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悪意の門  作者: 咲作衣
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第二話 門

「それじゃあ移動中に説明を済ませるぞ」


軍用車に乗せられている最中、黒江司郎が口を開く。

車内には様々な機材が置かれており、9人も乗れば狭く感じられる。


ゲートの基本知識は大丈夫か?」

「はい!NFE濃度の上昇によって発生する、異界との通路です!」

「そうだ。今回のゲートは典型的な多重構造型。確認された怪獣は三種、鉄の鼠(アイアンラッド)骨脚戌ボーンハウンド黒鎌蟲ブラックサイズだ」

「あの…」


結音が遠慮気味に手を挙げる。

「どうした?」と司郎が尋ねると、結音は紅音に耳打ちする。


「なんだ?言いたいことがあるならはっきりと言え。情報の伝達速度は戦場じゃ命取りになる」

「…ぁ」

「第五先遣特務隊《この部隊》の仕事は『新種、または未知の門の封界』なんですよね?今の話を聞いている限り、普通の門じゃないですか?」


紅音は結音を守るように間に入り、結音の意見を代弁する。

そのような態度は心外だったが、司郎はこの後を考え追求を控える。


「…ああ、この門はお前の思う通り、一見普通の門だ。だが地下30メートル、第八層付近からレーダーで構造が感知できなくなっている」

「原因はなんですか?」

「不明だ。俺の端末を貸してやるから報告書を見ろ。おい昴真、お前のも貸してやれ」

「了っす!」


司郎の端末を紅音、昴真の端末を結音に貸してやる。

その間、司郎は紅音と結音用の装備を入念にチェックする。

点検もろくにせず急に運んだ代物、調整も済んでいない。

2人は今回後ろに回す予定だが、門内では何が起こるかわからない。

いざという時、2人を活用するプランを司郎は設計する。


白取しらとり、望月。お前らこれ調整してやれ」

「わかりました」

「任せてください」





NFE濃度の急上昇後、周囲の建物を呑み込みながら地下に伸びる形で門は発生する。

現場の周囲では倒壊した建物による瓦礫の海と化していた。

放棄された封鎖区域とはいえ、その光景は双子の心を揺らす。


「こちら五特ゴトク、現場に到着した」

「こちら三総サンソウ、応援感謝する」


司郎と第三戦闘総合部隊の隊長が敬礼を交わす。


「状況を説明してくれ」


司郎が短く言うと、第三戦闘総合部隊の隊長――壮年の男が端末を操作しながら答えた。


「発生から約一時間。第一〜第七層まではデータとほぼ一致しているが、第八層以降の探査が不可能になっている。ドローン反応も途絶えた」

「怪獣の侵攻は?」

「恐らく第三層付近までは上がってきている」

「じゃあ八か九層が最奥層の可能性が高いな」


司郎は入口を注視する。

一見どこにでもある--下手をしたら訓練なんかでも使われそうな門。

故に読めない。

経験上、司郎にとって最も厄介な門だった。


「どうする?合同で封界するか?」

「…いや、いい。五特ゴトクの反応消失から2時間後、封界が完了していなければ一特イチトクと合同で封界を開始してくれ」

「随分と豪胆だな。了解した」


会話が終わると司郎は耳に手を添え、通信を入れる。


『各員、準備に入れ。五特は単独で門内へ侵入する』

『『『『『『『『『了解』』』』』』』』』

『…玲那れなこちら司郎、聞こえてるか?』

『ええ、ばっちり』


司郎は寮に待機するオペレーター、神代玲那かみしろれなに通信をいれる。


『門では通信が繋がらない可能性が高い。三総サンソウのオペレーターと協力してドローンを限界ギリギリまで待機しておけ』

『わかったわ。じゃあもうマップも直で送っちゃうね』

『助かる』


司郎は通信を切り、短く息を整える。


「晴仁、自己紹介したか?」

「いえ、まだです。すみません…」

「ゴタゴタしてたからな、仕方ない。紅音、結音、こっちに来てくれ」


紅音と結音が司郎の呼びかけに応じ、小走りで駆けつけてくる。

瓦礫の山を背にしたその場で、司郎は一人の青年を指し示した。


雑賀晴仁さいがはるひとだ。役割は怪災者(おまえら)のサポート、イロハはこいつに教えてもらえ」

「雑賀晴仁。これからよろしく」

「紅音です。こちらこそよろしくお願いします」

「…結音です。お願いします…」

「あはは、僕に敬語はいらないよ。報告とかも回りくどくなっちゃうし」

「わかり…わかった!よろしく!」


「よし」


司郎は短く頷き、全員を一瞥する。


「紅音、結音。さっきも言った通り、今回は後方待機が基本だ。俺の指示があるまで能力は使うな」

「了解しました」

「……はい」

「晴仁、二人の位置取りはお前に任せる。何かあれば即座に俺へ報告しろ」

「了解」


司郎シローさん。全員準備はオッケー。いつでもいけるよ」


後ろから昴真が話しかける。

見てみると皆既に準備を終えており、終わっていないのは司郎だけであった。


「俺の準備が終わり次第、突入する。それまで待機してろ」

「イェッサー」

「司郎さんおそーい」


司郎はくだらない野次を無視して準備を始める。


瓦礫の山に存在する地肌。その中央で突起のように地面が盛り上がり、ゲートの入口が構えている。

司郎は最後にグローブをはめ、肩口の固定具を確かめる。

装甲の接合部に異常はない。反応も良好だ。


「……よし」


短く呟き、顔を上げる。


「全員、最終確認だ」


視線を向けるだけで、各員がそれぞれの準備完了を示す。

隊員の1人--八神鷲斗やがみわしとは親指を立て、普段通りおちゃらけている。

晴仁は双子の一歩前に立ち、紅音と結音はやや緊張した面持ちで背筋を伸ばしている。


「門内で確認された怪獣は三種だが、この門は未知数だ。レーダーに写っていないだけで他にいる可能性も高い。十分気をつけろ」

「了解!」

「それと結束姉妹は今回戦闘に参加しないことになっているが、いざという時は俺の指示に従え」

「了解」

「それでは侵入を開始する」


短く宣言し、司郎は一歩踏み出す。

それに続き他の隊員も次々門内に入り込む。


「段差があるから気をつけて」

「はい!」


晴仁に続き、紅音と結音が門内に入る。

門の上層、特に入り口はただの土塊。

故に2人は門に入った実感をあまり感じなかった。


「案外中明るいのね」

「怪獣の中には眼に頼る個体もいるから。これはまだ暗い方だよ」


「レーダーによると怪獣は三層付近まで侵攻している。奇襲を警戒しつつ最短で降りるぞ!」

「了解!」


司郎に続き、総勢11人は門の第一層を抜け、地下へと降っていく。


ゲート:

10年前、突如発生した異界へと通じる構造物。

NFE濃度急上昇の318.8秒(平均値)後、周囲の建物を巻き込み構造体を形成する。

多重構造型、縦穴型、逆蟻塚型などが存在するが、共通して地下に形成される。

門の地下から怪獣が出現すると考えられており、門が巨大であるほど怪獣が地上に侵攻するのが遅くなる。

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