頭おかしくなるって。もうおかしくなってるって。
私の体が、セントラル様に危害を加えようとしているというのに何もできないもどかしさに焦りながら、馬車は止まった。
王都セントラルの丁度真ん中に鎮座する城の門をくぐり、聖女達の修行の場所である寮にたどり着いたようだった。
私が普段住んでいる場所である上に、ここは私の家族とも言える仲間達の住まう場所でもあった。
「レンシア様、聖女寮に着きました」
馬車のドアが開けられて覗いた顔は、ゾフェスだった。
『ゾフェス!生きていたんですね!』
思わず喜びを顕にしてしまうが、私の言葉はゾフェスに届くことはない。
「おう。待ちくたびれたぞ」
「れ、レンシア様……?本当にお体に不調は無いのですか?」
「あ?だからそう言ってんだろ?」
「そ、それなら、良いのですが……?」
ゾフェスは、全く腑に落ちてない顔だった。
『ちょっと!今までの私と違いすぎて、ゾフェスが驚いているではないですか!』
「別にいいだろ。勝手に驚いてりゃあよ」
『そ、そんな……!』
めちゃくちゃすぎる、と思ったが、もしかしたらゾフェスが異変を察知して誰かに知らせてくれるかもしれない。
そうなれば好都合なので、あまり口出ししないことにしておいた。
「それよりもお前、ここの王セントラルの所へ案内してくれ」
「セントラル様、ですか……?あの村での出来事をご報告されるということでしたら止めはしませんが、一度お休みになった方がいいのではないですか?」
「いや、休みなんていらない。今すぐ報告にいく」
「ですが、少年相手とはいえ、一度深手を負って……」
「いいと言っている。早く案内しろ」
「……わかりました」
ゾフェスは渋々という顔で了承した。
ああ、セントラル様。どうか、どうかご無事で。
何もできず、ただ国賊の手先と成り果ててしまったレンシアを、お許しください。
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聖女達は、セントラル様から直々に教えを賜ることも少なくないため、歩いて行ける距離にセントラル様のいる王の間はあった。
「着きました。ここが王の間です」
「ふん。もう下がっていいぞ」
魔王はそう言ったが、ゾフェスがその場を離れる気配は無かった。
「なにをしている」
ゾフェスはじっとこちらを見つめたあと、ふぅ、と1つ息を吐いた。
そして、決意の瞳をこちらに向ける。
同時に、腰に帯びていた剣にてをかけた。
「貴様。この私が異変に気づかないとでも思ったか?」
剣を引き抜き、切先を私に向けている。
ゾフェスが、いつも私に見せてくれる優しい表情とは全く違っていた。
「ほう?それは、俺に対して言っているんだな?」
「それ以外何があるというのだ。本来のレンシア様ならば、セントラル様を呼び捨てにしたりなどしない。王のおられる場所を忘れたりなどしない」
「ま、そりゃあそうだな」
魔王は高笑いをした。
「ここで俺を殺すか?それとも、この扉の先にはセントラルなんていねぇとかか?」
「どれも違う。違うのだ!」
ゾフェスは怒鳴り声を挙げた。
「貴様を殺してはならないと、セントラル様がおっしゃっている。そして、セントラル様は、この扉の先で待っておられる」
セントラル様は私の置かれている状況に気づいていたんだと安堵するのと同時に、それでも通そうとしたことに驚きが隠せなかった。
だが、魔王は驚く様子など見せず、ただ鼻で笑った。
「ま、そうだろうな」
むしろ驚かされたのは、私やゾフェスの方だった。
ゾフェスは、怪訝そうな顔になりながらも、仕方がないと思ったのか、剣をしまった。
「貴様が何を考えているのかは分からないが、セントラル様に悪巧みは通用しないぞ」
「へぇ?それはやってみなきゃわからねぇだろ?」
魔王はそう言って、王の間のドアを開けた。
すれ違い様に見えたゾフェスの顔は、泣きそうにも、悔しそうにも見えた。




