34 第四章 アイドルとスープ(4)/メイド(学園祭)と喫茶店
(登場人物~)
橋本一樹:元有名レストランの凄腕料理人。ひょんなことから、杏奈の実家の居酒屋「三河」で料理をすることに
三河杏奈:味覚に関して、視覚・嗅覚・触覚に共感覚を持つ女子高生(高2)。共感覚阻害のための度が強い眼鏡をしている。眼鏡を外すとやたら美人。橋本は杏奈の初恋の人。
百瀬さくら:今回の依頼人。国民的アイドルグループの「アイスアリス」の中心メンバー。最近は俳優業に傾倒中で、出演映画に出てくる絵本の中のスープの味が分からず、その再現を依頼しにきた。
橘 三咲:杏奈の親友。バスケ部のエース級の選手。理系でさっぱりした性格。
サツキさん:雑誌記者。過去に橋本の料理特集を組んだことがある。雑誌のオンライン版に「三河」の記事を掲載した。
百瀬さくらの衝撃を引きづった月曜日、私は親友のバスケ部エース、三咲を連れて校舎外れの非常階段で、購買部で買ったパンを食べていた。何か込み入った話をしたいとき、二人でここに来るのが恒例だった。
そして、今日は私が三咲を誘った。
「三咲、女性のアイドルにリアルで会ったことある?」
「ない」
「そうだよね」
「なになに、店に来た?」
「……」
いや、お客さんのプライバシーがある。相談したいけど、話すわけにはいかない。
「男の人ってさ、もし目の前にアイドルが来たら……」
「普通は、テンション上がるでしょ。ってか、逆でも同じじゃない?」
「ん~、そうだなぁ……私はどうかなぁ……」
「はいはい。ま、杏奈はもう小4で性癖ねじ曲がってるからね。料理人のマメの有る手にしかときめかないんでしょ」
「ちょっと! 変な言い方止めてくれる?」
「まぁ、橋本さんも男で独り身なら、可愛い子見たらさぁ」
「それが……まぁ、仮に、よ、仮に目の前にアイドルが居たとして……なんか、あんまり反応してなくて……どっちかというと面倒そうにしてたのよね」
がぶり、と三咲がコロッケパンにかじり付く。
「杏奈の前で?」
「え?」
「考えられるとしたら、杏奈のことを気にしたってことかもよ」
「お」
おおお。
「良い風吹いてるんじゃないの?」
「そ、そんな都合の良い話が……」
「ちょっと、涎が出てるわよ」
「さすが三咲、素晴らしい仮説だわ、これだけで、しばらく楽しく生きていける。あの女が現れても泰然としてられる」
「それは良いんだけどさ、何か進展ないの? 毎週一緒にいてさ。橋本さんも若いんだし、捕まえとかないと、良い女寄ってきたら面倒でしょ」
「う……でも……基本、子どもに見られてるし……」
「でもさ、遠くまで迎えに来てくれたり、呼んだら朝ご飯作ってくれたりするんでしょ? それ、嫌いだったら絶対やんないでしょ」
「それはそうだけど……」
それと、何か、最近、前よりももっと優しくなった気がする。強盗の件の後くらいからかな……。
小学生の頃に会ってるって話は、橋本さん、覚えてなくても、プラスだったのかな。
「?」
階段を上がってくる複数名の足音が聞こえた。
「いた! 三河さん!」
同じクラスの、瀬戸さん、立川さん、後藤さん。クラスで目立つグループで、普段そんな関わりはないけど、最近は、再来週の秋の学園祭の実行委員関係で忙しそうにしているのは知っていた。
「お願いがあるの!」
「え、私?」
三咲じゃなくて?
「三河さんの家のお店で、すっっっごい美人のメイドさん働いてるでしょ?」
げっ。
「動画で見たし、口コミも……。こないだ、オンライン版の「ウォーカーウォーカー」にも出てたじゃん?軽くバズってたし。でさ、うちら、喫茶店出すじゃない」
サツキさんの記事……。そう言えばSNSでちょこちょこ拡散されてたっけ……。
「3組も喫茶店なんだけど、最初純喫茶って聞いてたのに、ここに来て、メイド喫茶やるらしいの!」
嫌な予感がする。
「このままだと、売り上げ全部かっさらわれる、当日閑古鳥が鳴く……そんなの耐えられない……」
えー……まさか……。
「それで、お願い。三河さんとこのメイドさん、半日で良いからうちのクラスの喫茶店手伝ってもらえないかな。もちろん、バイト代は出すから! 実行委員権限で回せる予算はまだ残ってるし……」
三咲が、面白いことになった、という顔でこっちを見ているのが、視界の端に写った。
***
「……引き受けたのか……」
火曜日の営業後、杏奈が学園祭で厄介な案件を引き受けた話を聞いた。
「目立つ子たちだし、無碍に断ると気まずいし……それで、今度の日曜日、井上さんのお店に行こうと思うんです。で、もし良ければなんですが、一緒に行っていただけませんか?」
「別に良いけど……何で?」
「ちょっといつもよりも更に別人っぽくしてもらおうと思うんです。それで、私に見えないかどうか、橋本さんにも確認してほしくて」
「別に、普段の店のメイド姿でも全然大丈夫だと思うけど。ってか、他人のふりしなくても良くない?」
「やですよ! 学校で目立ちたくないです!」
あー、まぁ、その気持ちは分からなくはない。俺もそうだったなぁ。
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