死んでからがスタート
「ーーー神は等しく人々を救済してくれます。どうかあなたにも、神のご加護を」
セントラル王国の王都から少し離れた村で、人々を癒す。魔物の被害によって怪我をしてしまった人々の傷を癒すために、私は派遣されていた。
「あ、ありがとうございます!聖女様……!」
村人はそう言って、元気に帰って行った。
入れ替わりで、村長がやって来る。
「聖女様がいてくださるおかげで、村の者たちの心も救われておりますじゃ」
「最近は魔物の動きが活性化しています。王国から兵士を派遣してもらうように進言しますが、いつになるかわからないのでできるだけ村の守りを固めて下さい」
英雄王セントラルが魔王と呼ばれる魔物の王を討伐してから数年。人智を超える力を持つ魔物から、人間は勢力を取り戻しつつあった。
突如として現れた、現在の英雄王を筆頭とした王国の聖騎士団は、魔物を討伐する力に長けていた。
一度は大陸のほとんどから魔物の勢力を掃討したといえるまでになったが、最近になって魔物の勢力が活性化しており、人類による完全な勝利と呼べるまでには依然として至っていなかった。
「レンシア様。報告にあった村人の数と、実際の怪我人の数が合いません」
と、私の元へ、私の専属の騎士であるゾフェスがやってきて言った。
「なるほど、まだ助けを求める人がいるかもしれません。村長さん、なにか心当たりはありませんか?」
「……実は、大変申し上げにくいことなのですが、国王様の名の下に立ち入りが禁止されている洞窟に、村の子供達が勝手に入ってしまいまして……」
「それは……!今すぐ向かいましょう!」
私自身に魔物を殲滅するような戦闘能力は無いが、ゾフェスを始めとした専属の騎士隊は王国内でも指折りの部隊をつけてもらっている。
だから、こういう時でも素早く対応することができる部隊でもあるのだ。
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洞窟の中は整備なんてされていないような道なので、慎重に進むべきなのだろうが、中で助けを求める人があるかもしれないと思うと、進む足が止まらなかった。
「レンシア様!あまり前を行かないで下さい!我々が安全を確認してから進みましょう!?」
ゾフェスの静止もさして聞かず、奥へと進んでいく。
道中で人は見つけられなかったから、いるとすればさらに奥の方なのだろうとあたりをつけながら進む。
と、そこそこ進んだところで私が立ち止まったとき、ゾフェス達に追いつかれた。
「レンシア様、急に立ち止まられてどうされましたか?」
「ゾフェス、あれ……!」
私が指差した先には、倒れている子供がいた。
「おそらく、村長が言っていた子供でしょう。もしかしたら周りに敵がいるかもしれません。我々と共に参りましょう」
ゾフェス達に囲まれるようにして子供に近づく。
周りに敵の気配は無かった。
私はすぐに子供に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?怪我は、どこか痛いところはありませんか!?今、治してあげますからね……!」
子供の体を見る限り大きな怪我はなさそうで、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、もしかしたら呪いや体内の負傷があるのかもしれないと思い直した。
「今、治癒魔法をかけてあげますから……!」
子供に向かって手をかざし、私の聖女としての力である治癒魔法を子供にかける。
簡単な魔法であるが、死なない程度の怪我なら聖女の力ですぐに治ってしまう魔法だった。
「……うっ……」
「気がつきましたか?」
「……あれ、体が……」
「私が治してあげたので、もう大丈夫ですよ」
「……あなたは…………?」
「私は聖女レンシアです。洞窟に入ってしまったというあなた達を助けに来ました」
「それは……!」
「さあ、あなたは騎士たちが安全に村まで連れて帰るので、奥に行ってしまったお友達のことなにか知ってれば、私に教えてください……!」
「……そんな……ありがとう、ございます……!」
子供の顔がほころんだ。
これで1人、助けることができた。だがまだ奥に助けを求める子供たちがいるかもしれない。早く助けに行かないとーーー
「なぁんてナ」
「え?」
とすっ。
いともあっさりとした擬音語がふさわしいような、軽率でちょっとしたできごとだった。
子供の腕が、私の体の中を通って、背中から出た。ただそれだけのことだった。
「あ、れ……?」
それだけのはずなのに、私の全身の指揮権が急速に失われていく。
「お前の体、もらってくぜ」
耐えがたい眠気に争うすべもなく。私はどうやら死んでしまうようだった。