表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のラブコメどこ行った  作者: 如月 羽藺葉
16/22

度し難い

 「はあああああ」

 社畜のようなため息が漏れる。休日を挟んだ週の初めである月曜日に朝。本来なら溌剌とした元気が出ているはずだった。気合を入れ直すために体を伸ばす。バキバキと到底高校生とは思えないような音が体から鳴る。伸ばした体を一気に弛緩させ再びため息をつく。

 「お兄ちゃんオッサンくさい」

 妹から容赦のないセリフが飛んでくる。

 「ごめんごめん、どうにもしんどくてな」

 「風邪じゃないよね?」

 「大丈夫、疲労感の方だから」

 ここ最近はずっとこんな調子だった。サークルの活動計画が決定してからというもの俺は忙しい日々を送っていた。通常でもかなり速度の速い授業と量の多い課題。それを基本にしてサークルの細かな計画。来年の夏コミから逆算した細かな日程を部の先輩たちに聞きながら計画し、姫島先輩の知り合いと週末会い話を聞いたりしていた。もちろんそれだけが忙しい理由ではなく、サイクリング部の部活に関する諸々の手続き。主に部活動計画、正式な名簿やマニュアル、生徒会や教師たちからの説明等々を同時にこなしつつ自転車購入のための資金集めに休日の短期バイトの日々を過ごしていた。気が付けば入学から一か月が過ぎようとしていた。

 唯一助かったのは自転車購入資金に目途が付き始めていたことだ。高校入学の祝いをしていなかったという祖父や両親たちがそこそこのお金をくれたことで目標金額の手前まで来ていたこととシャルのお父さんが娘の友人割という値引きをしてくることになり目標金額が下がったことが大きかった。

助かる必要ができた理由がシャルが原因だったことを考えればかなりマッチポンプな気もしなくはない。もっと言えば俺が忙しくしている理由の大部分もシャルが原因だったことを思えばかなりマイナスでしかない。シャルがサークルの方はともかくサイクリング部の方を一切手伝っていないことに関しては文句の一つも言っていいと俺は思う。

 「お兄ちゃんも大変だよね」

 そう言いながら向かいに座った妹はコップに牛乳と豆乳を注ぎながらそうつぶやく。俺の現状の話は妹は既に把握していた。どうせ母親から聞いているのだろう。

 「ねえねえそのシャルさんって人美人?」

 と興味津々に聞いてくる。

 「美人は美人。」

 「何その内容。いいよねー金髪碧眼美少女」

 俺の現状を知ってか新しくできた友人について事細かに聞くようになった妹。元々俺について興味がなかった妹だが脱ヲタを目指した結果ようやくマトモな見た目になった俺に対して世間一般的な兄に対する態度にまで関係性が回復していた。中学時代のヲタク全盛期の氷河のような態度を思えばかなりよくはなった。同人サークルについては少し話を誤魔化して伝えてあるのでどうやらヲタクを辞めたと思っている。妹は俺とは違いごくごく普通の女子中学生。イケメンとオシャレが大好きな普通の女の子だ。外国人に少し憧れるような今どきの中学生。そうでなくても金髪碧眼美少女というのはどうにも気になるのだろう。写真はないのだとかどういう人なのか趣味は等々聞いてくる。その都度全て答えるわけではないがそれなりには答えていた。それでも結局どこまで行ってもシャルに関する感想は「美人は美人」でしかない。決して性格が悪いわけではない、むしろ天真爛漫溌剌とした太陽のような明るい元気な性格だ。

 行動が突飛すぎるのだ。やることなすことが変でしかない。

 ある日は購買に全力疾走し始め誰よりも真っ先に焼きそばパンを買ってきた。またある日は立ち入り禁止の校舎の屋上に無断で立ち入り先生に説教されてた。またある日は唐突に将棋の本を読み始めたかと思うとその放課後に将棋部に突撃し将棋部の部長をボコボコして帰ってきた。と代表的な変な行動はこんな感じだが細かな話を含めるとキリがない。少し気の毒なのだが職員室で頭を抱える担任を見かけたときは本気で心配になった。ただ最近は少し分かってきたのだがシャルの行動基準は好奇心に身を任せているということにだ。おかげで最近は変な行動を察知し事前に止めることができるようになっていた。全てがすべて止められるわけではないのが難点だ。

 「ともかく俺は学校に行くから。」

 「行ってらっしゃーい」

 そう言って机から動かずに見送る妹。まあこんなもんだろうと心の中で考えながら玄関で靴を履き玄関を開ける。目に飛び込んできたのはいつもの見慣れた景色。ただその中に太陽光に反射する金色があった。

 「おはようございまーす」

 シャルだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