26 第三章 強盗とグラタン(8)回復アイテム/一晩寝かせないと
(前回から)強盗犯がルームシェアしていた部屋で、杏奈は料理のヒントを得て……
牧島警部は、マンションの道すがらに見かけた、ちょっと一人では入りづらいなー、という雰囲気の小料理屋さんに連れて行ってくれた。制服姿だと浮くかなと思ったけど、店の奥の半個室のような、二人掛けのスペースで、他のお客さんの視線は気にならなかった。
牧島警部はビールを飲みながら「短期決戦よ。20時までね」と言った。
「私、17歳ですから、もう少し遅くまで大丈夫じゃないですか?」
「そうねぇ、まだ深夜じゃないけど、予定もあるからね」
「え、彼氏さんですか?」
「ふふふ、聞きたい?」
それから、私と牧島警部は予定通り恋バナを堪能した。ちょっと年上のお姉さんと話すのは楽しかったが、橋本さんの話で散々からかわれた。
「あー、もう今日は本当に満足。こんな純粋な恋愛話が現実にあるなんて。小学生時代からずっと好きとか、もうおとぎ話でしょ」
「そこまでじゃないですよぉ……たまにはいますよ、そういう人……」
「いや、三河さんみたいなパターンで再会する人はいないわね、いいなぁ、最高よ。あこがれるわぁ……」
「でも……橋本さんは完全に私のこと、子ども扱いしてるので、まっっったく、その……そういう目で見てくれないっていうか……。」
「でも、ねぇ。私から見る限り、三河さんには特別優しいような気がするけどね」
「え? どういうことですか?」
「あら、20時になるわ、三河さんのこと、保護者のところに送らなきゃ」
「え? 保護者? お母さんは病院ですけど……」
「うふふ……もう一人いるじゃない、三河さんのこと、やたらと気にかけている人が」
……。
えっ。
どういうこと?
耳が赤くなった私を、牧島警部が非常に満足そうな笑顔で見つめていた。
***
「お仕事、大丈夫だったんですか?」
「朝からのシフトに変えてもらってたから、大丈夫」
恵比寿駅の改札に立つ橋本さんを見て、何だかすごくホッとした。牧島警部は、話しやすい人だったけど、やっぱり警察の捜査協力っていう気持ちはどこかにあって、緊張していたんだな。
「疲れたんじゃないか?」
「大丈夫です! 今、疲れがとれました」
はっ! しまった。
振り向くと、牧島警部が、両手で顔を覆い、笑いをこらえている。
「そんなわけないだろ、どういう仕組みだよ、何か回復アイテムでも持ってんの?」
「な、何でもありません! 回復アイテムって何ですか? 牧島さんも笑わないでください!」
「……くく……すまない……いや、橋本さん、今日は半日、三河さんをお借りしてすまなかった。私にはまったく分からなかったが、彼女はヒントを見つけたようだ。もし、料理が完成しそうだったら、私か田島警部補に連絡をしてほしい。それじゃ」
一度、私たちに背を向けようとした牧島警部が、立ち止まって、ひょいと私の耳元でささやく。
「それくらい、分かりやすいボール投げまくった方が良いわよ。やっぱり相当な難敵だわ」
***
夜の山手線は混んでいたけれど、タイミング良く二人分の席が空いて、神田までの30分弱を座って移動することができた。
「わざわざ、シフト変えなくても大丈夫だったのに……」
「何かあったら、行くって約束してたろ」
「あ」
口約束みたいな、会話の流れ上の話かと思っていた。
「何か、気を遣わせてちゃいました、すみません」
「杏奈に何かあったら、女将さんに顔向けできないからな」
そこかぁ。やっぱり保護者感覚っぽいな。
でも、十分、贅沢か。
「で、収穫あったんだろ?」
「そうなんです! 使ってる材料は、これで間違いないと思います」
私は、橋本さんにスマホのスクショを見せた。
「……!」
橋本さんが、じっと画面を見つめていた。
「分かった。どんな料理か。なるほどなぁ……。そう来たか」
「どんな料理になるんですか?」
「そうだな……、じゃあ、次の日曜日の朝ご飯にするか。一晩寝かせないと、条件も整わないしな」
橋本さんが、楽しそうな笑顔を浮かべた。
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