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2.職場環境について

早く新型コロナウイルスが、過去のものになりますように。

 私が働いている職場は所謂「大病院」で、病床数もさることながら、多岐に渡る診療科、検査数、1日に受診にくる人数も地域最大級です。


 ただ、大病院故の役割もあり、当院は新型コロナウイルスの発生後、しばらくしてからの受け入れ開始となりました。


 そのかわりというか、新型コロナウイルスによる肺炎を起こした患者さんでも、最も重症な方だけが転院されてくる役割となりました。


 なので、一部の病棟がコロナ対応専門の部署となり、そこで働く医療者は厳格な感染対策実施をすることを徹底して指導されました。


 当院では「感染制御チーム(ICT)」という専属のチームがあり、そこが中心となって院内感染対策の検討と実施がなされました。


 「感染制御チーム」は感染症学の医師と「感染管理認定看護師」で構成され、各診療科の医師達や看護師たちはその末端構成員という立場になります。


 新型コロナウイルスが流行し出した始めの頃は、そもそもの感染経路が不明であり、情報が錯綜しました。


 少しだけ詳しく説明しますと「空気感染」なのか「飛沫感染」なのか分からないということでした。そのどちらかで、医療者が行わなければならない感染症対策が変わってくるので、その感染経路はとても重要な情報でした。


 現在では新型コロナウイルスは「飛沫感染」として対応しています。

 

 「飛沫感染」は唾液の飛沫により感染することです。感染者の「飛沫」つまり喋ったりしたときの飛沫が誰かに入ったり、食べ物を介して感染していきます。


 対して「空気感染」は細かいウイルスが感染者の飛沫から飛び出して、空中を浮遊するようになります。それを吸い込むことで感染が広がっていきます。


 「飛沫感染」はインフルエンザウイルスや所謂普通の「風邪」などが当てはまります。「空気感染」のほうが珍しく、「結核」「はしか(麻疹)」等、数種類とされています。


 空気感染対策となるとN95マスクや陰圧室(外からの空気が室内に出ていかないようにする部屋)が必要とされます。


 しかし、一般的にこうした部屋を準備するにはそれなりに整った病院でなければなりません。普通の中小病院には陰圧室は必要ないのです。(特殊な診療科を掲げている病院を除く)


 今回の新型コロナウイルスは飛沫感染でしたが、重度の肺炎となると人工呼吸器管理が必要となります。


 その人工呼吸器を使うために口から気管支に管を入れるのですが、その時には患者の体内から細いウイルスが放出されるとなっています。そのため、コロナ対応病棟では念のためN95マスクを着用しています。


 数が足りないので、使い回しです。何時間使ったら交換といった具合で、マスクの管理がされています。


 市中によく出回っている「サージカルマスク(鼻の辺りに針金が入っている顎まで覆うタイプ)」は1日一枚が原則です。


 またコロナ対応する場合は、帽子、ゴーグル、マスク、長袖ビニールエプロン、手袋、シューズカバーをすることになっています。


 これを個人防護具(PPE)といいます。


 これを付けての仕事が本当にきつい。日頃はマスクと手袋くらいで仕事しているので身軽なのですが、それに帽子やらエプロンやら、息のし辛いN95マスクを連続してつけ続けなければならないのです。


 もし重症の患者さんが放射線を使った処置をする場合には、放射線防護の鉛服プロテクターも付けます。その圧迫感は今まで感じたことのないくらいのストレスでした。


 また休憩や仕事終わりに、それらを外すのにも神経を使います。外し方を間違えたり、その後の手洗いがしっかりなされなければ、自分が確実に感染してしまうからです。


 また外来では相手が感染しているか分からないため、日々戦々恐々としています。

 

 特に呼吸器系の外来や心臓、脳神経系、それから救急外来は本当にリスクが高めです。


 熱が出ていて、特定のレントゲンやCT画像が見つかれば、新型コロナ感染疑いとして対応せざるを得ないのです。


 「この人コロナかも」と判断した時点で、患者はすぐに陰圧室へ移送。接触した人たちをリスト化して今後の様子を見ていきます。そしてすぐに感染制御チームと連携して感染拡大を防ぐ方法を協議しながら治療や検査を進めていきます。


 自身がコロナに感染したかもという問い合わせの電話もすごく増えています。ネットやテレビで再三症状については報道されているにも関わらず、健康な人が「熱が出た」というだけで病院に電話をしてきます。


 不安が不安を呼び、病院をはしごする人も居ます。これは厚生労働省からも言われていますが、絶対にやめて下さい。感染していたら撒き散らすことになりますし、医療費の無駄が多くなります。



 リスクが高く、仕事のストレスが凄まじいため、心身共にすぐに限界が来ます。


 家族に感染させないため家に帰れない人や、車やホテルで生活することを選択した人もいます。


 当院は大きいだけあって、まだ余力がありますが、院内感染や物質の供給が滞ったり、家族や子どもを預けられないと人材も減ります。


 一つ何か破綻したら、すぐにでも崩壊するリスクを背負っています。


 また病院経営自体も苦しくなっています。


 予定していた手術や外来患者の規制、患者自らの自粛により、病棟稼働率は軒並み低下しています。


 病院といえど、患者=お客さんがいなければ収益もありません。


 これだけ命削って働いた先に、ボーナスカットやボーナス減給されたら、正直言ってやってられません。


 医療は無償ではないのです。


 その辺りは各自治体が支援を打ち出していますが、雀の涙程度で現場の人間にそのお金が回ってくるのは微々たるものです。


 早く人々が「自分は健康になりたい」「病気を治したい」という気持ちが起こらなければ、医療者も破綻してしまうので、なるべく早くこの事態が収束してくれることを祈るばかりです。


 当院はまだマシですが、中小病院は本当に悲惨な現状となっていることが容易に想像できます。


 一刻も早く医療者の保護と保証、感染拡大の防止が出来ることを切に願います。

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