ホシトリの日
ここは、魔法使いの村。この村の子供たちは、年に一度のお祭りの日に、流れ星をつかまえて見習いの魔法使いになります。村人たちは、これを『ホシトリ』と呼んでいました。
『ホシトリ』をするのは、10の年を数えたらと決まっています。村に伝わる遊びの中で魔法の基礎を覚えた子供たちは、本人たちも知らない間にいつでも魔法使いの修行をはじめられるようになっているのです。
今日は『ホシトリ』のお祭りの日。子供たちは「やっぱり山に登るのが一番だよ」「屋根の上じゃ駄目かなあ」と、みんなで楽しそうに話をしながら夜を待ちます。兄や姉のいる子供は特に人気者です。兄や姉の『ホシトリ』について行ったことのある子供は、得意気にうろ覚えの記憶を話すのでした。
けれどそんな中、一人ぼっちでいる女の子がいました。にこにこと笑っているけれど、誰と話すわけでもないその女の子は、あっちをうろうろ、こっちをうろうろしたあと、はしゃぐ子供たちの輪を離れてとぼとぼと歩いて家に帰りました。
「ただいま」
女の子がそう言っても、待っていてくれる人はいません。小さな頃いなくなったお父さんの写真と、去年の『ホシトリ』のお祭りの日、病気で死んでしまったお母さんの写真が彼女を出迎えました。
女の子は、今年が10の年です。
「来年はもう見習いさんになるのね」と頭を撫でてくれたお母さんは、もういません。それだけでも悲しいというのに、女の子が悲しんでいるのには他にもわけがありました。
「明日からみんなは魔法使い見習い。私だけ置いてきぼり」
『ホシトリ』をして自分の杖に流れ星をつけた子供は、その日から魔法使い見習いです。家の手伝いをしながら遊んでいたみんなが、村長のもとで立派な魔法使いになるべく修行を始めるのです。きっとみんなは変わらず仲良くしてくれるでしょう。けれど女の子は、みんなに置いていかれてしまうことがつらくて悲しくて、どうしようもなく寂しいのです。
だから女の子はなんとか流れ星をつかまえようと外に出たのです。けれど、やっぱりそんな元気は湧いてこなくって、悲しくつらく、どうしようもなく寂しい気持ちのまま戻ってきてしまったのです。
女の子はいつものようにベッドに潜り込んで、お母さんに聞こえないように声を殺して泣きました。優しかったお母さんを思って泣きました。置いて行かれる明日の自分の寂しさを思って泣きました。昨日も一昨日もその前の日も、ずっとずっと一人で泣いていました。
村人たちは、大人から子供までみんな女の子のことをとても心配していました。毎日朝になれば目を腫らし、それでも笑顔を絶やさない女の子のことを。けれど気にかければかけるほど、女の子は「だいじょうぶよ」と笑うのです。だから村人たちは、いつも通り女の子に笑いかけました。時間をかければきっと傷も癒えるだろうと。けれど、時間はまだまだ足りないようでした。
いつしか眠ってしまっていた女の子は、物音で目を覚ましました。
あたりは真っ暗で、まだまだ深い夜の中でした。窓を開けたら、ぽつりぽつりと落ちる流れ星。ああ、もうすぐ終わってしまう。……でも、まだ間に合うかもしれない。
女の子は、お母さんの編んでくれたコートを着て、杖を持って家を飛び出しました。
走る女の子の後ろから、いくつかの足音が聞こえるようです。それでも女の子は振り向くことなく走り続けます。はやくはやく、いそいで。それは星たちの囁き声のようでした。
女の子は、小高い丘にやってきました。そこは、お母さんや他の村人たちが眠っている特別な丘です。いつも会いに来るお母さんのそばで、女の子は足を止めました。そして杖を掲げます。星あかりの中、高く高く、手を伸ばして。
女の子はもう、悲しくもつらくも、どうしようもなく寂しくもありませんでした。「きっと大丈夫」と囁く星たちが、たくさんの星たちが、見守ってくれているとわかったからです。いつしか丘は、ぼんやりと光り出しました。みんなの杖の星たちが、女の子を応援するように輝きだしたのです。
女の子は嬉しくなって、嬉しくなったら涙が溢れました。そしてゆらめく視界の向こうに、お母さんの瞳のような真っ赤な流れ星が自分に向かって落ちてくるのが見えました。