表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/57

50 終章:あなたがここにいてほしい(6)

 久住は、橋本さんの顔を睨みつけた後、フォークとナイフを手に取って、料理を食べ始めた。

 

 それは、5分だっただろうか、10分くらいだっただろうか、もしかしたらもっと短かったかも知れないけど。

 

 ソースまで綺麗にすくい終えて、久住はナイフとフォークを置いた。

 

 無表情な久住の頬に涙が流れ、歯ぎしりの後、両手で顔を覆うと、荒い呼吸はやがて嗚咽に変わった。 



 「……美味いよ」



 誰もが、久住の言葉を、息をのんで聞いていた。

 

 「この料理が美味いことなんて、お前の料理が美味いことなんて、僕は誰よりも分かっていたさ。滅多に出会えないレベルの料理だって。


 知ってるか?


 料理には色がある、料理には音がある、料理には言葉がある。


 その無数の組み合わせを。料理が見せてくれる景色を。

 

 でもな、分かるか?

 

 お前に俺の苦しみが。

 

 料理人を気に入らない、憎いと思ったら。

 

 ずっとその記憶が、感情が、ふとした瞬間に、ささいな切っ掛けで。


 フラッシュバックして。


 僕を追いつめる。

 寝ても覚めても四六時中。

 

 憎くて 

 

 憎くて

 

 憎くて


 どうしようもないんだ。

 お前や気に入らない料理人の存在が、ちらつくだけで、夜も寝られなくなるんだ。


 机を破壊して、壁に穴を開けて、キーボードもパソコンもぶん投げて、叫んで、騒いで、酒を飲んで。


 深夜1時に目を覚まして、睡眠薬を飲んで。

 深夜2時に怒りで目を覚ます。

 それを明け方まで繰り返す。


 大好きな、料理の味さえ分からなくなる。

 

 分かるか?


 この苦しみが、お前に分かるのか?」




 フロアにいた全員を睨みつけ、再び、久住は顔を覆った。




 「すまなかった、食事の邪魔をして」

 



 橋本さんが、そう言って頭を下げた。


 久住が、顔を上げ、再び顔を覆った。

 

 最期の言葉は、許さない、でも、死んでしまえ、でも、殺してやる、でもなかった。


 誰か、助けてくれ。


 それだけ言い残して、微動だにしなくなった久住を、田島警部補と牧島警部は、静かに、レストランから連れ出した。

 

***

 

 「ありがとう」

 隣に立つ橋本さんが、そう言った。

 思っていたのとは、違ったけど。

 

 もう、橋本さんを縛るものはなくなったんだ。 本当に良かった

 

 私は、涙がこみ上げそうになるのを、押しとどめた。


 泣くのはまだ早いや。


 まだ、最期の仕事が、最期のシーンが残っている。

  

 私は百瀬さくらに目配せした。

 百瀬さくらは小さく頷いた。 


 「橋本さん」

 「ん?」

 「橋本さんと、話がしたいと言う人がいます」

読んでいただいてありがとうございます!

残りわずかですが、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