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王太子視点 侯爵夫人の要求を可及的速やかに認めることにしました

俺の名前はエドワード、この国の王太子だ。


俺は基本は父王に次いで偉いのだ。普通に。


そして、俺の朝は一杯の優雅なコーヒーで始まるはずだった……



「殿下、大変です!」

「何だ、朝から騒々しいな。どうしたのだ?」

その時までは俺は優雅に手紙を持ってきた側近のカーティスを窘めていたのだ。


「ブライアンから至急の手紙です」

「ブライアンから? あいつはこの春から地方の騎士団の副騎士団長ではなかったか? そいつが俺に何のようだ?」

ブライアンが赴任した地は国境からも離れているし魔物も出ないはずだった。

普通王太子の俺に直接至急の手紙を書いてくるなんておかしかった。


「それがジャンヌ様が怒っていると」


「ブファーーーー」

私は思わず飲みかけのコーヒーをカーティスに吹き出したのだ。


「な、何だと!」

俺はむせた背を周りに叩かれながら、なんとか声を出した。


「ジャンヌって誰だ?」

「さあ、殿下の新しい女じゃないか」

後ろの方で新しく入った側近の囁きが聞こえた。


「何を言っている。貴様らジャンヌも知らんのか! オルレアン侯爵夫人だ!」

「ああ、あのこの前旦那を亡くされたという」

「とてもきれいな人ですよね」

側近たちは気楽なものだ。


「愚か者! お前らは、ジャンヌの恐ろしさを知らないから言うのだ」

俺の叫びにも側近たちはキョトンとしている。



ジャンヌと俺は幼馴染だ。連れてこなくてもいいのに、父のウェリントン将軍が連れてきて、俺達はよく一緒に遊ばされたのだ。

チャンバラごっこや、王宮探検は可愛いもので、盗賊退治は序の口で、ダンジョン探検や、竜の巣の探検、ゴブリン討伐など散々な目に付き合わされた。


ジャンヌはどこでも無敵だから言うことはなかったが、付き合わされた一般人の俺達はたまったものではなかった。最後はジャンヌが助けてくれるのだが、死にかけたことなど片手では到底足りなかった。俺と昔からの側近のカーティス、それとジャンヌの実の弟のブライアンがどんな目に遭ってきたか……本当によく生命があったと思う。


そんなジャンヌが何をトチ狂ったのか学園に入った途端に生徒会長で侯爵令息のシャルルに恋したのだ。俺には信じられなかった。あのジャンヌが恋したことも、あのジャンヌに惚れた奴がいることも!


「皆行くわよ。遅れたら罰ゲームだからね」

と裸踊りを罰ゲームにしてダンジョンに突撃させていたあのジャンヌが、真っ赤に顔を染めていたのだ。


からかった俺達は半殺しの目にあったが……


しかし、そんなジャンヌがシャルルの前ではしおらしい乙女を演じていた。


いつかボロが出ると俺達は踏んでいたのだが、シャルルがいる間はしおらしかった。

シャルルが卒業すると元にも戻って、学園はまた阿鼻叫喚の地獄になったが……


たが、そのジャンヌもなんと卒業と同時にシャルルと結婚したのだ。

俺達は信じられなかった。


でも、カラミティ(天災)・ジャンヌは俺達の前から消えてくれた。


俺達はしばらくこの幸運が信じられなかった。


俺達が祝杯を上げたのは言うまでもない。


ジャンヌを娶ってくれたシャルルは俺達にはまさしく神様に見えたのだ。

そう、ジャンヌがいない間は本当に平和だったのだ。



そう言えばそのシャルルがこの前亡くなったと聞いた。

その時は近付くのが怖くて俺もカーティスも行かなかった。たらい回しにした挙げ句に最近側近になった何も知らないバリーに行かせたのだ。

俺達が行かなくて怒っているのだろうか?


「バリー、その時、ジャンヌの機嫌はどうだった。なんか怒っていたか」

俺が聞くと

「いえ、泣いていらっしゃいました」

「泣く? あの厄災娘がか?」

俺には信じられなかった。


「最愛の旦那様が亡くなったからでしょう。子持ちでしたが、喪服姿もとてもきれいでしたよ」

俺とカーティスはそう言うバリーを残念なものでも見るような目で見下した。


「お前は馬鹿か? あいつがそんな可愛いたまか?」

俺は言い切った。

「そうだぞ。最初は皆その見た目に騙されるんだ。帝国の皇子殿下も『殿下、遊びに行きましょう』

と言われてあの見た目に騙されて喜んでトコトコついて行ったら、行ったところがいきなりドラゴンの巣の中だぞ」

「あいつの顔の引きつったことと言ったら無かった」

俺は思い出していた。

「そうだ。あいつはドラゴン相手に俺達がさんざん追い回されてボロボロにされるのを笑って見ていたのに、自分の髪の毛が一本焼かれただけで切れて、ドラゴンをボコボコにしたんだぞ」

