雑談2
一か月間色々と奔放した結果、苦労した結果。
無事サイクリング部の設立ができた。当初俺が部長をする流れだったがシャルが連れてきたもう一人の部員である吉祥寺 恵が部長になった。こればかりは彼女に感謝しかない。このままでは高校生にして過労死なんていうバカみたいな話が出来上がるところだった。
サイクリング部の方針は楽しく走るというのがモットーに設立していたのでノルマはない。とはいえ形だけの部活というのも学校側に対して色々と困るところがある。なのでそこそこの大会かイベントに参加することとなった。
当初嫌々ではないが半強制的に入部する形になった俺を含めた悠馬と桜さんの三人だが、自分たちの新しい自転車に乗った瞬間に続けられるだろうかなどと迷っていた諸々は全て吹き飛んだ。
自転車を入手したことで三人は通学方法を電車から自転車に変えた。
俺の家は電車で学校に通うと少し遠回りするために時間がかかる。と言っても歩くには遠すぎる。自転車でもわずかに遠いがあくまでママチャリの場合だ。ロードバイクは乗り手にもよるがママチャリに比べて1.5倍から2倍近いスピードが出る。そんなロードバイクであれば少し楽しい距離だったのが幸いした。
悠馬と桜さんは俺よりも遠いが元々俺よりも身体能力も体力も高い彼らにとってはその距離がちょうどよかったみたいで二人も楽しんで自転車通学になった。
サークルの方は今すぐに大きく動くことはなかった。細かな立ち上げや作品制作等々に関してはあるにはあったがそれも個々人に依存する部分で、強いて言うならゲームのジャンル決定くらいだが一向に決まる気配を見せていなかった。
そんな宙ぶらりんな状況での放課後での二次研。
俺は二次研の部室中央に据えられた長机で一人唸っていた。
「ダメだ思いつかん」
そう呟いては伸びをして再び暗中模索の思考を繰り返す。様々な手続きが終わってひと段落したころ合いで入部当初に姫島先輩の提案で持ち上がった今年の冬コミに向けた作品作成について考え始めていた。
俺はゲームではストーリー担当だが個人での作品となるとやはり小説を作ることになる。文化祭や同人誌くらいのちょっとした小説であればネタはある程度あるしそれほど悩まなくてもいい。
ただゲームとなると話が変わってくる。一年以上の余裕があるとはいえ素人による初挑戦、早すぎて困ることはないはずだった。
そして同人ゲームではサークル主もプロデューサーもディレクターも兼任するのが普通だ。そうなると必然ストーリー担当が大まかな方向性を決めてしまうことになる。もちろん企画書の段階で全員の了承は取る必要があるのだろうけれども、イラストを担当してくれる姫島先輩以外サブカルチャー全般に詳しくはない。よって事実上の白紙委任状だった。
俺を大きく悩ませている大きな原因の一つが音楽担当の専門がいわゆるロックなのだ。
本人たち曰くジャンルがあるのだがどうにもイメージが湧かない。作中歌としていくつかのアニメでは登場するが、ゲームのストーリーそのものに組み込む要素としては発想が貧困な俺ではイメージが掴めずにいた。
「うーん」
何度目か分からない唸り声をあげる。
「少し休憩しようぜ」
と備え付けのコーヒーメーカーで淹れたコーヒーを置きながら悠馬が声を掛けてくれる。
「ありがとう」
そういいながらシュガースティック5本とミルクを2個ぶち込む。
「嘘だろ、入れすぎじゃねえか。こんなに旨いのに」
「どうにも糖分が欲しいんだ。コーヒーはブラックか駄々甘いのどっちかしか飲まないんだ俺」
「中間はないのかよ」
「ない」
俺が飲む激アマコーヒーを少し弾きながら悠馬はブラックを飲む。
「オイシイ」
と入部してから何度か同じコーヒーを飲んでいるのにも関わらず盛大に感動しながらコーヒーを飲む悠馬。
「そんなに感動するもんか?淹れてもらっておいていうのもなんだが普通のコーヒーだろ」
特段高級なコーヒーメーカーではない、家電量販店で見かける平均的なものだ。豆自体も特別なものではない、購入しているのは東堂先輩だが先輩も普通のスーパーで安いものを買っていると言っていた。取り立てて特別ではない。
「いやオイシイだろ。イギリスじゃあこんなのめったにないぞ」
「分からん。イギリスって飯がマズイって聞くけどコーヒーもまずいのか?」
「まあ飯は不味いのは事実だ。コーヒーは日本にきて初めて気が付いた、イギリスのがマズイって」
「水だよ」
話が聞こえてきていたのかシャルが会話に参加する。
「イギリスは水がとにかくマズイ。結局どの食品にもある程度水が使われるから平均的に不味くなるのよ」
と物凄く実感の湧く説明をしてくれた。
実際にイギリスには行ったことはないのだが食文化に関してはイメージ通りに近いようだった。
もっというと日本人はどうにも舌が肥えている傾向にある。
四人でファミレスに行ってもそうだがしきりに三人は感動するのだ。
「そうだ、シャル今度晩飯食べに来ないか?」
俺はその日の朝にあったことを思い出してシャルにそう声を掛ける。