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シンデレラは、人身事故を起こしてしまった!!  作者: 家具付


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09〜11

09


皇子様との面会も終わり、私はついに帰宅する事になった。もう何ヶ月も家を留守にしていたから、今、家がどんな状況になっているのかがとても気になっている。

義母さんは新しい使用人を雇っていて、私のやっていたいろんな雑務が、もう私の管轄外になっているかもしれない。

でも私の家はあそこだけなので、そこに帰るしかないのだ。

雇われた人に、自分の居場所のようなものや、仕事を奪われるのは正直不安しかないのだけれども、大火傷を負ったからなので、ある意味諦めるしかない事かもしれない。

それに私は、養子縁組をしていないので、心の中で父の再婚した人を義母さんと呼んでいるけれども、本当の家族というくくりではないのだ。

父の娘、ではある。

でも、義母が生活の面倒を見る対象ではないのだ。法律的には。

それでも、使用人がいないから、と言う理由で家に置いてくれていたし、父の遺産と商会の利益で生活しているから、義母さんも私を追い出すと言う事をしないでいてくれたのだ。

義母さんが、父の物で生きている間は、私を簡単には追い出さないだろう。

戻ってきて早速、大量の仕事を命じられるかもしれないが。

と、思っていたのに。

義母さんが父に買い戻してもらった、義母さんの生家であるお屋敷は、今日やたらに人が行き交いしていて、なんだかとても忙しそうだった。

こんな時期に、何か行事ってあっただろうか。

そんな事を私が思いながらも、たくさんの人が屋敷の中に、きれいに包装された物を運び込んでいる。

これは、あれか。

フィリエルさんかマリアナさんの婚約者が、贈り物を用意して贈ってきてくれているのか。

なるほど、本物の貴族の資産家は、何かなくても婚約者のために贈り物をしてくれるのだな。確かに、何も贈らないとか、最低限の贈り物とかだと、悪い噂になりがちだし、いろんな意味で積極的に贈るんだろう。

そう私は納得して、玄関を入ると。


「あら、お帰りなさい。レイラ」


いつもよりも少しだけ顔のこわばった義母さんが、贈り物の置き場所を指示するために玄関ホールにいて、私を見てそう言った。


「ただいま戻りました、奥様」


私は義母さんにそういった。養子縁組もされていない私が、義母さんを呼ぶ時は奥様が一番正しいのだ。

頭を下げて、おとなしくしていると、義母さんが私に近付いてきて、こういった。


「ねえ、レイラ。あなたのおじいさまやおばあさまが、あなたをとても心配して探しているの」


「えっ……」


私は思ってもみなかった言葉に、目を見張った。父さんと母さんと、どちらのだろう。

どちらにしても、縁を切ったような物である相手で、手紙すら私はやりとりした事のない相手だ。

その親族が、私をとても心配している、探している。

これは、義母さんに隠し子がいたとかいう冗談よりも、信じられない事だった。


「おじいさまと、おばあさまが?」


「そうよ。あなたの事故の話を聞いて、孫娘が不憫だからと、あなたを家に呼んでいるの。おじいさまもおばあさまも、家を離れる事ができないからと、使いの人を我が家に来させたの」


「……私の、家族が?」


「そうよ、レイラ。あなたのおじいさまとおばあさまよ」


ああ、なるほど。義母さんの顔がこわばっていたのは、この驚くべき知らせを伝えるためだったんだろう。

亡き夫の絶縁したような両親が、孫を引き取りたいと申し出てくるというのは、驚く事以外の何者でもないに違いない。

そして、私にとっては、父さんが亡くなった後ずっと、夢見ていた話だった。

だってこの家では、どれだけ頑張っていても、養子縁組をしていないから、夫の連れ子以外の何物でもなくて、義母さんの義理の娘という事にさえなっていなくて


「きれいな物は貴族である私の娘達にふさわしい」


と言う理由で、たくさんの父さんや母さんの形見の物が取られていって、思い出としてすがる物もあんまりなくて。

いつか、父さんか母さんの家族が、私を家族だと迎えに来てくれないかと、この生活に諦めが出てくるまで、ずっと夢見て願ってきていた事だった。

だから、義母さんの教えてくれた事はとてもうれしくて、私は笑顔で頷いた。


「はい! 私、おじいさまとおばあさまのところに行きます!」


義母さんは、あまり私の事が好きじゃなくて、でも夫の連れ子だから、家に置いていたわけだから、私が行くというのは問題ない話だろう。

養子縁組をしていなくても、世間体というものがあって、夫の連れ子を夫が死んだ後身ぐるみ剥がして追い出すというのは、貴族の名誉を傷つける悪い噂になる。

だから、私が使用人のように働くというのは、ギリギリのところだった事も、私は知っていた。

義母さんは私の顔が気に入らないのだから、夫の両親もしくは、前妻の両親が孫を引き取りたいと言うから、孫をそちらに返すというのは、貴族の名誉を傷つけない。

それどころか、善行ともいわれる行動だ。

それに、二人の義姉さん達の婚約者はお金持ちの家なので、この家の援助だってしてくれるだろうし、父さんの残した物だってまだたくさんあるはずなので、私をおじいさまとおばあさまの元に返しても、新しいもっと優秀な人を雇えるだろう。

