた男だ。

だが今は顔を泥と涙で汚し、肩を震わせ、鎖の音を立てながら必死に頭を下げている。


裁判官は無表情で罪人を見下ろし、その横に立つ検察官が冷徹な声で告げた。

「サブカル法 第三条を読み上げる。」

「百合に挟まる男を描写、及び流布した者。これを磔刑の後晒し首とする。」

C氏は鎖を引きずりながら這い上がり、声を絞り出す。

「お願いです……! あれはただのスパイスだったんです! 百合だけじゃ読者が飽きると思って……少しだけドラマを加えたくて……男を一人挟んだだけで……!」

裁判官が静かに、しかし氷のような声で返す。

「スパイス? 貴様は百合という聖域を、ただの男のハーレム要員に貶めた。乙女同士の繊細で純粋な愛、互いを想うあまりの切なさ、男など一切必要のない完璧な世界を、貴様は自らの欲で汚したのだ!弁明は却下。」

C氏の罪状は、あまりにも許されざるものだった。

彼の代表作『白百合の乙女たち』は、名門高校を舞台に、二人の美少女――清楚な生徒会長・リリカと、気丈な剣道少女・ユキ――のゆっくりと育まれる恋を描いた名作だった。読者は二人の関係に心を震わせ、公式アンケートでも「このまま百合エンドで完結してほしい」が9割を超えていた。

しかし最終巻直前、C氏は突然「転校生のイケメン男子・カズキ」を登場させ、リリカとユキの両方に好意を寄せさせる三角関係を展開。最終的にカズキが二人を「両方守る」と宣言し、百合関係は曖昧にぼかされたまま終了。読者からは「百合を汚すな」「男いらねえ」「裏切り者」と総攻撃を受け、数万件のレビューが低評価爆撃。

ついにサブカル裁判所へ告発されたのだ。

検察官が最後の言葉を告げる。

「貴様の罪は、百合ファンすべての心を踏みにじったことだ。判決、確定。」

執行人たちがC氏を掴み、法廷中央に据えられた巨大な木製の十字架へと引きずっていく。C氏は必死に暴れ、叫ぶ。

「待ってください! 続編では百合オンリーにします! リリカとユキをちゃんとくっつけます! 誓いますから……命だけは……!」


だが、無情にもその声は誰にも届かない。両手両足を十字架に釘で固定される。最初の一撃で右手が貫かれ、血が噴き出す。「ぎゃあああっ!」次の釘が左手に、続いて右足、左足。骨が砕け、肉が裂ける音が法廷に響く。C氏は全身を痙攣させ、血泡を吹きながら絶叫する。


「百合が……好きだったのに……本当に……好きだった……!」最後に、十字架が垂直に立てらC氏の胸に長槍が撃ち込まれた。C氏は血まみれで吊られ、徐々に息が弱まる。観客席の百合ファンたちは無言で涙を流し、祈りを捧げている。やがてC氏の頭がガクンと垂れ、生命活動は完全に終了した。


しかし、刑はこれで終わらない。遺体はそのまま十字架に固定され、首を斬り落とされた後、首級だけが摘み取られる。防腐処理を施された首は、サブカル界最大の小説投稿サイトのトップページに「デジタル晒し首」として永遠に掲示されることになった。タイトルは「百合侵犯者の末路」。


公開と同時に、反応が爆発した。

「これでリリカとユキの純愛が守られた……ありがとう裁判所」

「男挟み作家の標本キター!」

「次は絶対百合オンリーで頼むぞ、新人作家共」

「首が腐っていくのリアルタイムで見れるの草」

C氏のアカウントは永久凍結。全作品は削除され、電子書籍も紙の本も絶版・回収。

実名が特定され、出版社は契約解除。妻は離婚を申し立て、子供は「百合汚染者の子」として学校でいじめられ不登校に。両親はマスコミに囲まれ、自宅に火炎瓶を投げ込まれ、家族全員が町を追われた。


デジタル晒し首は日々腐敗を進める。最初は生々しかった表情も、次第に腐敗が進み、虫が湧く。それでも削除されることはない。永遠の警告として、百合ファンたちの憎悪の象徴として残る。


かつて「少しの男でドラマが生まれる」と豪語した男は、物理的にも社会的にも完全に終焉を迎え、ただの腐敗した首級と化した。


法廷の観客席から、百合ファンたちの静かな嗚咽と拍手が交錯する。

「これでリリカとユキの白百合は、永遠に男の影なく咲き続ける……」

裁判官と検察官は無言で頷き合い、次の罪人を呼び入れる準備を始めた。

百合の聖域は、血と釘で守られたのだ。

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