表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/57

23 第三章 強盗とグラタン(5)/手のタコ/ハツコグヘ

(前回から)高校まで送っていくことにしたようです。

 少し時間調整が必要ということで、なにやら元気になった杏奈を連れて、駅中のハンバーガー屋で早めの昼食を取った。若干店員の視線は気になったが、田島警部補に比べればなんてことはない。

 

 「なんですかこれー! 美味しい!」

 「ここの、手作りなんだよ。美味いだろ」

 やっぱり、お前は美味いもん食って笑ってるのが似合うよ。

 あれ、何か俺、ずいぶんほっとしてるな。

 

 「橋本さん、この後、帰っちゃいます?」

 「ん? まぁ、仕事15時からだから、どっかで時間つぶすけど……」

 「じゃあ……その……学校まで一緒に行きません?」

 「いやいやいや、ダメだろ! 怪しいって!」 

 「近くまでですから。ほら、も、もしかしたら、今後学校で何かあって、お店の開店時間にちょっと間に合わなそうって時に、その……お迎えを御願いしたりとか……」

 む……。そりゃ、ありえない話じゃないけど……。

 

 「あ、すみません、ずうずうしかったです……」

 「いや、まぁ、何があるか分からないし……女将さんに何か頼まれるかも知れないしな。ほんと、近くまでだからな」

 「ほんとですか! やった!」

 

 ダメだな、ちと甘いだろうか……。

 まぁ、杏奈が元気になったから、良いか。こいつが元気じゃないと、店の営業に支障があるもんな。

 

 ***

 新宿三丁目駅で降りると軽やかに改札を出てC4出口に向かっていく杏奈の後についていく。ちらちらとこちらを振り向きながら、ご機嫌そうな様子である。

 地上に出ると、正午前の爽やかな日差しが目に染みる。杏奈は横断歩道を渡って、有名なシアトル系コーヒーチェーン店と商業ビルの間の小道を進んでいく。新宿駅や新宿御苑も遠くない。なかなか洒落た立地だ。

 小道を進むと、途端に視界が開け、目の前に白い背の高い高校の校舎が姿を現した。新宿区の街並みにあって一際存在感を放つ、堂々とした、立派な建物だ。

 やっぱりここか……。

 

 「お前、頭良いんだな……」

 「え、な、何ですか?」

 「いや、何でもない」

 

 俺は社会人だ。社会人としての経験や知識がある……。

 

 「かなり苦労しましたよ、受験。勉強しすぎて、最後は目や鼻から出血してましたから」

 へぇ。

 確かに、基本的に根性あるよな。

 

 「やりすぎると、そうなるよな。俺も料理で経験あるわ」

 杏奈が振り向いて笑う。

 「だと思いました。手のタコ、凄いですもんね」

 「へ?」

  あ、赤羽駅前で指掴んだ時か。ごつごつしてるもんな。


 「あ。何でもないです」

 急に頬を赤くして、手で顔を扇いでいる。歩いて暑くなったのか? 忙しいやつだな。

 「ちょっと、校門まではぐるっと回っていく感じです」

 なるほど、直線的には行けないのな。とはいえ、めちゃくちゃ良い立地だな。

 横断歩道を渡り、校門が見えてきた。


 「そこが校門になります」

 「了解、場所はよく分かった。何かあったらここに来るわ」

 「これからお仕事ですね」

 「ああ、三河にはまた明日の午後に行くから、それじゃ」 

 「あ、橋本さん」


 駅の方に引き返そうとすると、杏奈に呼び止められた。


 「ん?」

 「えーと……その……お仕事がんばって下さい。また明日、待ってます」

 「何だそりゃ、いつものことだろ?」

 「あ、そうですね。何となく……平日の午前中に会うのは、初めてだったから」

 「そういやそうか。基本、土日か平日夜だもんな。……って言ったって、別にいつ会っても同じだろうに」

 「ぜ、全然違いますよ! 制服姿も初めてじゃないですか……あー、もう、何でもないです」

 

 何でもないです、の後に、ほんと、鈍感だ、と聞こえた気がしたが、気のせいか?

