王宮の前で馬車は止められました
本日2話目です。
私はそのまま、騎士の大半を率いて、馬車で一路王宮に向かったのだ。
もっとも騎士の数は50騎にも満たなかったが……
実家のウェリントン家の精鋭だ。数は少なくとも、各々一騎当千の騎士たちなのだ。そんじょそこらの盗賊共ならこれだけで殲滅できるだろう。
まあ、軟弱な王宮の近衛騎士たちなら十二分に対抗できるはずだ。
馬車の中では起こされて機嫌の悪い天使な息子のシャルルちゃんにお乳をあげて、機嫌をとろうとしたのだが、中々シャルルちゃんは機嫌を直してくれなかった。
それに中々おっぱいを離してくれないんだけど……
「ジャンヌ、そろそろ着くぞ」
お乳をやるからと御者台に追いやったエドが声をかけてきた。
私達の乗っている馬車は応急処理でなんとか馬車の形を留めていたが、なんか本当にもうボロボロだ。隙間だらけで、隙間からエドの姿も見えた。
「天使な天使なシャルルちゃん、そろそろおっぱい離して……痛いったら、痛い!」
私が離そうとする度にきつく乳首に噛みついてくれるんだけど……。私は思わず悲鳴を上げた。本当にシャルルちゃんはきかん坊なのだ。シャルル様はとても優しい方だったのに、誰に似たんだろう?
私が思わず呟いたら。
「それはお嬢様でしょう」
「ジャンヌ以外、あり得ない」
外野から余計な声がする。
変だ。私はおしとやかな侯爵夫人なのに!
「大丈夫ですか? ジャンヌ様」
一人心配そうにメリーが聞いてくれた。
「心配してくれて、有難う、メリー。あなただけよ。私の心配をしてくれるのは」
そう、アリスもエドも全く心配してくれないんだけど。少しは心配しろよと私は言いたかった。
「いつもは天使な息子のシャルルちゃんに、何されてもいつもは大丈夫なんだけど……さすがにこれは痛いわ。痛い、シャルル、ちぎれるから」
私が悲鳴を上げると
「うーうー」
やっと天使な息子のシャルルちゃんは嬉しそうな声を上げて、離してくれた。
良かった。
でも、乳首を見るとはっきりと噛み跡がついているんだけど……
「あっ、もう、跡ついちゃったじゃない」
私がシャルルに文句を言うが、シャルルはとてもご機嫌だった。
その天使な息子のシャルルちゃんの笑顔を見ると文句も言えないと思ってふと前を見ると、こちらを覗いているエドと目があったんだけど……
「何覗いているのよ!」
私は完全に切れてしまったのだ。
そして、そのまま、怒りの余り雷撃を放ってしまったのだ。壊れかけの馬車の中で。
バキンっ
馬車の一部が吹っ飛んで、
「ギャーーーー」
エドは必死に避けようとしたのだが、全て避けきれない。
雷撃の一部がエドを直撃した。
まあ、もっとも強度を弱くしているので、そこまでダメージはないはずだ。
でも、応急修理した馬車は大丈夫じゃなかった。
天井と全面の一部が吹っ飛んじゃったんだけど……
「姉上、また馬車壊して」
痙攣しているエドの代わりにブライアンが文句を言ってきたが、
「文句は覗き見していたエドに言いなさいよ」
私は完全にお冠だった。
「でも、流石に王太子殿下に雷撃浴びせるのはどうかと」
控えめにブライアンが忠告してくれるんだけど、
「何言っているのよ。今まで散々色々やってきているんだから、別に問題ないんじゃない」
「不敬なことをやっている自覚はあるんだ……」
ブライアンが何か呟いたが、
「何か言った」
「何も言っていません」
私が一睨みすると慌てて首を振ってきた。
「ふんっ、それよりもどう考えても淑女の裸を覗いたエドが悪いわ」
私が言うと、
「俺はジャンヌの悲鳴を聞いたから見ただけで、覗くつもりはなかったぞ」
エドが怒って言ってきた。
「ふんっ、人の裸見たくせに」
私が文句をいうと
「お前のペチャパイ見たって何の得にもならんわ」
「なんですって!」
エドの言葉に私はさらに切れた。もう一度雷撃を食らわせようとして
「お嬢様。これ以上は馬車が空中分解を起こします」
さすがに、アリスに止められたのだ。
「おのれ、エドめ。後で覚えていなさいよ」
「いや、ジャンヌ。いまのは悪かった。許して」
こちらに向けて青くなったエドが頭を下げてくるが、
「ふんっ、許すわけ無いでしょ」
私は切れていたのだ。
「凄い。やっぱりジャンヌ様は王太子殿下を尻に敷かれているんですね」
メリーが感心して言ってくれるんだけど……
「ちょっと、メリー、尻に敷くってなんか言葉がおかしくない。私とエドは結婚していないわよ」
私の言葉の尻馬に乗って
「そうだ。こんな奴とは絶対に結婚しないぞ」
エドが調子に乗って言ってくるんだが、私の鋭い視線を浴びて慌てて顔を引っ込めた。
「でしょう。メリー。お嬢様と殿下は夫婦に見えるわよね」
なんかアリスまでとんでもないことを言ってくれる。
「ありえないわ」
私の言葉にエドの頷く気配を感じた。
頷かれるとそれはそれでムカつく。
まあ、しかし、私がエドと夫婦になるなんてありえないわけで。
なにしろ私はまだ未亡人になったばかりなのだ。
シャルル様が亡くなった悲しみも癒えていなかった。
まあ、エドを使用人としてなら雇ってやらないことも無かったが。
私が不埒な事を考えていると
大きな王宮が目の前に見えてきた。
「止まれ」
門番の静止の声で、馬車は王宮の前の巨大な城門の前に止まったのだ。
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