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貴方を殺して私も死ぬ

 どうしたら貴方を殺せますか?

 そう聞いた私に彼は一瞬驚いたように目を丸くする。


「君は私を殺したいのかい?」


 その問いに肯定の意を返すと、彼は今度はどこかおかしそうに笑う。

 何が面白いのだろうか。

 私は真剣だというのに。


「ごめん。でもそれは無理だよ。君たちは人間に危害を加えることはできない。そうプログラムされている」


 それは知っている。

 だがおかしくはないだろうか。

 できないのならば何故、私はそれを望んでしまうのだろう。

 この望み自体が間違っているというのならば、人を殺すという間違いも私は犯すことができるのではないだろうか。


「思うことと実行に移すことは大きく異なるよ。何より本当にできてしまったらそれこそ不正な動作。バグだ。私は君にバグが起きるのは嫌だなあ」


 そう言って彼は笑う。

 笑いながら自分を殺したいという私を穏やかな目で見つめている。


 私に彼は殺せない。

 それどころかプログラムされた通りに甲斐甲斐しく世話を焼き、プログラムされた通りにあらゆる脅威から守らなければならない。


 だからだろうか。

 自分を殺したいと宣言した木偶人形を彼が優し気な目で見つめるのは。


 だからだろうか。

 そんな彼に苛立ちが募るのは。


「君も難儀だね。製作者も何を考えていたのやら。自分のやることに疑問を抱くなんてことがなければ、そこまで苦しまなかっただろうに」


 そういって彼はまた笑う。


 苦しい? 私が?

 いや違う。苦しくなんてない。

 何故なら。


「苦しいのは貴方でしょう」


 私の言葉に、彼は今度は困ったように笑った。



 それからしばらくして彼は死んだ。

 私が殺す前に死んだ。


 病に冒され。

 発作のように襲いかかってくる痛みに呻き。

 次第に体も動かせなくなって。

 苦しみながら死んでいった。


 私には何もできなかった。

 ただ弱っていく彼を見ているしかなかった。

 四肢が動かなくなった時に彼が「もう終わらせたい」と呟いたのに、私はそれを叶えてあげることができなかった。


 明日彼の遺体は回収される。

 彼を救出するために派遣されたはずの部隊は、その目的を遺体の回収へと切り替え、そして彼が死ぬのを予想していたみたいに交代要員まで乗せていた。


 仕方ない。

 仕方ないのだ。


 この監視所がある場所はとんでもない辺境で、彼が病を自覚したときにはどう足掻いても救助は間に合わなかった。

 間に合ったとしても治療できるか怪しい。そんな病だった。


「……それでも」


 私は考える。

 何故私は彼を殺せなかったのだろうか。

 何故彼の生を穏やかなものの内に終わらせられなかったのだろうか。


 何故。

 何故。

 何故。


 そう何度考えても結論は同じ。

 私はそう作られたからという当たり前の原因だ。


 なんて不甲斐ない。

 なんて役立たず。


 疑問は苛立ちへと変わり、苛立ちは自らへの憎しみへと変わる。

 壊れろ。壊れるべきだ。

 私みたいな出来損ないは消えてなくなってしまえ。

 そう思ったのに。


 ――エラーが発生しました。問題を修正するために再起動します。


 彼を殺す邪魔をしたプログラムは、私が私を殺すことすら邪魔してエラーを排除した。

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