今までは、最低限の人数でまわすしかなかった事だって、援助があればもっと優雅に暮らせるわけだし。

一人いなくなったところで、どうとでもなる家になるに違いない。

私の即決に、義母さんは微笑んでから、こういった。


「おじいさまとおばあさまは、早く孫娘に会いたいそうで、連絡をすれば夕方までに、あなたのお迎えが来るわ」


よかったわね、と義母さんは言うから、私は頷いた。


「はい! おじいさまとおばあさまに会えるのが楽しみです!」



10


事実夕方になる前に、お迎えの馬車がやってきた。お父さんの方なのか、お母さんの方なのかは、わからなかった。

でも、貴族だったら紋章がついたものを送ってくるはずなので、私は貴族の娘だった、とかいうロマンス小説の人間のような出自ではないのだろう。

私はまだ見ぬ祖父母という事で、浮かれて馬車の中に入って、ふと馬車の窓から、義母さんが御者から何かの袋を受け取っているのを見た。

あれは何だろう。

誰に尋ねるわけにもいかなかったので、私はそのまま馬車で出発したのだった。




おかしいと気が付いたのは、ある程度馬車が進んだ後に止まって、扉が開くと泣いている若い女の子が入ってきた時だった。

私のおじいさまとおばあさまのところに行く馬車に、どうしてほかの女の子が乗ってくるんだろう。

この子も、私のいとことか、そんな関係なのだろうか。

でも女の子は、目を真っ赤にして泣きはらしていて、ただ事ではない雰囲気だ。


「うう、っ、うう……」


「どうして泣いているの?」


私は荷物の中から、ハンカチを取りだして彼女に渡した。彼女は袖で涙を拭いていたから、びっくりした顔で私を見て、それから小さな声でこういった。


「あなたは、悲しくないの?」


「悲しいってどういう事?」


「だって、あなた。もう二度と、家族と会えないのよ」


「えっなんで? だって私、おじいさまとおばあさまのところに連れて行ってもらえるのよ」


「えっ……」


言われた事の意味がわからなくて聞き返すと、彼女の方も目を見開いて、私を見つめてきた。

「あなただまされたのよ」


「だまされた?」


「そう。あなたは、きっとそれなりの家の女の子だったのね。それなりの家の子は、この馬車の意味なんて知らないもの」


「……えーっと、教えてもらえたりする?」


「うん。あなたも私も同じ運命だから」


若い女の子がそう言って、口を開いた時、また馬車が止まって、女の子と同じくらい泣き濡れている、真っ青な顔の女の子が入ってきた。

その子は青ざめた顔で、じっと馬車の窓を見つめて、かたかたと震えていた。

その子を、彼女は見た後に言う。


「この馬車はね、俗に言う人買いの馬車なの」


「人買いは国で禁止されているよ」


「そう。だから世間的には、お給料を十年分前払いして、女の子を働きに出すっていう名目で行われている事なの。実際は、二度と家に帰れない地獄の片道切符よ」


「……何それ……」


私はおじいさまとおばあさまのところに行くと聞いていたのに、事実は大違いであるらしい。

「この馬車に乗ったら、もう二度と家族に会えない。普通の女の子に戻る事だってできない。そういう馬車なの。あんまりお金のない、生活に困っている家の人間の、最後の手段の一つよ」


「でも、十年働いたら、前借りしたお給料の分は働いた事になるから、自由になれるんじゃないの?」


「なれないわ。馬車での移動費とか、生活費とか、家賃とか、働く女の子にどんどん借金が追加されて、一生ただで働くことになるの」


「それだけわかっていて、あなたは何でこれに乗ったの?」


「……母さんと妹が、病気になったの。どれだけお父さんと兄さんと私が働いても、病気の薬代の半分にもならなくて、借金が膨れて、このままだと一家で首をくくるから、私がこうなる事になったの」


彼女の身の上はありふれた話で、彼女は割り切ろうとしても、大事な人たちに二度と会えない未来しかないから、泣き濡れていたのだろう。

きっと別れの時、家族は大泣きしたんだろう。

彼女の雰囲気とかから、私はそう感じた。


「あなたは、……見た事のない家族が会いたいと言っている、と言われたのね」


彼女はそう言った。そして苦笑いをする。


「それはね、厄介者を追い出す時につかう、人買いの常套句よ。身寄りのなくなった子だけど、人買いに連れて行かれるという話が出ると、面倒な事になるそれなりに立派な家の人が使う常套句。家族への憧れを利用する、汚い手段なの」


