手遅れ
F〇te/stay ngh〇のアルトリ〇を携帯の画面で見た雄馬は「この人だーーー」という大声を上げる。少し涙を浮かべながらその画像を穴が開くほどにじっくりと眺める。10年近くの初恋の人との再会は感動もひとしおなのだろう。
ただ、あまりの大声にダイニングで呑んでいた親父たちはなんだなんだと少しこちらに視線を向けている。
ちなみにだが調べたイラストは発売当初のパッケージイラストを表示している。ただこれで雄馬のお父さんは必然的に古参のヲタクということが分かった。今から約15年前に同人ゲームとして発売された某ゲームは圧倒的人気によりその後様々な展開を見せ、アニメ化、各世代でのゲーム、派生ストーリー等々が実施されており今では超大人気コンテンツとして名をはせている。
雄馬が調べても見つからなかった理由は極めて単純、このゲームは発売された時18禁エロゲーとして売られたのだ、必然こういったものに対する規制の厳しい海外では普通の子供が探せる範疇では見つかるはずもない。それどころかイギリス国内に初期作品が持ち込めたのかどうかすら怪しい代物。どういう手段を使ったのかはわからないが雄馬が見つけた時にイギリス国内であのゲームは二桁存在するか怪しい。もはや奇跡に等しい。いや、そもそもで父親が父親だしむしろ必然だったのかもしれない。親子そろって金髪碧眼が好きとは困ったものだ。
その後、雄馬に見つからなかった理由とこの事実を親には伝えないほうがいいことも教えた。
結果として、いい結果として今回の一件は終了した。ヲタクではない人間をヲタクに染めるのは難しいと思っていたがこれで安心した。蛙の子は蛙というし、ほっておいてもヲタクの道を進むだろう。
家族同士の交流は親父たちが飲みつぶれたタイミングでお開きとなった。雄馬とは明日も学校で会うことだし何も心配はある。
明日から一体どういう感情で雄馬とシャルと関わればいいのだ、というか今日の我が家での出来事をシャルに話せない。というか話をすれば間違いなく、「やっぱり、衆道ではなくて」なんてことになりかねない。明日朝いちばんに雄馬に釘を刺しておかなければならないな。
幸いシャルは入学式当日に遅刻するような人間だほっていても遅刻ギリギリで釘をさす時間は十分にあるだろう。
朝、具体的には昨日と同じ時間通りに学校へと登校した。
俺の予想を裏切る景色が繰り広げられていた。雄馬とシャルが向かい合わせに座りながら話をしているのだ。雄馬は楽しそうに笑顔で話をしていて、シャルも笑顔なのだがシャルの笑顔は少しキモイ感じで息は荒く、ニコニコというよりもニヤニヤに近い笑顔を浮かべていた。それでも美少女というのはそれすらも美しく見えてしまうのだからズルい。
というかシャルが俺よりも早く学校へと到着していた。なんで?
「シャル、なんで先に来てるんだ」
「いきなりなんですか?」
「だって昨日、遅刻寸前だったじゃないか」
「昨日は実は、聖地観光していたら遅刻ギリギリになってしまいましたの」
はい?まさかこいつは重要な入学式当日に近くの聖地観光のために遅刻したらしい。
「それにしても、二人にそんな関係が存在したなんて。まさに「いうな」
俺はシャルのセリフを遮った。
「それよりもシャルこの辺りに聖地なんてあったか?」
高校付近は家からそこそこの距離だが、親の車で一緒に来るぐらいには近所ではあってそうとなれば中学時代の俺が聖地をチェックしていないはずもない。その情報だけで言えばこの辺りを聖地にした作品は存在しないはずだった。
「ありますよ、ただ同人作品の聖地です。」
彼女曰く、昨年の6月頃に突如現れた天才同人作家の作品に使用される背景がこの辺りなのだという。むろんBL作品である。
「そんなこともあるんだな」
シャルのBL談義はそこで終了し、というよりかは広げたくないので俺が終了させた。一般的な高校生の会話を三人で行う。授業は初回というだけあり自己紹介と先生からの説明とまあ退屈な時間が過ぎてゆく。授業の合間合間に3人で会話を繰り広げ続けていた。
早くも放課後、帰り支度を準備をしていると担任から声がかかる。
「竜司、これ運ぶの手伝ってやってくれ」
帰り支度を遅くなってしまったせいか、雑用を押し付けられた。この先生は俺以外にも運ぶ仕事をもう一人の生徒にも手伝わせていたようだった。
もう一人の生徒というのは女子だった。
この一言では変態に聞こえる。むしろ先生が頼んだ相手がこの少女で、少女だったから手伝いを俺に押し付けてきたのだ。先生が運べばいいと思うんだが。
ただ普通の高校生活を希望する俺にとってはいい出来事でもあって、詐欺ハーフのヲタク初心者男子と金髪碧眼腐美少女以外の友人を作るにはもってこいの状況なのだ。
もう一人の生徒である少女は、身長は一般的な女子高生の身長で長い黒髪を三つ編みにし左右からおさげにしていて、眼鏡をかけたThe委員長といった風貌の女の子だった。
そう、こういう感じ、こういう普通の女の子の知り合いとか欲しかったのだ。
「竜司君だよね、よろしく」
「ああ、よろしく。ごめん名前知らない」
「そうだよね、私は梶浦 桜」
「梶浦さんね、よろしく」
「よろしく」
「そういえば、なんで俺の名前知ってるの?」
少し期待をしながら俺はそう尋ねる
「だって竜司君目立っているから」
さらに期待する
「ヲタク三人組って」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヲタク三人組として
目立っている、つまり俺のさわやかな好青年としての高校生活はすでに手遅れ?