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18〜20

18 


あたりが目もくらむような光に包まれた後。それは私の予想外の形で見せつけられたのだ。


「ノイズ!」


光が収まって、人々の目がまともに機能するようになった時に、私は自分をかばっていたのがノイズだった事に気が付いた。

ノイズと同じ背格好だったからだ。

でも……なんだか違う人のような何かがその人にはあった。一体何なのだろうと思いつつも、私は彼を見上げた。

彼は私を抱き込むようにかばっていたから、体が離れてやっと顔が見えたのだけれども……あれ。


「あなたは、誰……?」


私はノイズだったはずの人を見上げて、心底困惑してそういうしかなかった。

見た目が大きく違っていたのだ。ノイズは忘れられないほど厳つい顔をしていて、貴族的と言うよりも騎士的と言った方がいい雰囲気をにじませていた。

でも目の前の男性は、どこか貴族的な高貴な雰囲気をにじませている。

じゃあノイズではないのでは、とも思うのに、何かがこの人はノイズに間違いないという。

これはいったい。


「ま、まさか……」


「第三皇子の呪いが……」


「解除された? 白百合姫の怒りが解けたと?」


人々はざわついていて、その彼等の言葉が何か、私の知らない事情を知っている風だった。

そして、ノイズ越しに見る第二皇子の顔色は悪くなっていて、今にも倒れそうだった。

こんな事が起きて、誰が場を収拾するのだろうと思っていると、こう言う時に立ち直りが早い事も美徳なのか、皇帝が高笑いをしてこう命じてきたのだ。


「第二皇子は衝撃のあまり少し乱心しているようだな。……落ち着かせるために、衛兵、第二皇子を部屋に連れて行け」


「そんな……ばかな……あの呪いは……」


ぶつぶつと第二皇子が何か言っているけれど、確かに客観的に見たりすると、第二皇子の求婚からの抜刀は乱心といっても過言ではないので、兵士達が速やかに彼を引っ張っていく。

青ざめた顔の彼はそれに従っており、残された私達を見て、皇帝がこう告げてきた。


「第三皇子。お前も背中の怪我の手当を受けるように。そしてレイラ嬢。あなたのために部屋を用意した、そちらに今日は泊まって行かれるがよい。色々と混乱しているご様子だ」


「じゃああたしも一緒だね」


おばあさんが有無を言わせないというようにそう言ってきたので、皇帝は頷いた。


「無論、魔女殿もお泊まりになられるだろうと、二人部屋を用意させていただいた」


「じゃあ、もう面倒だ、さっさと案内しておくれ。いくよレイラ」


「はい」


そういう混乱の中、場を落ち着かせた皇帝に一礼して、私はおばあさんと部屋に案内されていき、ノイズの方は手当を受けると言う事で、退場していったのだった。



19

「まったく、あんな馬鹿が第二皇子だって事に驚きだよ」


おばあさんはずっと、第二皇子の乱暴さというか短慮さというかに、怒っていた。

まあ、結婚相手を発表する場面で、その結婚相手を間違えていただけでなくて、すぐに矛先を変えて求婚して、それが拒否されたら斬りかかって、というのは誰だって驚くだろうし、問題大ありだと思うに違いない。

私も、あの矛先の変え方で、第二皇子への好感度は一気に下落したのだ。

それまでは、ちょっと間違いをしただけの人という感じだったのに、それまでは愛情深い瞳でマリエラさんを見ていたのに。

マリエラさんが偽物だとわかった瞬間からその色がなくなって、無感動になっていたと思ったら、私に向かってキラキラした目を向けてくる、というのは拒否感が強く出る態度の変え方だったのだ。


「まさかここまで問題を起こすとは思わなかったよ。あんたの義姉さんも相当にやばい女だったけどね」


「あんな形で激高するとは思わなかった」


「そりゃそうだ。あんたは義母にも義姉にも誠実にしていただろうからね。全く、あんたが何も悪くないのに、あんたへの周りの態度であんたに悪い感情を向けて、なんて馬鹿らしくてたまらない。客観的に見りゃ良いんだ」


おばあさんの悪口はさらに続いて、相当に怒っている事が伝わってくる。


「さて、あんたは帝国の貴族が知っている事を、全く知らないようだから教えておくんだけど、第三皇子を、あんたはいくつだと思っていたんだい」


「十歳前の子供です」


「見かけはね。第三皇子は、第二皇子のとばっちりで魂が分離してしまった被害者なんだよ」


「ええ……?」


「あんたはノイズって呼んだ男がいただろう。あれは第三皇子の一部というか、八割なんだよ」


「それってどういう」


「この問題のすべては、帝国の第二皇子が側室の生まれだって事が始まりだ」


おばあさんはそう言って、寝台に腰掛けて、私にも座るように促して、昔話を始めたのだった。




そもそも、帝国の皇族は女神である白百合姫の加護を受けることができる。それは帝国どころか、周辺諸国の常識だ。

でも第二皇子は、きちんと皇帝の血を引いているのにも関わらず、女神の加護を持っていないで生まれた訳ありだ。

だが側室を正室よりも優先していた皇帝は、この事など関係ないと言わんばかりに、第二皇子を溺愛し、側室を溺愛した。

そんな時に、正室が懐妊した。そして生まれたのが第三皇子だ。

この第三皇子は、生まれてすぐに女神の加護がある事がわかった。それがあらゆる人外の存在と会話ができる、対話という加護だった。

これは名君が持つとされている特別な加護の一つで、神々とも会話ができる事から、神と言葉を交わすものと敬意を持って呼ばれる加護でもある。

これに側室が嫉妬し、それが第二皇子に伝播した。

そして弟は素晴らしい加護をもらったのに、自分はそんなものが何一つないと言う事に耐えきれなくなった第二皇子は、同じように考えた側室とともに、禁じられた神々の召喚を行おうとして……見事に失敗した。

