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06〜08

06


何日か経過したんだけれども、私はなかなか鏡を見せてもらえなかった。

語弊があるかもしれないが、今も見せてもらえない。

自分がどうなったのかが気になるというのに、誰も鏡を用意してくれないのだ。

その代わりなのかなんなのか、色々と不便のないようにしてくれる、お嬢様相手の小間使いみたいな人が、ずっと私の病室に待機し続けている。

これって一体何なんだろうか。

病室自体も、普通の病棟なら個室じゃなくて、大部屋のはずなのに、個室で調度品などもかなり質のいいものなのだ。

これも意味がまるでわからない。私はフィリエルさんの小間使いという肩書きで、ドリスさんの治めている領地に入ったから、普通は小間使いとしての扱いなんじゃないだろうか。

この特別待遇みたいなものが、どう考えても小間使いに対する扱いじゃない事くらいは、あまり頭のよくない私でもわかるものがある。

何がどうなって、こんな事になったんだろう。

私はそう思いつつ、頭に手を当てた。

髪の毛はどうやら、あの火事で燃え尽きてしまったらしくて、私の頭は現在髪の毛が残っていない。

そして顔面のほとんどを、包帯が覆っていて、口元がかろうじて動くように調整されているのである。

これは全部、自分の頭を触ってわかった事で、鏡を見てわかった事ではない。


「……」


私は今現在、病院で機能回復訓練を受けている。何日も寝込んでいたから、ちゃんと動くために練習をしなくちゃいけなかったのだ。

食器を持つ手も震えるくらいだから、かなり衰弱した状態になっていたのは間違いない。


「食器が持てるようになったんですね、いい調子ですよ、この調子で頑張りましょうね」


そういうのはお医者さんの補佐をしてくれている人達で、私が女の子だからか、女の人が訓練をしてくれるのである。

年頃の女の子に対しての大変ありがたい気遣いだ。これで若い男の人とかが相手だったら、訓練も思うようにはかどらなかっただろう。

そして。


「調子はどうだ」


「あなた、また、来たの」


「どうにも気になってしまうからな」


ノイズと名乗った男の人は、三日と空けないで私の様子を見に来るのである。

この人の仕事って何なんだろう。お祭りの間滞在する予定があったんだろうけれど、もうお祭りは終わっているだろうし、事故のあった日から計算しても十日は経過しているのに、こう頻繁にお見舞いに来るのはよほどの暇人なのか、仕事がないのか。

色々失礼な事を考えてしまうけれども、それでもやっぱり誰かがお見舞いに来てくれるのはうれしい。

フィリエルさんは、最初の頃お見舞いに来てくれたんだけれども、お祭りが終わってもこっちに居続ける事はできないし、義母さんに帰ってこいってかなり手紙をもらったみたいだから、最後はとても心配そうに私を見ながらも


