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追放はずれ勇者と聖女コンビの激闘ぽかぽか旅  作者: 遥彼方
二章 足下から鳥が立つ

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25 新しい出会い

 くるくると綺麗にカールした、燃えるような赤髪の美少女が、くっきりとしたアーモンド形の目を細め、白い指先を優雅に僕に向ける。


「ところでルイ。あなた、指名手配されていますわよ?」

「へっ?」


 僕が間抜けな声を出して固まった瞬間、視界がぐるっと回って地面に押さえつけられた。


****


 彼らに会ったのは、カストルムから出て2つ目の町に続く街道だった。


「やっと新しい剣が買えますね!」


 くるりと僕を振り返ったヒヨリさんが、黒髪を風に舞わせ、小さく拳を握った。可愛い。


「復興中のカストルムでは買えませんでしたからね」


 モーリーを抱いた僕はうなずいた。


 前のロングソードはスタンピードでぼろぼろ。

 刀身は欠けてるし、真ん中でぼっきりと折れてたから、修理よりもい潰して鍛え直した方が早い。

 だけどスタンピードの爪痕が深いカストルムでは、鍛冶屋は大忙しで順番がいつ回ってくるかわからない。新しい剣を買おうにも、たくさんの冒険者が買い求めて品薄だった。


「カストルムはともかく、次の町も買えないとは思いませんでした」

「あはは。僕もです」


 それなら次の町で新調した方がいいだろうという判断だったんだけど。

 近隣の町は在庫のほとんどをカストルムに卸したらしくて、品薄な上、需要と共に価格も上がってたから、手が届かなかった。


「剣は高いですし、ずっと短剣か素手で戦ってたし、いっそガントレットでも買おうかな」

「ルイさんが拳闘士ですか。似合わないです」

「うぐっ」


 確かに。ぐうの音も出ない正論‥‥‥音は出たけど。


「いやでも、似合う似合わないより使い勝手と値段‥‥‥」


 カストルムで1カ月稼いだから、無一文ではなくなったものの、そんなにお金に余裕があるわけもなし。


「だったら短剣をもう一つ買って、双剣とかどうですか? ルイさんはもともと短剣を使いこなしてますし、双剣使いって恰好いいですよ」

「確かに短剣2本はいいかも。どっちかというと短剣とナイフとかの投擲武器を持つ方がやりやすいですけど、一度投げたら回収できないことが多いですからね。槍は安いけど使い慣れてないし、拳はやっぱり間合いが短いからなぁ」

「投げナイフも恰好いいっ」


 ヒヨリさんが口元に手を当てて、眼鏡の下の瞳をキラキラさせた。


「優しそうな人が暗器を忍ばせてるとか、萌えます」

「えっ、そんな人怖くないです?」


 そんな油断ならない人が近くにいたら怖い。というか、燃えるって何? どこに熱くなる要素が?


「‥‥‥似合うとか恰好いいとか、意外と見た目気にするんですね」

「えへへ」


 少し頬を染めたヒヨリさんが、ぺろっと舌を出した。可愛い。


「でも回収できなかったら困りますね。ナイフは安いけど、毎回新しく買い直すと逆に高くついちゃいます。うう、現実は世知辛い」

「あはは‥‥‥何をするにもお金がいりますからね」


 がっくりと肩を落とすヒヨリさん。

 最近、感情表現が豊かになってきたなぁ。気を許してくれてる感じがして嬉しい。


「あれ?」


 僕が足を止めると、ヒヨリさんが僕の腕を掴んできた。どうしたんだろ?


「また1人で危ないことしようとしてません?」

「はい?」


 なんで?