そして女神白百合姫は、自分を無礼に呼び寄せようとした第二皇子とその母を罰しようとしたわけだが、これに第三皇子が割って入った。

対話の加護で、どうかどうかたった一度の過ちを許してほしいと懇願したんだ。

それは、皇族が神罰を受けたならば、帝国の権威がゆらぎにゆらぐとわかっていたからの行動でね。

第三皇子は必死に対話を使って、白百合姫に謝罪して、懇願して、白百合姫が対話の加護を持つ第三皇子がそこまでいうなら、と条件をだして許す事にした。

それが第三皇子が人間と会話できないように、声を奪う事と、それから不完全に生き続けなければならないように、魂を分けると言う事だった。

第三皇子はそれを受け入れ、以来成長する八割の魂と、成長しない二割の魂に分けられ、言葉を失った。

そして、八割の方には呪いがかけられて、ノイズという権力を持つ事のできない存在にさせられた。ノイズが騎士に見えるのは、皇族として扱われない結果だよ。

すべて第二皇子の方が悪い。でも第三皇子の方に白百合姫の呪いが背負われたから、帝国の人間は第三皇子の方を厭い、いないもののように扱ってきた。


だが、この前神託が下った。秘宝たるガラスの靴が帝国に戻り、帝国の皇子の命を救う乙女が現れ、呪いが解かれる……とね。

そしてさらにもう一つ。

白百合姫は火の鳥を導きにする、とね。

ん? 後の事は知らないよ。知っている事はこれくらいさ。



おばあさんはそう言って長い話を終わらせて、こう続けた。


「そして神託は当たった。ガラスの靴は帝国に戻った。第二皇子の命を救ったのはその持ち主だった。そして第三皇子の呪いは解かれた。……火の鳥が導いたってのは、あんたの方がわかってんじゃないのかい」


「!!」


言われて、私は少し考えて、はっとした。

もしも、だ。

もしも火の鳥が起こした火事に、私が巻き込まれていなければ、どうなっていた?

私は第三皇子と会うこともなかっただろうし、きっと義母さん達に丸め込まれて、ガラスの靴の持ち主だと名乗り出る事もなかった。

いいやそれと違って、私は家から追い出されず、帝国のお城に来る事もなく、結果的に呪いが解ける事もなかったのでは。

……火の鳥が、導いたのは間違いなかった。火の鳥がすべてのきっかけの一つだった。

私の運命を変えたのは、間違いなく……火の鳥だ。

それ以上の事が言えなくなった私が黙ると、おばあさんは言った。


「まあ、あんたがこの先どうしたいかにもよるだろうけれど、あんたの選択をあたしは否定しないよ」


「……」


「それに、あんたみたいな訳ありは、ちゃんとこの魔女様が守ってあげるから安心おし。あんたは働き者だから、重宝するんだ」


にやっと笑ったおばあさんの笑顔に、私はちょっとだけ緊張がほぐれて、眠ることにしたのだった。



20


それから私は、おばあさんと一緒に森に戻った。伝聞になるのだけれど、義母さんとマリエラさんは、帝国をだました事を重く見られて、あんなに大事にしていた貴族の地位を剥奪されて、財産も没収されて、どこかに追いやられたそうだ。

そしてフィリエルさんは、義母さん達を必死に止めた事で、義母さんの怒りを買い、監禁されて衰弱していたところを、婚約者のドリスさんが助け出して、そのまま同居していると言う。

そしてまず、何で王国で第二皇子を私が助けた事になっていたのかというと、これがまたあきれた事に、第二皇子は身代わりを舞踏会に送り、自分は賭博場で遊び歩き、その結果ごろつきにやられて倒れていたところで、私の馬車がぶつかったのだという。

元々轢いていなかったのだ。

そして治療したジョルダン先生が席を外したところで、ジョルダン先生に相談に来ていたハズバンド先生が来て、そこを第二皇子を探す人達が発見し、本当に助けた医者がジョルダン先生だと知っていたのが、第二皇子と私だけになっていたと言う事だった。

あれから第二皇子はいろいろ人前で醜態をさらしすぎたと、謹慎状態になって、落ち込んで暮らしているらしい。

皇帝は、ガラスの靴の本物の持ち主の私に、誰か息子の妻になってほしいと言ってきたけれど、私はそれに対して


「私に誠実にあろうとしてくれる方と、交流を深められたら考えます」


と言った。なんだか皇子に夢を見られなくなったので、誠実な人柄だと思えるようになって初めて、そう言った相手としてみられる気がしたからだ。

皇帝の方も、いきなり斬りかかられたりした私に配慮してくれて、それ以上の命令をしなかった。

そして……


「調子はどうだろうか」


「お天気も良いですし、まずまずですよ」


魔女の森には、しょっちゅう第三皇子のジョエル様であり、ノイズである人が様子を見に来てくれる。

とても真面目に受け答えしてくれるので、私も安心してしゃべる事ができる相手だ。


たぶんだけれど、私はこの人に惹かれていくのだろう。

でも、それはガラスの靴を履いて、人身事故を起こした結果ではなくて、私と彼がお互いを知っていって選ぶかもしれない未来だ。

私は不運な身の上だったかもしれない。

でもこの締めくくり方に、満足してこれからも、この森でおばあさんの手伝いをして、生きていくのだ。



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