第二話 門
「それじゃあ移動中に説明を済ませるぞ」
軍用車に乗せられている最中、黒江司郎が口を開く。
車内には様々な機材が置かれており、9人も乗れば狭く感じられる。
「門の基本知識は大丈夫か?」
「はい!NFE濃度の上昇によって発生する、異界との通路です!」
「そうだ。今回のゲートは典型的な多重構造型。確認された怪獣は三種、鉄の鼠、骨脚戌、黒鎌蟲だ」
「あの…」
結音が遠慮気味に手を挙げる。
「どうした?」と司郎が尋ねると、結音は紅音に耳打ちする。
「なんだ?言いたいことがあるならはっきりと言え。情報の伝達速度は戦場じゃ命取りになる」
「…ぁ」
「第五先遣特務隊《この部隊》の仕事は『新種、または未知の門の封界』なんですよね?今の話を聞いている限り、普通の門じゃないですか?」
紅音は結音を守るように間に入り、結音の意見を代弁する。
そのような態度は心外だったが、司郎はこの後を考え追求を控える。
「…ああ、この門はお前の思う通り、一見普通の門だ。だが地下30メートル、第八層付近からレーダーで構造が感知できなくなっている」
「原因はなんですか?」
「不明だ。俺の端末を貸してやるから報告書を見ろ。おい昴真、お前のも貸してやれ」
「了っす!」
司郎の端末を紅音、昴真の端末を結音に貸してやる。
その間、司郎は紅音と結音用の装備を入念にチェックする。
点検もろくにせず急に運んだ代物、調整も済んでいない。
2人は今回後ろに回す予定だが、門内では何が起こるかわからない。
いざという時、2人を活用するプランを司郎は設計する。
「白取、望月。お前らこれ調整してやれ」
「わかりました」
「任せてください」
◇
NFE濃度の急上昇後、周囲の建物を呑み込みながら地下に伸びる形で門は発生する。
現場の周囲では倒壊した建物による瓦礫の海と化していた。
放棄された封鎖区域とはいえ、その光景は双子の心を揺らす。
「こちら五特、現場に到着した」
「こちら三総、応援感謝する」
司郎と第三戦闘総合部隊の隊長が敬礼を交わす。
「状況を説明してくれ」
司郎が短く言うと、第三戦闘総合部隊の隊長――壮年の男が端末を操作しながら答えた。
「発生から約一時間。第一〜第七層まではデータとほぼ一致しているが、第八層以降の探査が不可能になっている。ドローン反応も途絶えた」
「怪獣の侵攻は?」
「恐らく第三層付近までは上がってきている」
「じゃあ八か九層が最奥層の可能性が高いな」
司郎は入口を注視する。
一見どこにでもある--下手をしたら訓練なんかでも使われそうな門。
故に読めない。
経験上、司郎にとって最も厄介な門だった。
「どうする?合同で封界するか?」
「…いや、いい。五特の反応消失から2時間後、封界が完了していなければ一特と合同で封界を開始してくれ」
「随分と豪胆だな。了解した」
会話が終わると司郎は耳に手を添え、通信を入れる。
『各員、準備に入れ。五特は単独で門内へ侵入する』
『『『『『『『『『了解』』』』』』』』』
『…玲那こちら司郎、聞こえてるか?』
『ええ、ばっちり』
司郎は寮に待機するオペレーター、神代玲那に通信をいれる。
『門では通信が繋がらない可能性が高い。三総のオペレーターと協力してドローンを限界ギリギリまで待機しておけ』
『わかったわ。じゃあもうマップも直で送っちゃうね』
『助かる』
司郎は通信を切り、短く息を整える。
「晴仁、自己紹介したか?」
「いえ、まだです。すみません…」
「ゴタゴタしてたからな、仕方ない。紅音、結音、こっちに来てくれ」
紅音と結音が司郎の呼びかけに応じ、小走りで駆けつけてくる。
瓦礫の山を背にしたその場で、司郎は一人の青年を指し示した。
「雑賀晴仁だ。役割は怪災者のサポート、イロハはこいつに教えてもらえ」
「雑賀晴仁。これからよろしく」
「紅音です。こちらこそよろしくお願いします」
「…結音です。お願いします…」
「あはは、僕に敬語はいらないよ。報告とかも回りくどくなっちゃうし」
「わかり…わかった!よろしく!」
「よし」
司郎は短く頷き、全員を一瞥する。
「紅音、結音。さっきも言った通り、今回は後方待機が基本だ。俺の指示があるまで能力は使うな」
「了解しました」
「……はい」
「晴仁、二人の位置取りはお前に任せる。何かあれば即座に俺へ報告しろ」
「了解」
「司郎さん。全員準備はオッケー。いつでもいけるよ」
後ろから昴真が話しかける。
見てみると皆既に準備を終えており、終わっていないのは司郎だけであった。
「俺の準備が終わり次第、突入する。それまで待機してろ」
「イェッサー」
「司郎さんおそーい」
司郎はくだらない野次を無視して準備を始める。
瓦礫の山に存在する地肌。その中央で突起のように地面が盛り上がり、門の入口が構えている。
司郎は最後にグローブをはめ、肩口の固定具を確かめる。
装甲の接合部に異常はない。反応も良好だ。
「……よし」
短く呟き、顔を上げる。
「全員、最終確認だ」
視線を向けるだけで、各員がそれぞれの準備完了を示す。
隊員の1人--八神鷲斗は親指を立て、普段通りおちゃらけている。
晴仁は双子の一歩前に立ち、紅音と結音はやや緊張した面持ちで背筋を伸ばしている。
「門内で確認された怪獣は三種だが、この門は未知数だ。レーダーに写っていないだけで他にいる可能性も高い。十分気をつけろ」
「了解!」
「それと結束姉妹は今回戦闘に参加しないことになっているが、いざという時は俺の指示に従え」
「了解」
「それでは侵入を開始する」
短く宣言し、司郎は一歩踏み出す。
それに続き他の隊員も次々門内に入り込む。
「段差があるから気をつけて」
「はい!」
晴仁に続き、紅音と結音が門内に入る。
門の上層、特に入り口はただの土塊。
故に2人は門に入った実感をあまり感じなかった。
「案外中明るいのね」
「怪獣の中には眼に頼る個体もいるから。これはまだ暗い方だよ」
「レーダーによると怪獣は三層付近まで侵攻している。奇襲を警戒しつつ最短で降りるぞ!」
「了解!」
司郎に続き、総勢11人は門の第一層を抜け、地下へと降っていく。
門:
10年前、突如発生した異界へと通じる構造物。
NFE濃度急上昇の318.8秒(平均値)後、周囲の建物を巻き込み構造体を形成する。
多重構造型、縦穴型、逆蟻塚型などが存在するが、共通して地下に形成される。
門の地下から怪獣が出現すると考えられており、門が巨大であるほど怪獣が地上に侵攻するのが遅くなる。




