ー露見ー
「ねえ」
こそこそと女子には聞かせられそうにない話をしていた俺たちに声をかけてきたのは、俺の隣の席に座った女子だった。
少しきつめの視線は俺たち二人をとらえていて、でも非難しているような表情ではなくむしろ困惑したような表情をしていた。
俺たち二人から同時に視線を向けられた彼女は少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
「「...」」
三人の間にわずかな沈黙が流れる。
空気を読んだ雄馬は
「俺は雄馬よろしく」と俺に話しかけてきた時よりも少したどたどしく声をかける。
その流れに便乗し俺も自己紹介を済ませる。
「私は、シャルロット。三枝 シャルロット コルデー。シャルって呼んで」
恥ずかしそうに流暢な日本語で自己紹介する彼女は名前で分かるように日本人とどこかのハーフのようだった。
日本人ではありえない根元から綺麗な金髪。長いまつ毛に眉毛。整った容姿。日本人も成長してきたもののそれでも外国人には勝てないと思わせるほどの整った肉体。晴天を連想させるような碧眼。それでも日本人の要素なのか少しあどけない雰囲気を彼女はまとっていた。
順調に順調を重ねてきたがまさかこのレベルでの順調さがやってくるとは思ってもいなかった。入学直後の隣の席が金髪碧眼ハーフの美少女。
そんな期待を胸に抱きながら彼女とも会話をしようと次の言葉を考える。
けれども先に口を開いたのは彼女の方だった。
「ねえ、あなたたち。衆道に興味ない?」
「興味ない」
俺はそんな美少女シャルの口から放たれた言葉を即座に否定した。しかし、雄馬は衆道という言葉を知らないのか頭の上に疑問符を浮かべている。衆道を知らない諸君に説明をしておくと衆道とは江戸時代の言葉で、現代の言葉でわかりやすく言い直すと「BL」。もちろん、本の流通システムのブックライナーではない。いわゆる腐女子がたしなむあれだ。
つまり目の前の金髪碧眼美少女は金髪碧眼美腐少女だったというわけだ。
「おかしいわね、日本でも一般的になっていると聞いたのだけれども」
「いいかシャル、日本でも寛容になったとはいえ....」
目の前にいるのが美少女であることを忘れ俺は日本のヲタク事情を事細かに説明もとい説教を行った。そしてもっとも重要な衆道、すなわちBLをたしなむのは女子の方が圧倒的に多いということと、俺と雄馬にはそんな趣味はないということ。以上の内容を文章にしすれば400字詰めの原稿用紙10枚4000字をわずか2分の早口で俺は話し切った。
ハアハアと息切れを起こし一息ついている俺に対して
「あなた、ヲタクなのね」
と顔を輝かせながら迫ってくるシャル。
「俺は...ヲタクをやめたんだ」
俺は息を詰まらせながら自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「そう、それは残念ね。でも大丈夫、ヲタクってやめられるものではないでしょう?」
屈託なく笑うシャルに俺は少し複雑な気持ちになった。
「それで衆道って何?」
話に置き去りにしていた雄馬はいつ聞くべきかのタイミングをようやくとらえて聞いてきた。
本当は少しの間忘れていた。
「いや、雄馬は知らなくていい」
「そうなのか?」
「それよりも、さっきの話だけど」
「お前が昔ヲタクだったことか?」
「ああ」
「まあ、お前が黙っているつもりなら俺も黙っていてやるよ」
「ありがとう」
今日会っただけの友人なのにここまでもいい人間というのも珍しいと思う
「その代わり」
そうでもないのかもしれない。一体どんな見返りが要求してくるというのだろうか、雄馬の瞳は少しギラつき怪しい光を放っていた。
「俺をヲタクにしてくれ」
「は?」
想像の斜め下、予想外の見返りに俺はつい口の悪い聞き返しをしてしまった。けれども雄馬はそんなこと一切気にせずにシャルが話しかけてくる前見たいに体を寄せコソコソと話を始める。
「正直言うとな俺はシャルに一目ぼれした。初めてだこんな気持ちは、彼女との距離を縮めるには共通の趣味を持つのが手っ取り早い。そこでだ、元ヲタクだったお前ならヲタクの何たるかを知っているわけだ。だから俺をヲタクにしてくれ」
理にはかなっている。のだがシャルはおそらくBLを最重要に構えているヲタク、だからこそ彼をヲタクにするというのは腐男子にしてくれと言っているようなものなのだが、詳しくない彼には理解できていない。それに加えて俺はBLについてはある程度知っているだけで彼を腐男子にできるわけではないのだが、すでに恋に落ちて盲目的な状態の彼にそんなことを言ったところで聞くはずもない。だから俺はあきらめた。
「わかった、手伝うよ」
ヲタクにすることと恋を手伝うことを約束した。
入学初日で何かが大きく変わるわけもなく。入学式を行って、担任の先生から今後の話。それだけで帰宅と相成った。他のクラスメイトと仲良くなる時間があるわけでも、それほど親しくなれるわけもない。むしろこの短時間でここまで仲良くなっている俺たち三人の方が異常だった。
二人を誘って帰ろうと声をかける。
「ごめんなさい、私今日は用事があるの」とシャル
シャルはそう言ってそそくさと足早に帰っていった。
「じゃあ早速俺をヲタクにしてくれ」と雄馬
「そうするか」
そういいながらゆっくりと駅に向かって歩き始める。
「雄馬は本は読むか?」
「教科書でくらい」
「じゃあ漫画は?」
「ジャンプを立ち読み程度」
「アニメ?」
「日曜の朝に起きられたら見るくらい」
とりあえず学校近くのDVDレンタルショップへと向かう。
「ヲタク御用達の店とか行くんじゃねえの?」
「アニメイトだな。ダメだお前にはレベルが足りん。というかああいう店はある程度ヲタクになった人間がああいう店でしか手に入らないものを欲しくなったら行くもんだ」
「そういうもんなのか」
「いうなら、ゴルフしたことのない素人がいきなりゴルフ場にいくようなもんだ」
「なるほど」
俺の説明に納得したのか雄馬はおとなしくついてくる。
レンタルショップへとたどり着いた俺たちはすぐさまアニメコーナーへと直行する。
そして俺は面を向けて陳列していたアニメS〇Oの一巻をはじめに色々なアニメの一巻を手に取る。
具体的にはSA〇、シャー〇ット、幼女〇記、まど〇マギカ、ひぐらしのなく〇に
「とりあえずこれを借りてきな」
「一巻だけ?」
「様子見、好みのジャンルを見極めるためにとりあえず一巻だけ全部見てきな」
「わかった」
素直に雄馬はうなずきレジへ向かう。
会計を終え、駅の改札に移動した俺たちは互いに方向が反対ということもあり改札前で別れる
「全部見たら感想教えろよ」
「わかった、じゃあまた明日な」