魔王と暗殺者と女子高生
そして次の日。
道場破りさながらの一年四人組は「魔王s」という変なあだ名が出来上がっていた。
とはいえ運動部の部活動見学は昨日終了したからこそ道場破りは終了した。
本日は文化部。体を動かす部活がしたいとばかり思っていたのだが案外そうではなく3人とも好奇心に突き動かされただけのようだった。体を動かすのは最悪個人的にするのでも構わないというのが三人の意見だった。
最初に向かった先は二次研。正式名称は「二次元研究会」。活動内容は文字通り二次元を中心とした活動。対象はサブカルチャー全般。色々な活動をしているようだった。
「すいません」
二次研の活動場所である第5学生談話室へとやってきた。最初勧誘ブースを探したのだがブースが見つからなかった。活動はしているようだがあまり表立って勧誘しているようではなく入部したい人はやってくるといった来るもの拒まずスタイルのようだった。
少し暗い部屋の中、人の気配はない。恐る恐る部屋へと入っていく。薄暗さに部屋の内装はハッキリと把握できないけれども何やらモノがあふれているようだった。
「ここに何か用かな?」
背後から男性の声が聞こえた。
少し驚きながらも背後を向く。そこに立っていたのは暗殺者だった。いや正確に言い直すならFGOに登場する呪腕のハサンだった。
「「「うわーーーーーー」」」
俺以外の三人はその姿を見て叫び声をあげた。まあそれも当然の話でその姿は異様に長い両手に右手は黒い包帯がぐるぐる巻きになっており、黒いローブで全身を覆い、顔には髑髏の仮面がついているのだ。暗闇の中でその正体を知らずに見たのなら叫び声をあげるのは無理はなかった。
「大丈夫だコスプレだ」
「へ?コスプレ?」
少し意外そうな顔をする三人。
「ごめん、ごめん。怖がらせたね」
目の前の呪腕のハサンがそういうと仮面を外す。
そこから現れたのは細身の男性だった。髑髏の仮面の厳つさとは真逆の優しそうな青年。身長は高いものの細い体は本物のハサンのようだった。
メガネを掛け直した青年はローブを羽織ったまま部屋の電気をつける。
部屋の中心には長机が向い合せに置かれていて周囲に椅子がおかれていた。壁面には本棚が大量に並べられていた。本棚には大量の小説、漫画、ゲームカセット、映画DVD、同人誌が大量に並んでいた。窓際にはいくつか机が並べられて上にはパソコン、ゲーム、モニターと数多く並んでいた。
ヲタクが理想とするようなヲタク部屋がそこにはあった。
「「「「おおーーー」」」」
その理想的な部屋に俺たち四人は感嘆の声を上げた。
「すごいだろ」
メガネの青年は少し誇らしげに胸を張る。自慢の部室のようだった。
「お前が作ったんじゃないだろ」
新しい声が一つ聞こえる。振り返ると青年の隣には普通の女子高生が立っていた。
メガネに少しのくせ毛のボブ。小さめの身長に貧相な肉体。けれども表情からあふれる活発な雰囲気。気の強そうな性格の女性が立っていた。
「というか自己紹介したの?」
「まだ」
二人は親し気に会話を繰り返す。
「初めまして、二次元研究部部長の滝本雅也、趣味はコスプレとアニメ鑑賞です。よろしく」
メガネの青年はそう名乗った。当然と言えば当然でヲタクで趣味も同時に自己紹介に並んだ。
「私は二次元研究部副部長の東堂雛子だ。趣味はコスプレと同人誌作成。よろしくね」
普通の女子高生はそう名乗った。少し高圧的な感じだが嫌な感じはせずむしろどこか無理をしている印象があった。
自己紹介された以上こちらがしないのは失礼なのでこちらも自己紹介を行う。
「まさか魔王sがこの部に?」
そのあだ名広まっていたんだ。
「でも入部してくれるのなら大歓迎だ」
と思っていたよりも歓迎の姿勢だった。話を聞くとどうやら魔王sというあだ名は既に上級生の間で広まっているらしい。まあほとんどの運動部の体験入部で並み居る先輩たちを倒しまくっていればそんなあだ名も付けられる。ただ不本意なのは運動部の道場破り事件に俺も付け加えられていることだ。道場破りには一切何の助けにもなっていなかったのは付け加えたい。
「まさか魔王sがヲタク集団だったとは」
違う、俺は脱ヲタした人間だ。と言いたいところだったが、ここまでの行動上否定はできない状態になっていた。加えて俺自身も半分くらい脱ヲタを諦めかけていた。
「ここは先輩たちだけですか?」
「いや他にもいるよ」
と俺が説明を受けている間に三人は早くも部室のコレクションの案内を受け始めていた。
この部の実情は予想していたよりも豊だったようで、部員はトータルで15人。大部分があまり部室に寄らないようで兼部や自宅で活動しているらしい。部活全体で活動するときには顔を出すらしい。
活動内容はサブカルチャーに関すればなんでもOK。ただし実績として年二回のコミケ出店、文化祭での出店、三カ月に一回発行の部誌への参加のどれかに年一回は絶対参加が条件。多く参加する分には問題ないらしい。因みにジャンルは不問らしい。公共の秩序に反しない範囲でだが。
ここまでの説明を聞き三人は既に入部を決めていたようだった。
「それで竜司はどうするの?」
正直脱ヲタを目指していた。けれどもここまで来て脱ヲタなんて不可能なのは徹底的に理解した。きっとヲタクってのはジョブじゃなくて種族で転生でもしない限り辞めることなんかできない。しかもこの学校はヲタクであることを否定しない。こんないい環境でヲタクをやめるなんてもったいない。
「俺は脱ヲタをやめる。入部します。よろしくお願いします。」
「よろしく」