「ルイさんって危ないことに気づいても、1人てなんとかしようとするじゃないですか」

「えっ? いやいや」


 え、あー、それは。


 黒曜石の半眼にたじたじと後ずさると、細い指が僕に突きつけられた。


「私も冒険者で、相棒でしょう? 危険も一緒にですからね!」

「はい」


 圧に負けて、反射で勢いよく返事したけど。


「いやでも、今回は本当に危険じゃなくてですね。ただこの先から人と馬の気配がしただけです」


 少しカーブになっているのと、横合いの木の枝が張り出して見えにくい街道の先を指差す。


 周囲にモンスターの気配も、争ってる気配もない。動きのない馬と人の気配だけだ。


「本当ですか?」

「ほんとですって。ほら、あそこ」


 ちょいちょいと手招きして進む。張り出した木の枝を越えると、幌つきの馬車と2人の男女がいた。


 鮮やかな赤い髪の少女と、灰色の長い髪の男性だ。


 男の人の方が少し傾いた馬車を持ち上げようとしているけど、揺れるだけ。

 どうやら車輪が窪みにはまって立ち往生しているらしい。


「大丈夫ですか? よかったら手伝いますよ」

「ああ、助かる」


 肩越しに振り返った男性は、前髪も長くて目が見えないけど、ゆるく上がった口元と鼻筋はすっと綺麗だった。

 女性の方は染み1つない白い肌と荒れのない手。日の光を受けて燃える赤髪を巻いている。

 豪華ではないけど馬車なんてものを持っているし、身分が高いかお金持ちかな。


 モーリーを下ろして男性と一緒に馬車を持ち上げる。


 うーん。新しいスキルを使えば簡単だけど。使うまでもないよな。


 思った通り。スキルを使わなくても、男二人であれば普通に持ち上がり、車輪は窪みから抜けた。


「礼を言いますわ。わたくしはフィーナ。こちらはエリックといいますの。あなた方は?」

「‥‥‥あ、僕はルイといいます」

「私はヒヨリです」

「‥‥‥もーりー」


 うわ。この言葉遣い。良いところのお嬢さんだ。貴族とかじゃないよね?

 もし貴族だったら不敬だったかも。そもそも貴族の礼儀作法とかさっぱりだ。どうしよう。


 いやでも貴族だったら家紋入りの馬車だろうし、お忍びだとしても従者や護衛もいるだろう。


「ふふ。そう緊張なさらなくても大丈夫ですわ。今のわたくしはルイたちと同じ平民ですのよ。ほら、わたくしたちの格好をご覧なさい」

「えっ?」


 優雅に胸に手を置くフィーナの格好は、そこらの冒険者より品が良くて上等そうではあるものの、動きやすそうなジャケットとスカートに、胸や肘に防具。エリックは黒の上下に部分防具をつけ、上からマントを羽織っていた。


 確かに冒険者の格好だけど。あの防具って多分、何かしらの付与がついたやつだよね。絶対、上級者だ。『今の』ってことは元は平民じゃなかったってことだから、お金にあかせて装備だけ整えた可能性もあるけれど、二人の佇まいは強者のそれだ。少なくともB級じゃないかな。


 そんな二人がなんでこんなところにいるんだろう。


 ここは王都からも離れているし、ダンジョンも初級から中級しかない。何かの依頼だろうか。


「ルイたちはどこへ行く予定?」


 低く通る穏やかな声でエリックが聞いてくる。馬車を持ち上げる時に地面についていたマントから、軽く土を払ったけど、音がしなかった。


「プロバーティオ領を目指してます」

「まあ。試練の塔ですわね。わたくしたちと目的地が一緒だわ。これも何かの縁。助けてもらったお礼も兼ねて同行しませんこと? 小さい子もいることだし、馬車に乗れば楽ですわよ」


 にっこりと笑ったフィーナが両手を合わせた。


「いえいえ。大したことはしていませんし、お気持ちだけで十分です」

「あら。この馬車には拡張魔法がかかっているから、見た目より広いですのよ。遠慮はいりませんわ」

「ええと、目的地に行くまでにダンジョンに寄って稼ぐつもりなんです。なので本当にお構いなく」

「では次の町まではどう? ダンジョンに入るなら町で装備と物資を調達するでしょう?」


 巻いた赤髪を指に絡ませながら、フィーナがにこにこと続ける。

 長いまつ毛に縁どられた大きな猫目と、赤い唇が自信をみなぎらせて弧を描く。反対の手を腰に当て、すらりと長い片足に重心を寄せた何気ない姿勢が美しい。

 表情と視線に自信をみなぎらせた凄みのある美人。そのせいか有無を言わせないような圧があった。


 うーん、断りづらい。


 ちらっとヒヨリさんに視線を送る。ヒヨリさんは、眼鏡の下の黒い瞳を柔らかくにじませて、小さく頷いた。


「では、お言葉に甘えてお世話になります」

「ふふふ。どうぞ入って」


 フィーナに促されて馬車の中に入ると、質素な外見とは裏腹に中は豪華で広かった。馬車というより、豪邸の一室って感じだ。ふかふかの絨毯やソファー。繊細な家具。シャンデリアって言うんだっけ。きらきらとした照明までぶら下がっている。

 はあああぁ。拡張魔法ってすごいな。


「ふわああぁぁ」


 驚くモーリーの可愛い声が小さく響く。そんなモーリーを微笑ましそうに見てから、フィーナが僕に白く細い指先を向けた。


「ところでルイ。あなた、指名手配されていますわよ?」

「へっ?」


 僕が間抜けな声を出して固まった瞬間、視界がぐるっと回って地面に押さえつけられた。

お読み下さりありがとうございます。

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ぐずぐずとお天気も体調も悪いこの季節。皆さまもご自愛ください。

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