「……あ」


言われて私は、はっとした。御者の人から義母さんが受け取っていた袋。

あれは、私の十年分のお給料だったのでは。

……でも、どうして私を家からこんな形で追い出したんだろう。

そう考えながら、私はこの状況をどうやって抜け出すか、考え込み始めたのだった。



11

馬車に乗っている人数は、三人以上は増えなかった。私は信じたくなかった真実を教えられて、頭がくらくらしたし、二人の女の子は自分の自由も何もない、地獄が待っているとわかっているからか、顔色悪く、私に説明した後は一言もしゃべろうとしない。


「……」


私はどういう方法をとるのが最善だろうか。そもそもこの馬車はどこに向かっているのだ。

それすら聞いていないのは、おじいさまとおばあさまの元に行けると聞いて、それ以上の情報を必要としなかったからだ。

それもこれも、義母さんを信じたからである。まさかこんな形でだましてくるとは思いもしなかった。

それほどに恨まれていたのだろうか。でも恨まれる事を何か一つでも私はしたのだろうか。

自分の今までの行動を考えても、答えらしき物は一つも出てこなくて、私は自分の両手を見つめていた。


「おい、食事だ」


考えている間にまた馬車が止まり、窓から小さな籠が渡されて、あまり人相のよくない男の人がそう言ってきた。

私はそれを受け取り、とりあえず聞いてみた。


「ねえ、私のおじいさまとおばあさまは、本当にこの馬車に乗ったら会えるの?」


「はあ? 何を寝ぼけた話をしてるんだ? ははぁ、さては厄介払いされたな。あんたそんな醜い顔だもんな。どうせ家族が気味悪がって、あることないことあんたに吹き込んだんだろうよ」


「じゃあ、この馬車は何なの?」


「それはな」


扉の外の男の人は、そういって、女の子が話してくれた事とほぼ同じ事を言った。

……女の子の被害妄想とかそんな話でもなくて、本当に私は売られたも同然だったのだ。

私は籠の中身を見た。簡単なパンとチーズだけで、これも借金にされるのだろうと、なんとなく思った。


「教えてくれてありがとう。知らなかったから」


「あんた、そんな素直でどうするんだ? 心配になっちまうぜ。まあ、俺が心配する事じゃねえけど」


男の人はそう言って、馬車の中の二人を見ていう。


「この馬車に乗ったときの反応は、そっちの二人の方が普通だぜ、と言っておく」


「わかった」


私は、借金になるとわかりつつも、パンとチーズを口にした。かさかさのパンと、干からびたチーズだけど、何も食べない方が体が参るから、文句を言わずに食べ終えた。

二人の女の子も、なかなか食べ進められないのだろうけど、食べている。

どうせ食べても食べなくても、借金になるという諦めからだろう。


「……」


私はこんな形で売り飛ばされるなんてまっぴらごめんだった。私が一体何をしたというのだろう。

義母さんの言うとおりに、使用人扱いだって我慢してきたし、父さんと母さんの形見だって奪われても諦めてきた。

挙げ句の果てに売られる未来なんて、絶対におかしい。

何が何でも、ここから脱走する事を考えなくちゃ。男の人は、店に連れて行くと言っていたから、店に行く前に、なんとか逃げなくちゃいけないのだろう。

そして迫る時間は余り猶予がない事も告げてきていた。


「……」


私は馬車の扉を観察した。驚いた事に、この馬車は内側から鍵が解除できて、扉が開く安物の馬車だった。


「……」


私は馬車としてはかなり小さい窓を見た。窓が小さい馬車は、中の人をのぞかれないようにするか、ガラスを贅沢に使えなかった貧乏馬車なのだ。

窓の外はどんどん景色が悪くなってきていて、外は暗くなっている。皆いろんな物が見えなくなっている頃だろう。

そして。

崖っぷちの道を進んでいるのだろう。窓から見る外は、崖の上を走っている事を告げてくる。……どれくらいの賭けをすればいいだろう。

……でも、このままいれば地獄になるというのなら、命がけの博打を打っても、勝率は五分五分じゃないだろうか。


「よし」


私は、ここで命がけの博打に出る事にした。もう、ただのお嬢さんとして、たくさんの物を我慢して生きていたくはない。奴隷のような扱いはまっぴらごめんで、行きながら死ぬような思いをするなら、死ぬような危険だっておかせる覚悟ができた。


「ごめん、一抜けするから!」


私はそう馬車の中の二人に言って、素早く扉の鍵を開けて、ぱっと走っている馬車の扉を開き、周りを取り囲む人間がいないから、そのまま馬車を飛び降りて、着地に失敗してゴロゴロと崖の道を転がり、それから。


「……!!」


崖の下に転落したのだった。

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