 杏奈は校門の方に向かったかと思うと、すぐにまた振り返ってこっちを向いた。

 

 「いえ……これはこれで似合ってますか?」

 「まぁ、年相応なんじゃない。高校生だし」

 「ぬぁー! よく分かりました。そういう感じですね。子供扱いして……」

 「あれ、杏奈?」

 

 校門の方から、スカートにジャージを下履きした、ショートカットの快活そうな女子高生が一人駆け出て、杏奈の背後から声をかける。

 「あ、三咲……どうしたの?」

 「弁当忘れちゃって、先生に許可もらったから、ちょっと急いで家に帰るとこ。昼休み中に往復せねば……ん?」

 

 三咲の視線が俺に注がれる。 

 不意に、三咲の目が一際大きく見開かれた。

 

 「あー!! この人、あれでしょ? 杏奈のハツッコぐへっ!」

 

 杏奈が振り回した鞄が三咲の鳩尾をえぐる。

 

 「お……おい……何してんだ……!」

 人に暴力はダメとか言っといて……!

 いや、これが最近の女子高生のコミュニケーションなのか?

 

 「な、何でもないです! 三咲、購買部でパン買おう、パン! おごってあげる、今日は特別! 橋本さん、また明日!」

 「お、おぉお……」

 杏奈が、うめき声を上げる三咲の手を力強く引きながら、校舎の方に去っていった。

 

 ……。

 

 事件と言い、杏奈と言い、分からないことだらけだ。

 杏奈は三咲に俺のことを話しているようだつた・

 ハツコグヘとは、一体……女子高生に流行してる隠語か? 俺はどんな噂を流されてるんだ?

 しかし、鋭い鳩尾への攻撃だった。

 今後は怒らせないように気をつけよう。


 ***

 

 「へー、なるほどー、ああいうのが好みなんだねー」

 三咲はコロッケパン、ミックスサンド、バターあんパンを並べて満面の笑みを浮かべていた。

 誤算だった、まさか昼休みに、あのタイミングで外に出てくるとは……。誰もいないと思ったのに。

 

 「もう、本当に勘弁してよ。何てこと口走るのよ」

 「ごめんごめん、だって、実物見たらテンション上がっちゃって」

 

 須藤三咲は豪快に笑っている。

 親友と言って良い関係だが、何故うまが合うのかは今でも分からない。三咲はバスケ部のレギュラーで、校内でも女子のファンクラブがあるとの噂のスポーツ理系少女。他方私は文系帰宅部メガネのモブ系女子で、三咲のファンの一人と思われているらしい。が、三咲がバスケをしている姿は実は見たことがない。1年、2年と同じクラスで、席が近く、私は国語と英語を、三咲は科学と数学を、それぞれ教え合う関係で……勉強の話の合間に年頃の女子が話すとしたら、畢竟、恋バナにたどり着くわけで。

 

 「いやー、でも良いなー。小学校時代からの初恋の人と再会して、そんで自分の家に週3で来てご飯作ってくれて、目下母親も不在って、どんな乙女ゲーよ。あー最高、鼻血出るわー、いーなー」

 「ちょ、ちょっと! 三咲、声が大きい!」

 「しかも、こないだ泊まったんでしょ? 家に、好きな男を……」

 「そ、そんなんじゃないって! お母さんにも許可取ったし……」

 「どうせ、襖越しに様子をうかがってたんでしょ」

 

 うっ。

 

 「そ、そんなことしてない……」

 「布団片づけるときに匂いかいだでしょ」

 

 ぐはっ。

 

 「おおー、顔が赤いですなー。いやー、これはもう、ほんとに昼飯が美味い。いーなー、楽しそうだなー。あー、今日は良い日だなー」

 

 く……圧倒的に弱みを握られた気分だ……。

 

 「で、今日は優等生の杏奈嬢が学校をさぼって二人でデート後に御登校でございますか? な、なんという……」

 「だから今日は家の仕事だってば! 言ったじゃないの!」

 「それにしては随分楽しそうに、高い声でお話してらっしゃって、別れたくない感じダダ漏れでしたがねぇ。いやー、女子だなぁ……」

 

 ああ、もう、何という昼休みだ……。

 

 「ほんとに、誰にも言わないでよ、もう。橋本さんは、私のこと何にも覚えてないんだし……」 

 「話すわけないじゃん。こんな楽しいこと、絶対独り占めしときたいもん」

 

 三咲は軽くウインクした。

 軽い口調だけど、嘘はつかないんだよね。

読んでいただいてありがとうございます!

なるべく毎週数回の更新をしています、もしよければ評価・ブクマ、感想等いただけたらとっても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