奇な予感
「えっと、梶浦さん。俺そんなに目立ってる?」
あまりのショックに聞き返さずにはいられなかった。
「うん、それはとても目立ってる。だって入学初日に初対面であれだけ話こんでたら有名人にはなるよ」
「そ、そっか」
俺はショックで手に持っている段ボールの箱を落としそうになった。といってもそんな漫画みたいな行動するわけもなく、落ち着くために俺は両手で顔を覆う。
「竜司君、えっとその荷物落としたよ」
..........あまりのショックで内心の自己ナレーションすらも制御できなくなっていた。
「ああ、ごめん」
そういって、落とした段ボールを拾い上げる。すると底の部分が甘かったのか下の部分から紙の束が零れ落ちた。
「うわー」
やらかしたっと少し思いながら、零れ落ちた紙を拾い上げる。ただの紙だと思っていたものは生徒それぞれのことが書かれた書類だったみたいだ。おそらく担任が生徒の情報を照らし合わせるために教室に持ち込んだものだ。というかこういう書類は個人情報が記載されてる関係で保管にはかなりしっかりとしておかなければいけないはずなのだ。なのに、職員室からクラス全員分ともいえる個人情報が記載された書類を持ち出した挙句に、それを生徒に職員室まで運ばせるとはセキュリティの甘い教師すぎる。このご時世で問題だな。
中身がわかったから極力見ないように拾い集めてはいても、どうしたって書類の中身が見えてしまう。その中で偶然にも目の前の少女、梶浦さんの書類があった。いや偶然というよりかはクラス全員分なのだから当然のように書類があるのは当然で、偶然というのはその書類を俺が目にするという部分が偶然なのだ。
梶浦さんの書類、別に変なことが書いてあったわけでもなかったのだが少し変わっている部分があるとすれば梶浦さんの顔写真には金髪の梶浦さんが映っていたのだ。
「梶浦さん?この写真」
言ってしまってから失礼なことを言ったと思った。事情があるかもしれないことに無意識に踏み込んでしまったと思った。
「あ、別にグレてたとかじゃないよ」
梶浦さんは少しも慌てることも、挙動不審でも、言い訳をするわけでもなく言ってのける。
仮にグレたのが原因の金髪ならたぶんこの学校には入学できていない。それほどもまでに県内でもそこそこの学力を有する学校なのだから。いやだからこそ金髪には何かしらの事情があるわけでそれに俺は踏み込んでしまったのだ。
「えっと、別に個人的な事情ではないんだけど、書類の私の名前見てほしいんだけど」
そう言われて改めて彼女の書類を見る。
彼女の名前の欄には当然彼女の名前が記載されていたのだが、よくある日本人の姓と名だけではない長さの名前が記載されていた。いわゆるミドルネームというやつだ。彼女の本当の名前は「桜・グレース・梶浦」だった。後から彼女から説明されたのだが、ミドルネーム自体付ける意味は色々あるのだが、一番は同姓同名と区別するためらしい。特に文字の種類が少ない海外ならではの風習らいしい。まあようするに彼女もまたハーフというか生まれが海外というだけの話だった。このご時世でハーフが珍しい時代はとうの昔の話なのだ。ということにしておいた。
「へえ、てことは梶浦さんもハーフなの?」
「そう、それで日本で金髪は目立つと思ったから黒色に染めてみたんだけど、思ったよりも気にしなくてよさそう。」
まあ、彼女の言う通りでこの学校は校則が緩いというか染髪に関しては自由で日本人の生徒でも髪の毛を染めているのだ。だから今更金髪の一人二人で驚くことではないのだ。
そんなひと悶着がありながらも無事にすべての書類を集め終わり、職員室へと届け終えた。
その途中に聞いた話だが、梶浦さんはイギリス人のお父さんと日本人のお母さんの間に生まれたらしい。どこかで似たような話はあったのだが、彼女のほうが少し特殊でご両親はいわゆる駆け落ちで、イギリス国内で15歳までは生活していたのだが、お父さんの家が連れ戻しを再開し始めたこともあってお母さんの母国である日本に逃げてきたらしい。
70億もの人間がいればいろんなことがあるもんだと少し関心していた。
そのあとも梶浦さんとは話が弾み、げた箱まで一緒に来ていた。
「おう、竜司。一緒に帰ろうぜ」
そう声をかけてくれたのは、待ってくれていた雄馬とシャルだった。
しかし、少し手を挙げた雄馬は表情を硬直させる。
「なんでお前がいるんだよ、桜」
......................?
どうやら事実は小説よりも奇なりな予感