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ノイルフェールの伝説~天空の聖女(セインテス)~  作者: 朝霧 巡
第4章 故郷ウーラニアー

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7.聖騎士の館……⑦

 シェリルがふと手を差し出した。


「クレアさん、もしよろしければ……」

「え?」

「手を繋いでみてください。もしかしたら、精霊達が見えるようになるかもしれません」


 半信半疑ながら、クレアはシェリルの手を取った。その瞬間、温かな魔力がクレアの身体を包み込んだ。


「あれー? このこ、きのうよりつよくなってるー」

「ふしぎだねー、まじゅつしなのかなー?」


 突然、クレアの視界に小さな光の存在達が現れた。掌ほどの大きさで、透明な羽を持つ愛らしい姿をしていた。


「見える……見えますわ!」


 クレアの驚きの声に、精霊達は興味深そうに彼女の周りを飛び回った。


「精霊が……見えるようになりました?」

「シェリル様が繋いでくれたから見えるようになったのですね。不思議ですわ」


 シェリルが説明すると、クレアは興味深そうに精霊達を見つめた。


「珍しいですわね。普通、人には見えない存在なのに……」

「クレアさんも魔術師でいらっしゃるから、きっと素質があったのでしょう」


 その時、精霊の一匹がクレアの周りを飛び回りながら言った。


「このこ、なんかにおいがするー」

「においー?」

「しってるにおいー。でも、おもいだせないー」


 精霊達の言葉に、クレアの表情が一瞬強張った。


「精霊さん達は、とても敏感ですのね?」


 しかし、すぐにいつもの微笑みを浮かべる。シェリルは静かに頷き、紅茶を口に含んだ。


                       ◆◆◆◆



 その夜、シェリルが自分の部屋で休んでいると、館の中を歩く足音が聞こえた。

 時刻はもう深夜を過ぎている。クレアが眠れずに歩いているのだろうかと思い、シェリルは部屋を出た。

 廊下を歩いていると、書斎の方から微かな光が漏れているのが見えた。


「クレアさん?」


 そっと扉を開けると、そこにはユーリアの書類を調べているクレアの姿があった。


「何を……しているの……?」


 シェリルの声に、クレアは慌てて振り返った。


「あ、シェリル様……その、眠れなくて、新しい本でも読もうかと……」

「でも、それは……」


 シェリルが指摘しようとした時、突然精霊達が騒ぎ始めた。今度はクレアにもその姿がはっきりと見えていた。


「なにかくるー!」

「けっかいがー!」

「こわそうとしてるー!」


 精霊達の警告に、シェリルの顔が青ざめた。


「結界が……?」


 クレアも表情を変え、慌てて手にした本を元の場所に戻した。


「シェリル様、避難してください」

「クレア様……どうして……?」

「説明は後です」


 その時、館全体が微かに震動した。ユーリアが張った結界に、何者かが攻撃を仕掛けているのは間違いない。

 クレアは意を決したように立ち上がった。


「わたくしには話さなければならないことがあります」

「今はそれどころでは……」

「いえ、今だからこそです」


 クレアは深呼吸をしてから口を開いた。


「わたくしの本当の名前は『サン・クレア・ハイパーソン』……ホーリーウェル魔導学院の一年生です。我が兄、学院長クランプの命により、あなたの警護を命じられて参りました」


 シェリルは驚愕の表情を浮かべた。


「警護……?」

「はい。我が兄、学院長クランプの命令で、姉のフーディエ、兄のクロウリーと共に、あなたをお守りする任務を負っております」


 館の震動が再び起こり、今度は先ほどより強かった。


「詳しい説明は後ほど致します。今は、この館から出ないでください。外は危険です」


 サンの表情は、これまでの可憐な少女のものから、任務を負った魔術師のそれに変わっていた。


「わたくしが結界を調べて参ります。シェリル様は絶対に一人で外に出てはなりません」

「でも……」

「これは命令です」


 サンはそう言うと、素早く書斎を出て行こうとした。その時、精霊達が彼女の前に現れた。


「ひとりじゃだめー」

「あぶないよー」

「みんなでいっしょにー」


 精霊達の言葉に、サンは少し驚いた表情を見せた。


「精霊さん達が……わたくしを心配してくださるのですか?」

「このこもだいじなひとー」

「まもるー」


 シェリルも立ち上がった。


「一緒に行く……」

「いけません。危険すぎます」

「精霊達の言う通り……一人では危険……それに……」


 シェリルは手を差し出した。


「手を繋いでたら……クレアさんも精霊達が見える……それが何かの役に立つ……」


 サンは迷ったが、やがて頷いた。


「……分かりました。でも、絶対にわたくしから離れないでくださいませ」


 二人は手を繋ぎ、精霊達に守られながら館の外へ向かった。結界の向こうでは、何者かが暗闇の中で待ち構えているのは確実だった。


 精霊達がシェリルの周りを心配そうに飛び回る中、二人は未知の脅威に立ち向かおうとしていた。

 そして、クレアにとって初めて見える精霊達の存在が、この危機にどのような意味を持つのか、まだ分からなかった。

 雪の帳が落ちる夜、結界の向こうに蠢いていた気配が、ついにその正体を露わにした。


「貴族派の魔術師……?」


 サンの声が凛と響く。光の矢を編み、敵の先陣に向かって放つ。その魔力は確かに強大で、精霊達すら驚くほどの輝きを放っていた。


 しかも、敵の数が多すぎた。どう見ても30人はいるだろう。

 エルスワース辺境伯領の巡察に出ているユーリアの不在を狙った奇襲。用意周到に集められた実戦級の魔術師達が、四方から結界を破壊しながら押し寄せてくる。


「くっ……!」


 館への攻撃は続いており、雪夜の静寂は完全に破られていた。シェリルの手を握ることで精霊を見ることができるようになったクレア……いや、サン……は、この新たな能力が今夜の戦いにどう影響するのかを予感していた。


 雪は降り続けている。

 その雪の中を額に汗を浮かべながらも、サンは魔力を全開にし応戦を続けた。だが、防ぎ切れない。じわじわと包囲が狭まっていく。


――このままでは、シェリル様が……


 サンの心が焦りに傾きかけたその瞬間、空を裂くようにして雷撃が迸った。


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