揚げ物はお姫様のように扱いなさい【Twitter140字小説16の物語その3】
Twitterに掲載した、1話140字以内の物語が16個あります。お楽しみいただければ嬉しいです。
【No.1】
電話ボックスに入ると天井にびっしり手の跡があった。
慌ててドアを開けようとするがびくともしない。床がぬかるんで水が湧き出てきた。
「助けて!」
水は電話ボックスをみるみる埋める。
私の体が水面に浮かぶ。
その時気付いた。無数の手の跡の理由。ここにしか、つけられなかったのだと
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【No.2】
同窓会で元カレに会った。懐かしい声と笑顔。お互い話が山程あると思ったのに実際は何も言えなかった。
「……元気だった?」
「うん。お前は?」
「元気だよ」
「良かったな」
それで、終わり。
あの別れの日から友達として再び始めるには、私はあなたを愛しすぎました。
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【No.3】
目が覚めると体に張り付くように『立ち入り禁止』のテープが貼られていた。
前・後・左・右に1枚づつ。計4枚。
目の前は地獄だった。
血の池が沸騰して、針の山に刺される肉塊があった。鬼が口から金具で舌を引っこ抜こうとしている。悲鳴がそこかしこに響く。
けしてここを動いてはならない。
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【No.4】
みんなゾンビになって、僕はフラフラ。餓死するのが運命。
信じられない。人間、見つけた。7歳くらい。食べられる。
『僕らの仲間になって飢えて死ぬのと、最後の人間として孤独に死ぬのとどっちがいい?』
僕はそのまま崖から落ちた。
『きっとどこかに人間がいるよ』あの子を心の中で励まして。
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【No.5】
カフェでコーヒーを飲んでいたら、さっきから同じ曲がかかっていることに気づいた。故障か?前の席にパスタが届けられる。あれ?前のひと全く同じパスタを食べてなかったか?見上げると時計の針が1時を指していた。あれ?今1時30分じゃなかったか?私の席に食べ終わったはずのピザが届けられる。あれ?
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【No.6】
AIが進化して人間の文章と見分けがつかなくなった。人間は『自分が書いた』と証明するため意図的に間違いを入れるようになる。すると更に真似するAIが出てくる。
私は教師だ。これを添削する身にもなって欲しい。
『許虚きょうわ戸も駄知とデデデかけま下。久しぶりで⤴︎⤴︎熟れ○△❇︎(*´Д`*)』
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【No.7】
「土地を売ってくれ」と何度も来られたが断った。
「俺は自宅警備に忙しいんだ」
ここが何億だろうが知ったことではない。地下への通路の先には徳川家の財宝がある。少しづつ売り払う。国宝なんかにされてたまるか。なあにエジプトの墓荒らしもみんなやってたことだ。お宝は今を生きる者のためにある。
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【No.8】
「宇宙人は一般人に紛れて生活してるんです」
「へえ」
「擬態するため母星から人間のデータをインストールしてるんですが」
「ほう」
「たまに間違えて『古代ローマ兵』とか『白いワンピースの女』になっちゃうらしく」
「えっ!?じゃあ幽霊の正体って……」
「死んだフリもあれでなかなか大変だそうです」
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【No.9】
「偉大なご先祖さまの顔に泥を塗らないよう、自分を律して生きてきました」
男の顔は誇りに輝いていた。
先祖のDNAが解析され男も髪の毛を提出する。結果が返ってきた。
『どのご先祖さまとも血の繋がりがありません』
男は掠れた声をあげる「じゃあ僕は誰なんです?僕は何のため何を守ってきたんですか?」
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【No.10】
人の顔を覚えることができない。他の特徴で覚える。恋人はいつも黒いワンピースに赤い眼鏡、赤い靴を履いていた。
あるとき黒いワンピース、赤い眼鏡、赤い靴が流行になった。駅に降り立つと恋人らしき女が300人はいる。具合が悪い。早く僕をみつけてくれ。肩を叩いて「お待たせ」と名前を呼んでくれ。
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【No.11】
服を買いに来た。このワンピお義母さんが「派手ね」と眉をひそめそう。このシャツは友達と被りそう。このパンツは若すぎて恥ずかしい。このスカートはお隣のおばさんに笑われそう。服にぐるっと囲まれて。何一つ買える物がない。
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【No.12】
振り子は片方に振れれば同じだけもう片方に振りかえす。
俺は振り子のようにA子とB子の間を行ったり来たりしていた。ある日B子に体を掴まれ、思い切り引き寄せられてから強く押し出された。ビュウッ!A子にぶち当たる。2人で頭から血を流して倒れた。B子の『ザマアミロ!』という高笑いが空間に響く。
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【No.13】
食い逃げをした。マッチングアプリで知り合った女に全額払わせた。ブロックでバイバイ。俺は女全てに恨みがあり、復讐をしてやったのだ。気持ちいい。
1年後なぜか社長令嬢に気に入られ結婚した。店を任されることになった。食い逃げした焼肉屋だ。店に立ちながら毎日あの女がくることに怯えている。
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【No.14】
「揚げ物をするときは女の子を扱うようにするんだよ」
バイト先の店長に言われた。
「優しく、丁寧に、お姫様に対するように揚げる。油が跳ねても慌てちゃいけない『元気だね』って笑って見てなさい」
それ以来揚げ物を褒めている。「素敵なスカートですね」
今日もアジフライに囁いて油の海にそっと沈める。
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【No.15】
「『好きな人同士でペアを作りなさい』ってあったよね」
「うん」
「A子ちゃんを誘ったんだ」
「ませてるね」
「A子ちゃんはB男くんを、B男くんはC美ちゃんを、C美ちゃんはD太くんの腕をつかんだ」
「えっ」
「D太くんは僕の腕をつかんでね」
「えええっ」
「小学生にも『修羅場』ってあるんだなぁと」
「やべぇ」
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【No.16】
友達は火星で死んだ。深い谷の底で誰も遺体を運べないのだそうだ。砂嵐に煽られて埋もれていく体。20年後やっと友達の体は発見された。体に付着した微生物が過酷な環境に適応していたことがわかった。砂を食べながら空気や水を作り出すらしい。友達は火星生命体の始祖になった。彼は創造神になった。
(終)
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