喧嘩勃発二段階
「なんでお前がここにいるんだよ桜」
「その話は一か月前に終わったはずだけど」
「違う、そっちじゃねえ、なんで竜司と一緒にいるんだって意味だ」
「ああ、そっち。先生に頼み事されてたのよ」
梶浦さんはさっきまでの明るく優しそうな雰囲気とは打って変わって少し冷たげな冷ややかな塩対応を雄馬に取っていた。
「ねえ、竜司。どういうこと?」
「多分俺たちが思っているよりも因縁があるみたい」
俺とシャルは雄馬と梶浦さんの口喧嘩を横目にコソコソ話を繰り広げていた。
あくまで状況認識のために二人の喧嘩を止めずに見守る
「こっちでは関わらない約束だろ」
「今回は不可抗力よ」
「そんなもん知らねえよ」
「ほぼ言いがかりじゃない」
と思っていたが一切状況が見えてこないので二人の喧嘩を止める。
「二人ともいったん落ち着け、状況がわからん」
「そうよ、喧嘩をするなら拳を交えてこそよ」
「「「...........」」」
「確かにそうだな、シャルの言うとおりだな。拳で型をつけるか」
「そうね、そうしましょう。まあ、貴方私に勝てたことがないけどね」
「ガキの頃の話だろうが」
シャルの少しどころか間違いに間違いまくった喧嘩に対する知識のせいで二人は一触即発を超えて、即発へと移行してしまった。というか二人とも喧嘩になると少し口調が荒れて少し英語が混じる。なんてのほほんとしているわけにいかない。慌てて二人の喧嘩を止める。
「ストップ、殴り合いなんてするんじゃねえ。拳を交えては男同士に適用されるもので、しかもそれは二次元限定に等しいから、落ち着け」
「竜司レフリーを頼む」
「お前、相手女の子だぞ」
「あいつは別だ」
「...........」
もう知らねえ。どうなっても知らん。勝手にしろ、俺はあきらめた。言っても聞かない二人にあきれて俺は二人の喧嘩を仲裁することをあきらめた。せめてもの抵抗でシャルににらみつける。
「お前のせいだからな」
顔を輝かせながら二人を見守るシャルは俺の睨みと恨み言を綺麗にスルーした。
レフリーを俺に頼んでいながら二人は既ににらみ合いをしながらお互いに隙を伺う。
加えて言っておくと、二人は中庭に移動しており下は芝生の状態で喧嘩を始めたのだ。喧嘩しながら地面が柔らかい場所に移動しているあたり冷静なのかよくわからない。一応梶浦さんが怪我をしないように介入するつもりではいた。
そうこうしているうちに雄馬が仕掛ける。体格差を利用したシンプルなタックル。正直大人げないというよりは紳士の国出身とは思えないほどの選択肢。いや、女子と喧嘩を始めた時点で紳士とは言いがたい。対して梶浦さんは一切慌てることもなく、目にも止まらぬ速さで雄馬に何度か攻撃を加える。格闘技には詳しくないせいで何をしたのか分からなかったが素人目にも梶浦さんがかなりの格闘技上級者であるということが理解できた。
気が付けば芝生の上には雄馬が寝転がっていて、それを見下すように勝者のスタンディングポーズをとる梶浦さん。そこには学校内で女子と喧嘩を始めてあっさりと負け見下されている男子高校生の姿があった。はっきり言えばダサい。幸いにして放課後だけあって見ていたのは部活動に勤しむ先輩たちだけだった。いや何もよくはない。幸いですらない。一つだけ幸いと言ってもよかったのは先生に見つからなかったことだった。
場所を移して、学校近くのファミレス。四人掛けのテーブルで俺と雄馬が並んで座り、向かい側にはシャルと梶浦さんが座った。因みに喧嘩にならないように俺の真ん前に梶浦さん、雄馬の向かいにシャルという配置にした。あくまで気休めでしかないが。
梶浦さんと雄馬は二人とも後味が悪いのかぶすっと不機嫌な表情をしていた。シャルはそんなことに我関せず初めて来たファミレスに顔を輝かせていた。
「兎にも角にも事情を教えてくれ」
「俺の事情は昨日話しただろう」
「私もさっき話した通りだよ」
「そうじゃなくて、二人の関係性について」
という少しの意地の張り合いの結果、俺が一人ずつ話を聞いて話をすり合わせるというめんどくさいことをすることになった。シャルも少しは手伝えよ。というよりも話の聞きだし対象にシャルが加わり面倒な作業が一つ増えた。
結論から言うと、雄馬と梶浦さんは所謂幼馴染。雄馬が入学初日(昨日)に言っていた幼馴染というのは梶浦さんだった。ただ二人とも単なる幼馴染という一言では片づけるにはやはり複雑だった。自身が日本人とイギリス人とのハーフ、加えて日本人の遺伝子が強く出ていて、日本でいうところの幼稚園から同じ学校で育った。境遇が似ていることから幼少のころは仲良くやっていたのだが、小学校(日本で例えると)の高学年に差し掛かると思春期を迎えて性格もしっかりと出てきたこともあり二人は大いに喧嘩することになったらしい。雄馬が男子グループの中心で、梶浦さんが女子グループの中心だったというのも喧嘩に拍車をかけた。そんな腐れ縁も中学も続き、雄馬の進学先が日本に決まりこれで終わりかと思ったのも束の間、梶浦さんも日本へと進学することになった。いや日本もそんなに広くないとはいえそれほどまでに狭くはない。なんで同じところに入学するのかっていうのは一瞬だけ考えたのだが、どうやら雄馬のお父さんと梶浦さんのお母さんが大学時代の友人で共通の友人がいて尚且つ生まれ育った土地なら問題ないという考えで同じ土地の同じ学校へと編入することになったらしい。いやこれはどう考えても俺の親父も一枚咬んでるじゃねえか。絶対に
二人は関わりたくはないばかりにお互いに学校では一切の交流をしないという約束というよりかは契約を結んだのだが、この通りその契約も破り捨て去られた。いや、親父たちがかかわっている時点で多分関わることになっただろう。
因みに二人の仲の悪さの原因の一因に雄馬の母親の出身がイングランド地方で、梶浦さんのお父さんの出身がスコットランド地方というのも含まれるらしい。
ついでにシャルの話なのだが、彼女もややこしい。いや正確にいうと彼女が加わるとさらにややこしい。
シャルの出身もこれまたイギリスで、正真正銘のイギリス人なのだが彼女の場合は少しややこしい。まず母親が日本人の両親から生まれて日本で育った生粋の日本人。父親がイギリス生まれのイギリス育ちなのだが、お父さんがイギリス人でお母さんがフランス人のハーフらしい。だからシャルは三分の一ずつに日本人とイギリス人とフランス人の血が流れているとのこと。日本に来た理由はお父さんの会社が日本支社を設立に合わせて転勤で来たらしい。生粋の日本アニメーションヲタクのシャルにとって願ったりかなったりだったとのこと。
それで一番ややこしかったのはお父さんの出身がウェールズ地方だということだ。
これにより今度は3人の喧嘩が始まったのだった。
ただし今度は平和的に解決された、というのもシャルの可愛さにやられた梶浦さんと同じくシャルに恋をした雄馬が不干渉の契りも忘れ、お互いの出生にまつわる話も忘れシャルの前に屈したのだ。結果としてシャルの独り勝ちと相成った。
なし崩し的に4人でつるむことが多くなったのは言うまでもない。
本当に因みの因みに、雄馬の初恋であるアルトリ〇・ペンドラゴ〇の元ネタであるアーサー王伝説はイギリスのウェールズ地方の物語であったりする。