36 第四章 アイドルとスープ(6)/悪意
悪意の塊がやってくる回です
秋晴れの空の下、杏奈の通う高校の学園祭は、たくさんの来場客でごった返していた。結局杏奈のクラスの喫茶店併設の焼きパスタ屋台として届け出て、変装版のメイド杏奈とセットで営業することで調整がついた。橘三咲とクラス委員の動きが早かったようだ、依頼しといてなんだが、なかなかの行動力だった。
そして、出張版「三河」は想定以上の集客力だった。校舎内の喫茶店に隣接する中庭エリアで屋台兼オープンカフェスペースとして設置し、10時に開店してから現在13時、3時間の間行列は途絶えなかった。
俺はごつめのサングラスをかけて、黙々とパスタを茹でて焼き続けていた。
クラスの実行委員である杏奈のクラスメイトが駆け寄ってきた。
「橋本さん、ありがとうございます! やっぱりプロってスゴいですね! そして……めちゃくちゃかわいいですね! 三河さんが来れなかったのは残念ですけど……」
「いやいや、貴重な体験をさせてもらって。店の営業の参考になります」
杏奈はそこにいるけどな、と思いつつ、一ミリもばれていないことに改めて驚いた。よっぽど学校と印象が違うんだろう。フリルを揺らしながら、笑顔を振りまきつつてきぱきと配膳と接客を続けている。
……。
やっぱりスカート短くないかなぁ。
ふと、杏奈と目が合った。
眼鏡をかけてないから、よく見えてないはずだが、一瞬少しだけ首を傾げて、笑顔を見せた。
同じような仕草を、アイドルの百瀬さくらがしてたっけ。あの時は何とも思わなかったけど。
百瀬さくらが霞むくらいに……。
いやいや、何を考えてるんだ俺は。
む?
どっかの男子高校生の集団のテーブル、何か雰囲気悪いな。
***
「ねぇ、メイドさん、ここの高校の生徒? 何年生? 滅茶苦茶可愛いね! 店、15時まででしょ? その後、俺たちと遊びに行かない?」
「あー、えーと。個人情報はちょっと……」
う、今日一番の厄介そうなお客さんたち。3人組。長い茶髪の人、カチューシャつけてる人、この季節にちょっと日焼けしてる人。どこの高校かな……苦手なタイプ……。
「そんな堅いこと言わないで……」
フリルの端を掴まれる。ちょっとこれは流石に……。
ごー。
ガスバーナーの音が聞こえた。
「お客さん、すんませんね。うちの店員なんで、注文と業務以外の声かけはご遠慮願えますかね? あと、お客さん並んでるんで、食事終わったなら、次のお客さんに席を譲っていただけると、ありがたいですね」
……。
サングラス姿の橋本さんが、左手にガスバーナー、右手にシェフナイフを携えて、高校生達に笑顔で語りかけた。
げ、黒服いんの? 美味いけど、やべー店?
などとつぶやきながら、高校生3人は席を離れていった。
「あ、ありがとうございます……」
「……うん、まぁ」
こういうのを心配して、お店出してくれたのかな。何か、助けてもらってばかりだな……。
「この席、空きました? 二人ですけど、大丈夫ですか?」
「あ、はい! どうぞ」
声の方に振り返ると、次に並んでいたのは、すらっとした細身の男性と、少しがっしりとした体型の男性二人組だった。すらっとした男性の方は、長めの髪の毛で、切れ長の目、色白の肌、少し中性的な雰囲気だった。少し太めの銀の指輪を、右手にも左手にも嵌めていた。
そして、どこかで見たことがあるような……。
でも、それだけじゃない、何か、強い違和感があった。
不安、不快。
強い、悪意。
嫌な予感がした。
「いや、しかし大人気で、素晴らしいのに、君は相変わらず、客に圧をかけるようなことをしてるんだね。橋本さん」
長髪の男は、椅子に座ると、サングラス姿の橋本さんを見つめて、はっきりとそう言った。
「何をしに……きやがった……」
眼鏡無しでも分かるほど、橋本さんの顔から血の気が引いているのが分かった。微かに、肩も震えているように見える。
「何も。今日は臨時出店だろう? 1日で終わりの店に、できることなんて、何もないからね」
「……お前……まさか……」
「そんな怖い顔しないでほしいな。ああ、料理の邪魔をしてしまった。やっぱり、今日は帰るよ。別の用事のついでに寄っただけだから」
長髪の男が、嫌な笑みを浮かべ、もう一人の男に目配せすると、席を立った。
「パスタ、ちょっと塩辛いんじゃない? 若者向けとは言え、雑な仕事に見えるけど」
「なんだと……?」
長髪の男はそう言って背を向け、立ち去った。
橋本さんが、その背中を睨みつけていた。
見たことのない、強ばった表情のままで。
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