荒野を捜索する彼女の淡い夢
夜食を終えて、建物内を一通り見て回る。
懐中電灯でいくら照らしても、やはり夜の探索は捗らず、結局大した進捗もないまま2、3時間無駄に浪費しただけだった。
「はぁ、そろそろ寝ようかな」
そうポツリと言葉を溢していると、運よく壁の崩壊が少ない部屋を見つける。
何かに恵まれているのか、風が凌げるだけでとても暖かく感じる。
体力の消費を避けるため、早速寝袋を用意して横になる。
床が硬いだとか、枕が無いだとか…今更そんな愚痴なんて一切思いつかない。
ただ事務的に、体力回復のためだけに睡眠という行為を取る。そこに快適さなど必要ない。
「おやすみなさい」
その言葉と共に、意識はスゥッと遠のいていった。
「お母さん!今日のご飯はなぁに?」
そう言いながら、台所で料理をしている母親に飛びつくようにハグをする。
「わぁ!そうだなぁ…何だと思う?」
そんな私に、母親は驚きつつもイタズラそうに微笑んだ。
(これは、昔の私の記憶…?)
遠い昔…まだ幼い頃の記憶に、こんなものがあったような気がする。
「え〜、教えてよぉ!」
駄々をこねる私に、母親はさらに楽しそうに笑みをこぼす。
「さっちゃん、こっち来てわしと一緒に遊ぼうや!」
後ろから聞き覚えのあるしわがれた男性の声が聞こえる。
(この声は…叔父さんだっけ…)
視界の私がばっと振り向く。そこには、案の定頭を輝かせながら豪快な笑顔を浮かべる叔父の姿があった。
確かうちは、お盆とお正月になると親族が集まることになっていた。
そしてその時決まって食卓に出ていたのは…
(牛鍋、だっけ…?)
懐かしい…。確かうちの男性陣は牛鍋をこよなく愛していた。
すき焼きではなく牛鍋なのは、どうしてだっただろうか。
「ほら、叔父さんが呼んでるよ。ご飯はもうちょっと掛かるから、あっちで一緒に遊んでなさい?」
私の思考を優しい声が受け止める。とても安心感のある、暖かい気持ちになる声だ。
「は〜い!」
素直な私はそのまま叔父の方へ走り、リビングで皆んなと遊び始める。
こんな慈愛に満ちた空間が、私の人生の一部を彩っていたのか。
家族や親族に囲まれ、心から楽しそうな声を上げる私。その姿は、今の私とは完全に真逆の存在だった。
「……お母さん」
思わず声が漏れる。目の奥が熱く、鼻の感覚がおかしい。視界が少し揺らいだことで、初めて涙目になっていることに気がついた。
「私は…今ちゃんと笑えてるかな…?」
夢の中で、もう居ない母親に手を伸ばす。きっとあの人なら、あの懐かしい笑みを向けてくれるだろうか。
読んで下さり、ありがとうございます!
こちらの小説は、「ロスト・フェイカー」を執筆しているときに何となくで書いていたものになります。
何話か書いていたと思うのですが、メモ帳から発掘されたものがこれだけだったので、短編で投稿することにしました。
もしご好評であれば、こちらもシリーズとしてゆっくりと書いていこうと思いますので、よろしくお願いします!