第一条、みだりに貧乳キャラの乳を盛るべからず
日々賑わうサブカル界隈、その垣根は多岐にわたる。
楽しくもありながら混沌としたサブカルチャーの更なる発展と閲覧者の快適さを人々が追求した結果出来上がったサブカル法。
それは多少の不快な表現も1回だけなら厳重注意、しかし3回以上禁を犯した常習者は執行対象となる苛烈な法律だった。
今回紹介するのは、第一条についてだ。
サブカル法、第一条。
妄りに貧乳キャラの胸を盛り、著しく本来のプロポーションを崩す者。
これを打首獄門とする。
薄暗く冷たい打ちっ放しのコンクリートの大法廷。
中央に据えられた罪人席に、かつてサブカル界で名を馳せたイラストレーター・A氏が鎖で繋がれて座っていた。三十代半ば、かつては数万人のフォロワーを抱え、同人誌即売会では長蛇の列を作った男だ。だが今、彼の顔は青白く、脂汗が額を伝い、膝が小刻みに震えている。
裁判官たちは裁判官席から見下ろす。傍らには執行人たちが無言で立ち、壁にはこれまでのサブカル法違反者の首級が飾られている。法廷の観客席は、貧乳キャラを愛する無数のファンで埋め尽くされていた。彼らの目は怒りと失望に満ち、A氏を冷たく射抜いている。
「サブカル法 第一条を読み上げる。」
裁判官の声が法廷に響く。
「被告人A氏はみだりに貧乳キャラの胸を盛り、著しく本来のプロポーションを崩す者。これを打首獄門とする。」
A氏はガタガタと歯を鳴らしながら立ち上がろうとしたが、傍に立った執行人がそれを制し立ち上がることを許さない。「待ってください! あれはファンサービスだったんです! 貧乳じゃ売上が……みんな巨乳を求めてるってデータが……」
検察官が冷たく笑う。「データ? お前が貧乳キャラの魅力を理解できなかっただけだろう。ふくらみかけの小さな胸やまな板のような平坦な胸のにこそ、ツンツンした態度とのギャップ、コンプレックスを抱える可愛さ、希少価値がある。それを無粋に盛って、ただの量産型巨乳キャラに貶めた。お前の罪は重い。」吐き捨てると続け様にA氏の罪状を淡々と読み上げる検察官。
A氏の罪状は明確だった。彼は人気アニメのヒロイン・ミコを担当していた。原作では「貧乳であることがアイデンティティの一部」といえるほどの絶壁キャラ。公式設定資料でも「Aカップ以下」と明記され、ファンからは「貧乳の女神」と崇められていた。ところがA氏は二次創作で、ミコの胸をEカップ以上に盛ったイラストを連発。しかも「公式よりこっちの方が可愛いよね!」とキャプションを付け、原作タグで拡散。貧乳ファンや原作設定を大切にするファンから猛反発を受け、ついにサブカル裁判所に告発されたのだ。
「異議なし。判決、確定。」執行人たちがA氏を掴み、首を断頭台に固定する。A氏は必死に叫ぶ。「お願いです! もう二度としません! 貧乳を愛します! 本当は愛していたんです……」だが、その言葉は遅すぎた。巨大な刃がロープを伝いゆっくりと持ち上げられる。法廷の空気が凍りつく。
次の瞬間に刃が落ちる。
一瞬の金属音と共に、A氏の首が胴体から離れた。鮮血が噴き出し、首は床に転がって止まる。目はいまだに見開かれ、口は「ごめん……」と動いているようだった。体は痙攣を繰り返し、やがて完全に静止した。物理的な生命活動は、ここで完全に終了した。
だが、サブカル法の刑はこれで終わらない。首は丁寧に拾い上げられると、防腐処理を施された後、獄門台に吊るされる。展示場所はサブカル界の中心・巨大SNSのトップページ。デジタル獄門として、A氏の首は永遠に晒されることになったのだ。
A氏の死に対して即座に反応が殺到する。
「貧乳盛りの末路www」
「これで少しは反省したかな?」
「ミコちゃんの平らな胸が守られた……ありがとう裁判所」
「次はお前らだぞ、巨乳化勢」
口々に大衆は感想を述べ、ある者は彼を嘲笑い、またある者は次は自分が消される番ではないかと震え上がった。
A氏のアカウントは永久凍結。全作品は削除され、名前はブラックリストに登録された。現実世界でも、彼の本名・顔写真が特定され、勤務先は解雇。家族は「貧乳冒涜者の一族」として近所から石を投げられ、引っ越しを余儀なくされた。友人は全員絶縁。誰も葬儀に来なかった。
デジタル獄門の首は屍蝋化を進め、最初は生々しかった表情も、次第に干からび、変色し、皮膚が風化していく。それでも削除されることはない。サブカル界の警告として、永遠に残る。
かつて「巨乳の方が正義」と豪語した男は、物理的にも社会的にも死に、尊厳すら捨て去り、ただの腐った標本と化した。法廷の観客席から、貧乳ファンたちの静かな拍手喝采が起こる。「これでミコちゃんのまな板胸は、永遠に守られた……」裁判官たちは頷き合い、次の罪人を呼び入れる準備を始めた。
かくして、貧乳の尊厳は、血で守られたのだ。




