29 第三章 強盗とグラタン(11)/燃やして海で撒いた
(前回から)
伊藤(強盗犯)の食べたがっていたグラタンを作った結果、伊藤が語った話とは。
伊藤:強盗犯で精神科医。ルームシェアしていた女性が以前作ってくれていたグラタンを食べさせてkるえたら、事件の動機等を話すと言っていた。
牧島警部:警察庁のキャリアで、特例で警視庁に出向中の女性警察官
田島警部補:警視庁強行犯係の警察官。牧島の部下。
牧島警部と田島警部補が「三河」に来たのは、7月の下旬だった。
内部手続きと、公判の関係で時間がかかったそうな。
強盗犯で、精神科医の伊藤は、グラタンを食べた後、俺と杏奈にも同じ話を伝達することを条件に、動機と当日の行動を話す、と言ったらしい。 動機は、まぁ、聞いてあんまり気分が良いものではなかった。
何なら、杏奈にはあまり聞かせたくなかった。
伊藤がルームシェアしていた、芸術家の女性は、長いこと絵のスランプに陥っていたらしい。やっと描けた絵も、なかなか買い手がつかない。 伊藤が強盗を働いた有名画家は、その女性の芸大の先輩に当たる人で、そして、最悪の取引を持ちかけた。
ある男性の顧客と一対一で会わないか。高値をつけてくれそうだ。
その言葉の意味するところは、まぁ、胸糞の悪い話だ。
その女性が、その取引に応じたどうかは分からないらしいが、最後に一緒に朝ご飯を食べた日、彼女の目が赤かった、と。
それから少したって、自ら命を絶った。遺書も何もなく、もしかしたら、本当に既遂になるまでは考えてなかったのかも知れない。
伊藤の血が沸騰したのは、その画家の個展で、生徒や知り合いの画家の作品と一緒に、その女性の絵も売りに出されていたのを知った瞬間だつた。
後は、まぁ、そういうことだ。
「殺しちゃっても、良かったんだけどね」
伊藤はそう言っていたらしい。
伊藤が本当に狙っていたのは、その女性の絵だった。小さな、A4サイズくらいの絵。1点だけ行方不明になっていたもの。
伊藤は、事件前日にその女性の墓参りをしていた。
事件の次の日、その絵を海に行って、燃やして、まいてきた。
それが、伊藤の話していなかったことで、これ以上はもう、事件に関して話すことはない、と言って口をつぐんだそうだ。
***
田島警部補が、煙草を買って吸いたいそうで、「三河」から少し歩いたところの煙草屋に俺だけおつき合いをすることにした。まぁ、杏奈は牧島警部と仲が良いし、ガールズトークをしてもらおう。
日曜の昼下がり、煙草屋の前の喫煙スポットには、他に誰も客がいなかった。職業柄、煙草は苦手なので、少し田島警部補から距離をとってベンチに座る。
ああ、すまんね、と言って、田島警部補は一本さっさと吸い終える。
「求刑や判決には何か影響あるんですか」
「いや、何も。和久井の恋愛感情と事件の結果は別ですからね」
「恋愛感情、あったんですかね。友人って言ってましたけど」
「おっと、確かに邪推だった。ま、少なくとも、強い気持ちやつながりのある相手、でなければ、社会的立場も何もかもかなぐり捨てた、今回の行動の説明としては、弱いかな、と思うだけです。ま、いずれにしても裁判は淡々と進むでしょう」
「ドライですね」
「大岡裁きってわけにはいかないでしょうねぇ……ああ、そうだ。伊藤から橋本さんに伝言があります」
「何ですか?」
「ありがとう、彼女にもう一度会えた気がした。最高の料理だったと。ただ、問題があったらしいです」
「問題ですか?」
「彼女のより。ちょっと美味かったかも、だそうです」
田島警部補が脱帽状態にも関わらず、敬礼ポーズをとる。
「恐れ入りました、橋本一樹殿。警視庁はこの店を忘れません。何かお困りの時は都民に不公平がない範囲で、しっかりとパトロール等させていただきます」
「そういうのダメじゃないですか」
「ああ、もちろん。ですが、世の中って案外そんなもんでしょう」
大人の世界だな、こういうのって。こういう人、絶対敵に回しちゃだめだよなぁ。
あっ。
「田島さん、もしかして、東大ですか」
「いえ、京都が好きだったので、京大です。でも、実家が東京なので、就職はこっちに戻ってきました。全国転勤はしたくなかったですし」
……。
上には上、ってやつなんだろうな。きっと、こういう、爪を隠して潜伏してる人、世の中にちらほらいるんだろう。
「あ、そうだ」
「?」
「橋本さん、都条例って知ってます?」
「……だからその話は、誤解だし、もう勘弁……」
「真摯なおつき合いなら、警察は関知しませんので」
「?」
「本気で好き合っていて、長い時間をかけておつき合いされ、婚約・結婚も視野に入れるということですかね」
「一体、何の話してんすか?!」
「ん? いや、一般論の話です。とはいえ」
田島警部補が立ち上がり、少しだけ振り向いて笑う。
「まるで2ピースのパズルのようだ。こんなにお似合いな方々も、珍しいように思いますがね。警察だったら、最高のバディでしょう」
……。
「田島さん、なんで警察官になったんです?」
「正義の味方になりたかったから、です」
俺はため息をついた。
一生、この人の底は見えそうにない。
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