1.追放されました
「ルイ! この役立たずのゴミ! お前はパーティーから追放だ」
「え?」
今、追放って聞こえたけど。聞き間違いだよね。聞き間違いであってほしい。
ダンジョンの攻略が終わり、王都への帰りだった。いつものように僕はパーティーメンバー全員分の荷物を背負って、必死にメンバーの後ろを着いて行っていた。
この森を抜けたら王都、というところで突然リーダーのドウェインが立ち止まり、他の三人が僕を取り囲んだんだ。
ここまではいつものことだ。また憂さ晴らしに殴られるんだろう。そう思ってぎゅっと歯をくいしばっていたら、嫌な単語が出た。
「え? じゃねーよのろま!」
「ぶっ」
強烈な拳を頬に喰らって、僕は地べたに倒れた。
しまったな。追放って言葉に気を取られて、ぽかんとしてたから、もろに受けてしまった。歯が折れたかも。
ドウェインが倒れた僕から乱暴に山のような荷物を剥ぎ取る。ついでに腰に差していた短剣とポーチまで取られた。
「これは全部パーティーのもんだからな。返してもらうぜ」
しゃがみこんだドウェインが手を差し出した。
「おい、有り金出せ」
「短剣とお金は僕のもので」
パーティーのお荷物の僕は報酬を貰っていない。だからダンジョン攻略の合間に働いてお金をためていた。短剣だってそのお金で買ったんだ。
「あ? 口ごたえしてんじゃねーよ!」
ゴッ。顔面を殴られて目の前に火花が散る。地面に着いた手に、ドウェインの足が乗ったと思ったら、枯れ木を折るような嫌な音がした。
ヤバい。いつもと違う。
ゴミだとか役立たずとかは言われ慣れてる。暴力にも。
でもいつもならもう少し軽くか、村や町に着いてからだった。
地べたからドウェインたちを見上げる。ニヤニヤした笑いじゃなく、冷たく暗い笑顔にぞっとした。
「出すからやめて」
折られていない方の手で懐のお金を渡すと、お腹に容赦のない蹴りが入った。体が九の字に曲がり、上がってきた胃液を吐いた。
「やだぁ、きったなぁい」
「ゲホッ、ゴホッ、ゴホゴホ」
胃液が喉を焼く熱さより、咳をした時のお腹の痛みが酷い。
これ、肋骨も折れたかも。
「じゃあな。二度と俺らの視界に入んなよ。次その面見せたら殺すからな!」
そんな。
そのまま僕は森に放置された。
ドウェインたちの姿と気配が完全に消えるのを待ってから。
「痛ったっ」
お腹を押さえて僕は起き上がった。左の頬と左手の人差し指がずくずくと熱い。
あー、それよりお腹がヤバい。一番痛いし、なんか気持ち悪い。折れた肋骨で内臓やられてなければいいんだけど。
吐いた胃液に血は混じってなかったし。大丈夫、大丈夫。痛みは一晩寝たら引くだろ。
それより、もうじき夜だというのに毛布も食糧も何もなしで森の中っていうのが困る。
ハンカチで人差し指にその辺の木の枝を固定した。指はこれでよし。そのうちくっつく。
自慢じゃないけど、僕は怪我に強い。医者や神官に診てもらうにはお金がかかるから、いつも自力で治してる。
近くの木に赤い実がなっているのを発見。もいで懐に入れた。お腹の痛みが引いたら食べよう。
「されちゃったものは仕方ないけど、持ち物まで取り上げなくたって」
ドウェインたちにとって僕のお金や持ち物なんて、なんの足しにもならないはずなのになぁ。
追放はいつかされると思ってた。
僕は冒険者になって五年も経つのに、まだF級。
F級といったらさ。一年以内の新人がほとんど。だけど僕は、受ければまず合格の試験に落ち続けている。
E級に上がるための試験内容は、ゴブリンを一匹殺すこと。ゴブリンの怖さは数だ。一匹だけなら冒険者でなくても殺せる。だから僕みたいに、試験に落ちる人はほぼいない。
最初の一年はまだ良かった。新人だからと大目に見てもらえて、パーティーにも入れてくれた。でも二年目となると段々と断られるようになって。三度目の試験に落ちた。
しかも僕は、普通は誰でも一つはあるスキルさえない。
こんな僕を入れてくれるパーティーはなく。
だからドウェインのパーティーに拾ってもらえた時は、神様に見えた。荷物持ちの雑用でも、分け前を貰えなくても文句はなかった。殴られたって我慢できた。
だけどついに追放。なけなしの有り金と荷物まで取られてしまったから文無しだ。
「はああ。これからどうしよう」
木の根本に座り、空を見上げた。
ソロでやろうにも、僕は冒険者として致命的な欠点があった。
攻撃ができないんだよなぁ。
力はあると思う。水や食糧の入ったパーティーの荷物を持っても平気だし。
逃げ足は速い。
敵の動きも見える。攻撃の方法だって分かってる。
だけどいざモンスターを殺そうとすると、なぜか力が出なくなるんだ。
きっと精神的なもの。慣れればいつか克服できる。
そう思ってしがみついてきたけど。いい加減潮時かもしれない。
なんて、考え事をしていたからか。
「あ」
「あ」
若い女性が、すぐ近くに来るまで気がつかなかった。
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