【症例:カルテ番号×××××××-×××‐×】
登場人物
伊藤・・・「強盗とグラタン」で逮捕された精神科医。
ぐっちゃぐちゃにしてやる。ぐっちゃぐちゃにしてやる。ぐっちゃぐちゃにしてやる。ぐっちゃぐちゃにしてやる。ぐっちゃぐちゃにしてやる。ぐっちゃぐちゃにしてやる。
フォークを繰り返し、繰り返し、木のテーブルの上に置いた橋本一樹の顔写真に突き刺した。
しれっとした顔で料理しやがって。ざけんな。 お・ま・え・は。
いっっっしょうおもてに、でてくんな。
路地裏で一人で老いて絶望しろ。
***
【症例:カルテ番号……】
いや、そんなところまで覚えていない。
刑務所の飯は臭いって、誰が流した噂なんだろうか。
まぁ、ご馳走じゃないが、麦飯だって食べ応えがあるし、牛タン屋に行ってるとでも思ったら、悪くないじゃないか。ま、牛タンもテールスープも無いけどね。
案外、誰かのちょっとした誇張とか冗談とか、ほんの一言とか。そんなものが、そんなくだらないものがきっかけだったりするのかも知れない。
世の中のことは、何にせよ。初めはちょっとしたこと、なんてことない一言。
柴漬けをかじる。
なぁ、橋本さん。
僕は、正直残りの人生はどうでもいいって思ってたけど。困ったことに、一つ、心残りと、楽しみができてしまった。
外に出たら、君の料理をもう一度食べてみたいって。そう、あの共感覚の女の子の解説を聞きながら。
それって、魔法みたいだよな。
だから、君たちが、あんな化物みたいな奴に出会わなければいいなと思っている。
あの、味覚の共感覚を持った、ドス黒い悪魔。異様な偏狭、執着、粘着、それを覆う偽の社会性。
見たことのない性格プロフィール。
本来良くない感情だが、彼の治療医だけは、できれば避けたい。と、医者だった頃の自分は、そう思ってしまった。
「伊藤さん、面会です」
警視庁の田島警部補が来ると行っていた。今更自分に聞くことなど、ないと思うが、一体なんなのか。
***
フォーク、折れちまったじゃないか。
夜景と海を見渡しながら、自宅マンションで飲むワイン。
気分の良いひとときだが
ドス黒い感情が湧いて来てとまらねぇ。
橋本一樹の野郎は、本当にむかつく、本当に本当に、本当に本当に本当に、むかつく奴だった。
僕が、この僕が、せっっかく、「シルフィード」の宣伝をしてあげようとしたのに。
この超有名料理研究家兼評論家兼動画配信者の、この僕が。
それなのに、それなのにそれなのにそれなのに。
僕が君のステーキソースのニュアンスをライブ配信してやったのに。君の料理の美味しさをリスナー達に伝えてあげてやってたのに。
「あ、それに使ったの、そんな高いブランデーじゃなくて、度数高めの料理用赤ワインです。安いけど、料理に使うと美味いんすよ」
ああ、思い出しても腹が立つ。
生配信だよ、生。な、ま。
配信でいちばん気持ちいいやつだよ。
みんな僕を見てるんだ。
そんな細かい素材の話、流せばいい、それだけなのに。
僕、日本だけじゃなくて世界中に、見てる人いるからね。
そういうの、ぜんっぜん理解してない、馬鹿、馬鹿、馬鹿、バカバカバカバカ。
だから、日を改めた2回目の配信で滅茶苦茶にしてやった。あいつの自信作、最高傑作を作らせてやった。
最高に不味かったね。
世界中に、君の料理の不味さを知らしめてやった。
まずいまずいって言ってやって、ああ、気分が良かった。そしたら君は「そんなはずないだろ」なんて、血相変えて突っかかってきて。
それで、自分の料理の不味さに絶望した、あの時の顔は傑作だった。
「何だよこれ……何しやがった」
だって。
「自分で作っといて、どういうことですか? 君、本当にここの料理人? こんな不味い料理、客に出しといてさ」
なんて言ってやろうかな、と思って、選んだ言葉。言った瞬間は月並みだったかな、と思ったけど。
「君、ここにいる資格、ないんじゃない?」
なんか知らないけど、これ、ぶっ刺さったみたいなんだよね。
なに、居場所云々にトラウマでもあったのかね。
血相変えて掴みかかってきてさ。
「そんな言い方ないだろ!」
あー、もう最高の展開だった。
ライブ配信中だったもんね。
あれで、晴れて君はクビ。シルフィードをクビ。
シルフィードとは、アーカイブを残さないことで手打ち。あそこ自体は良い店だからね。
お前の料理の味は覚えたからさ。
オンライン雑誌で、お前の味を見かけた時は本当にむかついた。
表に出てくんじゃねーよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
僕は、お前がどこで料理しようと、見かけたら潰す。つぶす、潰す、つぶす。
お前の料理がこの世に存在すること自体許せない。
とにかく、ムカつくんだ、お前が。お前の味が。
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