二重リーダー
さて自分たちの方向性というか二次研としての活動内容は決まったものの具体的な内容については一切決まっていない。というかこれは余裕がないのでは?
「ゲームを作るにしても細かい部分を決めるないと厳しいっスからね」
姫島先輩も理解しているならありがたい。きっとゲームの製作経験があるのだろう頼りになる。
「あ、私ゲーム制作の経験ないっスよ」
「え?」
これには全員が唖然とした。経験があるからこの提案をしたのだと思っていた。
「もっと言うと今在籍してる二次研のメンバー全員経験無しっス」
終わった。製作決定1分で頓挫。解散。
「何とかなるっすよ」
なんと楽観的なのか。恐怖を覚えた。それでも俺以外の三人は既にやる気になっていて何とかなると思っている。
「でもコミケに関しては任せてくれっす。経験豊富だしツテも結構あるんで。」
姫島先輩の一番の強みはここだ。コミケへの参加数。幼少期から両親のサークルに出入りしどんなに忙しくても一年に一度のペースで参加したと言っている圧倒的な経験値。それによってできたツテを利用させてもらえばゲーム制作も少しは参考になるのではと期待することにした。
「最低でも今日中にサークルをどうするのか、どのコミケに参加するのか、ジャンルくらいは決める必要があるっす」
流石に経験者だけありこの辺りはテキパキとしている。正直悠馬と桜さんは非ヲタだけありサブカル自体も表面的な知識しかないうえにここまでのディープな知識は皆無に等しい。シャル自体はそれなりの知識はあるみたいだがあくまで消費側としての知識。製作側の知識はかなり薄い。そういう俺自身もそれほど詳しい訳ではなく、三人に比べれば詳しい程度だ。基本的にはTwitterで流れてくるサークル主の話を覚えている程度。実際のアレやコレやについてはからっきし。
「新しく作るか、二次研のサークルに参加させてもらうか?ですよね」
「その通りっす。流石話が早くて助かるっす」
「皆はどうしたい?」
「私はやるなら新しくがいい」
「同じく」
「右に同じね」
「じゃあ新規立ち上げっスね」
こんな簡単にできていいのだろうか?ただ部長や姫島先輩の表情から見るにそんなに変な話では無いのかもしれない。
「申し込みは冬コミか来年の夏コミのどちらかですよね」
「その通りっす。今年の夏コミは既に申し込み終わってるっすからね。」
この話にシャル、悠馬、桜さんは早いほうがいいと今年の冬コミがいいと言い出した。そうはいったところで一切ゲーム制作のノウハウを持ち合わせていない我々が一年未満の製作期間で完成させることができるのか?ボリュームやジャンルにもよるのだろうが少し厳しいと感じる。同人漫画やイラストであればそれほどに難しくはないと思う。同じことを考えていたのか姫島先輩も難しい顔をしていた。
「多分厳しいというか無理だ。」
俺はそう言葉にした。姫島先輩が口にすると皆経験値を前に無理やり納得した感じになってしまうのを避けたかった。先輩と考えが一緒であることを祈りながら俺は事情を説明した。
一つはサークル運営未経験者が一年未満で準備ができるかどうか、いくら姫島先輩や他の先輩たちがいたとしても先輩たちにも自分たちのサークル活動があること。二つ目に各々がゲーム制作のノウハウがなさすぎる。それぞれが得意な分野ではそれなりにできるとしてもそれを一つに集約するための手段を知らなさすぎる。それをさっきと同様に一年未満で完遂できる確率はかなり低い。それもサークル運営と平行して行わなければならない。あとは費用面、サークルに掛かる運営費用とうとうは部費で賄ってくれるとはいえ全額とまではいかないだろうし、建て替えもかなり出てくる。これらの話を三人に説明をした。これにはさすがの三人も少し勢いをなくした。その表情に罪悪感を覚えたが無茶な発進で空中分解するよりかは良いと自分に言い聞かせた。
「じゃあどうするの竜司」
「参加は来年の夏コミだ。」
この判断が正解だ。
「いや今年の冬コミっす」
しかし、この判断を切り捨てたのは姫島先輩だった。ただそれだけで終わる訳でもなかった。
「ただし、ゲームは作んないっス」
そう言ったのだ。これには勢いづいていただけあり三人は怪訝な表情をする。というか三人の表情が読みやすくて助かる。
そのセリフの後に冬島先輩が説明を始める。
先輩曰く、まず今年の夏コミを二次研もしくは姫島先輩のサークル(R18じゃない方)のサークル運営を手伝う。これで二次研のルールをクリアしつつサークル運営のノウハウを勉強する。その流れで文化祭と冬コミ、後は日々の活動をアップしながら知名度を上げる。知名度ゼロでいきなり言っても成果は得られないゆえにとのこと。今年の冬コミで小説、音楽、イラストを販売。自分たちでサークル運営し製作の流れを掴み経験値アップ。そして来年の夏コミで同人ゲームを販売という流れを説明した。この話に落ち込んでいた三人ん表情が変わった。
姫島先輩は簡単に言ったが全て同時に並行的に行わなければいけないという難しさは依然として残っている。それでも少し希望が見え始めていた。
これで二つの問題は解決した。あとはジャンルだけだが、ストーリー:ゴリゴリのファンタジー系が得意。音楽:ロックが得意。イラスト:ジャンルは全般的に描けるがある程度の偏りがあり。まとまるのかこれは、ロックが主張が強すぎる。せいぜいポストロックがマッチする可能性がありといったところだろう。そんなことを一人ぶつくさと考えていた。
「そこはストーリーの腕前っすよ」
思考を読んだのか姫島先輩はとんでもないことを言う。
「難易度が高いです」
「やると決めたからにはやらないと」
「ですよねー」
「でもまあ、ジャンルはすぐに決めなくてもいいかもっすね。」
もう少し悠馬や桜さんにも詳しくなってもらわないといけないからこそジャンルの決定は先延ばしにすることにした。
「因みにサークルリーダーは竜司ね」
シャルの再び俺に押し付ける行動がなければ平和的に終わったと思う。