「そうだ。俺達はもうやけどだらけで真っ黒になっていたのに……それまで何もしなかったくせにだ! それ以来あいつのいる所100キロ圏内には絶対にドラゴンは近づかないのだ。普通ドラゴンが人を恐れるか」

「殿下、あれは人ではありませんから」

「そうだった。奴は化け物だった」

「……」

俺達は黙った。


「で、その侯爵夫人が何を怒っていらっしゃるのですか?」

「殿下、今度は何をしたのですか?」

バリーとベンがお気楽に聞いてくるが


「俺がなにかするわけはないだろう! 最近会ってもいないわ」

俺が叫ぶと

「それがいけないのではないですか? 最愛の旦那様の葬式にも参加されなかったので、怒っているのでは」

カーティスが言ってくれるのだが、


「逃げたのはお前も一緒だろう!」

俺は叫んでいた。その点については少しやましい気もしたのだ。


でも、ジャンヌを牽制できるシャルルがいなくなった今、ジャンヌの傍なんて絶対に行きたくなかった。


「うーん、ジャンヌ、ジャンヌ……」

ベンが何か呟いている。


「どうした。ベン?」

「いやあ、どこかで見た名前だなと思って」

「葬儀の件じゃないのか」

「うーん、そうではなくて、あっ、ありました」

ベンが手紙の山の中から手紙を取り出したのだ。


その手紙には『親愛なるエドへ』とデカデカと書かれていた。


「お前は何をしているのだ! 何故、すぐに渡さん!」

俺は大声で叫んでいた。


「だって侯爵家の未亡人からお手紙ですって言ったら、そんな物捨てておけって殿下が言われましたよ」

「愚か者! カラミティ・ジャンヌからの手紙だとすぐに渡せ」

俺はそう叫ぶとその手紙をベンから奪い取ったのだ。


『親愛なるエドへ。お忙しいところ誠に申し訳ないのですが、オルレアン侯爵家の爵位を我が天使な息子のシャルルに継がせるように書面を頂けないでしょうか! よろしくお願いします』

と書かれていた。


「殿下、あのジャンヌが敬語を書いていますよ」

「本当だな。いつもは何時に王宮の入り口に集合。誰にもバレないように出てこい。バレたら殺すみたいな文章しか寄越さなかったのにな」

カーティスと俺は感動していた。


「子供が出来て丸くなられたのではありませんか?」

能天気にもベンが言ってくれた。


「んなわけあるか!」

「あいつが敬語を使う時は碌な事がないんだよ」

そうだ。国王陛下の銅像を壊したときとか、母の庭園を踏み荒らしたときとか


「ごめんなさい。殿下。謝っておいて頂けますか」

そう言ってあのジャンヌは全責任を俺に押し付けてきたのだ。


ということはこの手紙は実行しないと絶対にまずいやつだ。


でもだ。


「はああああ! オルレアン侯爵家を0歳の乳児に継がすことなんて出来るわけ無いだろう!」

俺は叫んでいた。


普通恒例ではこういう時は成人男性に継がせるか、後見人としてつけるのだ。

0才児が継いだことなどない。


「では、その旨をジャンヌに言いますか?」

「……」

カーティスにそう言われると俺は黙るしか無かった。


「これは1週間前に着いていますよ。何でもあんまり遅いと本人がこの王宮に乗り込んで来ると言っているそうですが」

「何だと」

俺は青くなった。

怒り狂ったジャンヌが乗り込んで来る様が脳裏に浮かんだ。


あいつが怒ったら碌な事はない。下手したらこの王宮が全壊する。


「いかが致しますか?」

カーティスが聞いてきたが、


「そんなの認めるしか無いだろう」

俺は判りきったことを聞くなと言いたかった。


「しかし、後見人がジャンヌになっていますが」

「嫌だが認めるしかないだろう。もし、これを握りつぶしてみろ。あいつはシャルルジュニアを背負って王宮に乗り込んでくるぞ」

「げっ」

カーティスは青くなっていた。


「可及的速やかに大臣たちを脅して書類を作り上げろ」

「大臣たちが認めますか?」

「認めないと言う奴は使者として侯爵邸に派遣すると伝えろ。嫌でも死にもの狂いで書類を作るだろう」

俺の言葉にカーティスは頷いた。


それにしても誰だ! シャルルを亡き者にしたやつは! 

見つけ次第絶対に絞首刑にしてやる。


最もそれまでジャンヌから逃れて生きていられる可能性は少なかったが……


俺は俺の安らかな日を返せと言いたかった。


ここまで読んで頂いてありがとうございました。

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私のお話、ここまで読んで頂いて本当にありがとうございます。

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しかし、フランはそもそも前世は病弱で、学校にはほとんど通えていなかったので、女たらしの王子の事は諦めて青春を思いっきりエンジョイすることにしたのだった。

しかし、その途端に態度を180度変えて迫ってくる第一王子をうざいと思うフラン。
王子にまとわりつく聖女、
更にもともとアプローチしているが全く無視されている第二王子とシスコンの弟が絡んできて・・・・。
ハッピーエンド目指して書いていくので読んで頂けると幸いです。



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