表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/57

33 第四章 アイドルとスープ(3)/渇きと首都高

登場人物~

橋本一樹:元有名レストランの凄腕料理人。ひょんなことから、杏奈の実家の居酒屋「三河」で料理をすることに


三河杏奈:味覚に関して、視覚・嗅覚・触覚に共感覚を持つ女子高生(高2)。共感覚阻害のための度が強い眼鏡をしている。眼鏡を外すとやたら美人。橋本は杏奈の初恋の人。


百瀬さくら:今回の依頼人。国民的アイドルグループの「アイスアリス」の中心メンバー。最近は俳優業に傾倒中で、出演映画に出てくる絵本の中のスープの味が分からず、その再現を依頼しにきた。

「美味しい!」

 

 テーブル席に座り、明らかに不機嫌そうだった百瀬さくらは、コーンスープを一口飲むなり、目を見開いてそう言った。

 

 「何これ! え、コーンポタージュよね?」

 俺と並んでカウンターに座った杏奈は大変満足そうに、静かにオムレツとコーンポタージュを交互に味わっている。

 

 まぁ、お腹も空いてただろうしなぁ。

 

 「旬のトウモロコシを潰して、ブイヨンも橋本さん特製の逸品です。美味しいですよねー」

 若干、仕事に比べて雑な説明をしながら、笑顔の杏奈が、スープを飲むのに眼鏡を外した。

 

 「え」

 「お」

 

 百瀬さくらとマネージャーが、同時に声を漏らした。

 「え?」

 

 近眼ながら、視線が自分に集まっていることに気づき、杏奈が怪訝な表情をする。

 

 「ふぅん」

 なにがふーんなのか分からんが、百瀬さくらが俺と杏奈に、交互に視線を送る。

 

 「なるほどね、まぁいいわ」

 そう言って、百瀬さくらは黙々と朝ご飯を食べ始めた。

 

 ***

 

 今回の依頼は、結局、百瀬さくらがあの絵本を読んでイメージする味を再現する、そういう課題と考えることになった。

 朝ご飯を食べ終えた百瀬さくらに、杏奈が例によってヒアリングをした。特に今回は、今食べたスープと比べて、どんな味のイメージかを中心に。

 

 百瀬さくらのイメージだと、もっと濃度があって、のっぺり、ぶつぶつ、少し塩辛く、匂いも強い、という印象だという。

 

 何となく、杏奈と百瀬さくらのやりとりはぴりぴりして見えた。

 

 サツキに続いて、苦手なタイプか……。いや、また仲良くなるのかね。杏奈も、こうしてみるとなかなか難しい性格なんだろうか。いや、商店街でも好かれてるし、店に来る女性の一部とウマが合わないのか……。


 ***

 「まったく、私に邪魔だなんて。信じられない。私を誰だと思ってるの?」

 後部座席で、さくらが不満をつらつらと吐き出している。


 承認欲求の塊。底なし沼。並みいる競合アイドルグループを押しのけて、この時代にトップまで上り詰めた。それでもグループ内で2番手という評価に、乾きを感じ続けている。純粋なアイドル路線では、その座を奪還できそうにない。俳優業は、差別化と新たなファン層獲得のための手段だった。


 彼女が、どこに辿り着くのか見てみたい。この乾きが、彼女をどこに連れていくのか。


 何なら、最悪の破綻でも良い。この業界で、見たこともないような結末を拝めるなら、マネージャー冥利に尽きる。

 

 「あの女の子は、橋本さんが好きみたいね」

 「そんな感じでしたか?」

 「私が、橋本さんに話しかけてる間、ずっっと睨んでたじゃない。まぁ付き合ってはなさそうだけど」

 「恋路の邪魔はしない方がいいんじゃないですか」

 「私、魅力的だったわよね?」

 「ええ、可愛らしかったと思いますが」

 「ふん、そうね。……あの子、思いのほか、綺麗な顔してたわね。あっちの系統が好みか」

 「その可能性はありますね」

 「あのタイプも、嫌いじゃないわ。かわいいじゃない。次はあっちにしようか」

 「ですから、恋路の邪魔はしない方がいいですよ。変な恨みをかうと、厄介です」

 「変な店ね、気に入ったわ。また遊びに行きましょう。何せ……」

 

 首都高は、複雑に入り組みながら、都市の真ん中を毛細血管の様に走り回っている。

 さくらが蜂の巣のようなビル群を眺めてつぶやく。


 「久々に、本当に美味しい料理を食べた」


***


 「イメージつきそう?」

 百瀬さくらとマネージャーが帰り、静かになった店内で、杏奈と二人だけになり、ようやく気分が落ち着いた。朝ご飯をやりなおしたいくらいだ。

 

 「はい、でも……やっぱり不味そうです……すみません……」

 「何で謝る?」

 

 「不味いものをあえて作ってもらうなんて、嫌じゃないですか?」

 

「うーん、確かに、レシピって基本、食べ物を美味しく食べるためのものだからなぁ。あえて不味いってのは珍しいけど……まぁ、何か意味があるのか、そもそも絵本だから意味なんてないのか。ま、逆に興味あるから、やってみようぜ」

 

 俺は杏奈に笑いかけた。

 なにやらぽーっとした顔でこっちを見ている。 


 「……やっぱり、可愛かったですね、百瀬さん」

 なんだ、急にその話。


 そんなに可愛かったか?

 

 「まぁ、テレビのまんま。少し細く見えたくらいか? あ、細いとか、セクハラか。別に、美人具合で言ったら杏奈の方が……」

 

 ……。

 

 「え?」

 「あ、いや、何でもない。厨房片づけてくる」 

 

 いや、俺は何を言おうとしてるんだ。それはちょっと変な意味になるだろ。

 第一、人を比べるのは良くない。良くない発言だ。

 

 ***


 気のせい、だよねぇ。

 さすがに、それはお世辞にもほどがあるし。橋本さんが私を持ち上げる理由なんて……。


 とはいえ、ちょっと、百瀬さくら、要注意だ。 


 かんっぜんに橋本さんを落としにかかってた! 何なのあれ? 

 橋本さん全部スルーしてたけど!


 さすが橋本さん、絶望的に鈍感。


 普通の男性なら、一発だったんじゃないだろうか……。女性の私から見ても、凄まじいかわいさだった。

 あれがアイドルとして磨き上げたスキルか……怖すぎる。

読んでいただいてありがとうございます!

なるべく毎週数回の更新をしています、もしよければ評価・ブクマいただけたらとっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