「あなたはちゃんと元気になって帰ってきてね」


と言って、帰って行った。私の治療費どうなるんだろう。と思うのは別におかしくないだろう。

私の治療費どうなってんの、誰が払っているの、と誰に聞けばいいかもわからず、私はただ丁寧な治療を受け続けている。


「……ねえ」


「なんだ」


「答えられる事だけでいいんだけれど、教えて。あの火事はなんで起きたの?」


「運が悪く、防燃の宝石飾りが外れた状態で、聖獣火の鳥が飛び立ってしまった結果だ」


「……そりゃあ、大変な運の悪さってやつだ」


私はまた、自分の運の悪さを実感した。

聖獣の火の鳥は、白百合姫がこの世界にもたらした、炎を司る精霊との仲介者と言われている。

燃え上がる翼をもった、とてもきれいな赤色の鳥で、とても大事にお世話されている生き物だ。

ただ、人間がお世話をするためには、燃え上がる翼から炎が燃え移らないように、防燃の宝石を足首に足輪としてはめなくてはいけない。

銀の山からやってきた火の鳥は、足輪をはめた後はそれはそれは麗しい声で歌って、白百合姫のお祭りの最後を飾るのだ。

その火の鳥が、運悪く逃げ出してしまったのが、あの家屋が燃えた事故につながってしまったのだろう。


「私以外に、怪我とかした人は」


「お前だけだ」


「……それは、よかった」


私以外にも、こんなにも大変な目に遭っている人がいるだろうかと思って聞くと、男の人はいないと答えてくれた。

それにちょっとだけ、よかったと思った。誰かがひどい目に遭うのはいやだ。私自身もひどい目に遭いたくないけど、他人でもやだった。


「ねえ、私はいつ退院できるか、知ってる?」


「怪我がよくなったら」


「それってどれくらい時間がかかるのか、知らない? もう十日もここに入院しているから」


「火の鳥にまつわる火傷は、治療に普通の三倍以上の時間がかかる」


「って事は、二ヶ月とかそれくらいは入院するの!? そんなに入院費用、うちは出せない!!」


私は体の痛みとか震えとかが吹っ飛ぶくらいに恐ろしい気持ちで、跳ね起きた。

いきなり動いたから、体はかなり痛かったけれども、それよりも支払えない入院費用の方が恐ろしかった。



07

「安心しろ。お前の治療費用は、お前の家が支払わなくていい事になっている」


「なんで?」


「火の鳥の管理を誤った、領主側の過失だからだ。お前は安心して治療を受けて、回復したら退院すればいい」


「でも、でも! 私が帰らなかったら、誰が家の事をするの? やる事はたくさんあるのに」


「フィリエル殿の小間使いが、家の事まで手を出すのか? 領分違いではないのか」


「確かにここには、小間使い代わりとして来たけれども、本当はもっと雑用をしていたの」


私は素直にそう言った。べつにおかしな話じゃない。そして、こんなに長い間家を空けている事で、家がいまどうなっているのかも、とても心配だった。

義母さんは、二人の実の娘は貴族だから、と汚れる仕事は絶対にさせないし、そうなると消去法で私だけが力仕事や汚れる仕事を請け負う事になったのだ。

それとももう、義母さんは新しい使用人を雇っていて、私の事なんて数えなくっていいのだろうか。

ぐるぐると頭の中でそんな可能性が回ってきて、言いたい事が言えなくなってきた私だったけれども、ノイズはこういった。


「たとえお前が、職を失っても問題ない」


「なんで!」


「事故の責任を、帝国の人間が取る事になっているからだ」


「なんで……?」


「火の鳥の防燃飾りを外してしまったのが、帝国の幼い皇子だったからだ」


「……」


なんだか大事のような話になってきたと、私は混乱しそうな頭で、ノイズの言った事を整理する事にした。



まず、私が巻き込まれた火事は、火の鳥が防燃の宝石飾りがない状態で、逃げ出したから起きたものである。

そして、その宝石飾りを外してしまったのが、帝国の幼い皇子で、……あれ?


「それなのに領主様側の過失になるの」


「皇子に火の鳥を撫でてみるように進言した結果、皇子が輝く飾りを外してしまったのだ」


「ああ、じゃあ言い出しっぺの過失になるのか」


領主が、そう言った事も考えないで、何をするか予測がつかない皇子様に、提案したのか。結果、火の鳥が逃げて今回の火事になった。こういう事実から、領主様と帝国側とが、私に保証してくれる事になったのか。

いくら偉い人達が保証してくれても、火事に巻き込まれたくなかったな。


「皇子はお前に謝罪したいと言っていたが、お前の見た目が見た目だからな、もっと回復してからにしてほしい、と頼んでいる」


確かに髪は燃え尽きて、顔も、たぶんまだ酷い有様なんだろう。鏡をみられないし、顔を確認出来る機会がないから、予測だけれども。


「あなたの一存で?」


「俺の一存で」


「なんで?」


「……なんだっていいだろう」


この人も帝国側の人なのかもしれない。口ぶりとかから、なんとなくそう感じて、私はしゃべり疲れたから、ちょっと目を閉じてまた、休む事に専念したのだった。



08


「大丈夫? 僕のせいでごめんなさい……」


ノイズの言葉からさらに二週間が経過して、もう立ち上がって歩けるし、物もつかめるし、ほぼ全快で、後は体力が完全に戻ってくれば問題ない、とお医者さんに言われるようになった頃。

私は病院のやたら立派な空間に案内されて、そこで今回の事故を起こした原因の一人である、皇子様と対面する事になっていた。

きっと、皇子様も何回もここに来られないからだろう。もしくは滞在の期限が来たのかもしれない。幼いとはいえ皇子様である。

私はとりあえず、鬘をかぶって、皇子様が来る前にやって来た人達がお化粧を施したので、なんとか酷い有様は誤魔化せているだろう。

そう信じたい。


「気にしないで、もう大丈夫」


「……僕が火の鳥のお願いを聞いちゃったから、お姉さんは大火傷をしたんでしょう?」


「えっ!?」


火の鳥のお願いってどういう意味なんだろうか。

そもそも火の鳥と意思疎通ができる物なのだろうか。

さすがに予想しなかった言葉に、考え込みそうになった私だったけれども、まだ十歳にもならない年齢だろう皇子様は、こういった。


「僕の女神様の加護が、対話だから……」


「そうだったんですね」


帝国の皇族と呼ばれる人達が、白百合姫の加護を与えられるというのは有名な話で、対話という加護は、おそらく、言葉が通じないけれども会話したい相手と、意思疎通ができるという、そう言った贈り物なのだろう。

皇子様は火の鳥と対話して、飾りを外してしまったのか。

きっと聖なる獣のお願いだから、快く外してしまったに違いない。


「火の鳥が、ここはご飯ももらえなくてつらいから、外に逃げたいって、でも足輪があるから飛べないんだって……」


「聖獣を虐待……?」


皇子様の言う事を疑うわけではないのだけれども、火の鳥を相手にそんな事をする神殿の関係者っているのだろうか。

一体何のためにそんな事を。

……私が考えても意味のない事だ。それに聞かなかった事にした方がいいのかもしれない中身でもある。

だから私は、王子様に笑いかけた。

化粧が濃くて、自分だと笑っているかもわからないけれども。


「皇子様が、心優しい人だっただけですよ。私ももう元気になりますから、そんなに苦しまなくていいですよ」


「……本当に?」


「本当ですよ。今は医術も発達していて、こんな怪我だってもうよくなっているんですから」


目を潤ませた皇子様に、私は頷いてそう言ったのだった。

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