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4話 幽霊は退治可能か否か


 幽霊がいない。

 そう言えば、今、外にいるにもかかわらず、一体も幽霊を見ていない。


「……どうして……?」


*それが、正直な感想。私はもう、どうしようもなく、終わって、壊れて、狂気に染まり、絶望に落とされ、奈落の底まで墜とされ終わっていくと、理解してしまう。*


 どこを見ても、幽霊はいない。

 ハルさえもいない。


「見え……ない」


 幽霊がどこにも見当たらない。おかしい。なんで、見えていないのか。委員長は見えていて、私には見えない幽霊――あるのだろうか。


「どうして見えてないの……夕子ちゃん」


 がたがたと震えてしまっている彼女は、再び涙目になる。


 私は幽霊が見えていない原因を探すのを後回しにした。適当に戯言で取り繕う。


「もしかしたら、私には見える幽霊と見えない幽霊がいるかもしれない。でもその結論はどうでもいい。委員長、私の家まで逃げよう!」


「うん」


 私と委員長は逃げた。お互いに自転車だったこともあり、また、隣市から来たこともあり、その幽霊と距離を開けるのは十二分だった。



 私の家につき、私の部屋まで彼女を案内した。


「この部屋なら大丈夫。幽霊が出にくいから」


「そうなの。……ありがとう」


 私に寄り添ってくる委員長。

 安心な場所が私の近くだと思っているのかもしれない。


 それにしても。


 不可解だ。今まで確かに、幽霊が見える相手に会ったことはない。だからこそ『私が見えない幽霊と、相手が見える幽霊』がいて、また、その逆パターンもある……そう考えた方がいいのかもしれない。


「……悪寒を感じない、夕子ちゃん?」


「えっ?」


「幽霊が今も、近づいている感覚。ないの?」


「ないけれど……。というよりも、私は幽霊が近づいてくるって感覚自体、あまり――」


 そのとき、私は委員長の表情から感じ取ってしまった――理解してしまった。

 委員長は私を見ていない。別の方を見ていた。委員長は凝視しながらも脅え、恐怖に支配される。だから嫌でも理解してしまう。

 私の部屋に、委員長しか見えない幽霊がいる。

 委員長は私の元から離れ、角――恐らく幽霊とは真逆の方向に逃げる。


 何ができる、私には?

 見えない幽霊と、どうやれば勝てる?

 どうすればいい?


 様々な考えが頭の中を渦巻く。

 思考中に思考。

 その思考中にも思考。

 その思考中にも思考。

 その思考中にも思考。

 その思考中にも思考。

 その思考中にも思考。

 思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考思考――

 思考を重ねていく

 ――テンソル積の要領

 ――畳み込みの要領で意識を膨大にし、

 そして、




*私は幽霊を見ることができるようになっていた。*





*現実と妄想の世界の狭間――幽霊の存在を目の当たりにした。*

*本来霊感のない私が、イマジナリーフレンドによって、幻想と現実が混ざり合った私の世界で、私は新たな『世界』――第三の世界を創り上げてしまった。*

*第一と第二の世界――現実と妄想の世界の上に、幽霊の世界という第三の世界をを重ねてしまった。*

*普通の人間なら現実という世界しかない*

*だけれど今の私は三重――現実の上に幻想を重ね、現実と幻想の上に幽霊の世界を重ねてしまった。だから見えてしまった。*


「……いた」


 目の前に瞬間として、現れた幽霊。

 どうして急に現れたのか分からない。だけれど、はっきりとこの目で見た。

 相手は、本当に幽霊のようだった。


 私が今まで出会ってきた幽霊は人間を透明にしたような姿だったが、コレは――眼の前の存在は異形だった。

 闇の色――混沌が、全面にあふれ出ている。正気じゃないようなオーラを纏いながら、それでもなお、幽霊の中心は狂気をさらに求めている。異常な存在と一言で片づけてしまえば簡単だけれど、目の前のソレはもはや異常という程度の言葉では足りない。

 足のない存在は当たり前、四肢もなし。人間のような姿は当たり前だがしていない。

 顔が幾層にも重なっていて、幾つにも枝分かれしている。口腔まで見え、存在を十二分に――兆分に醸し出している。

 明らかな、化け物。

 よくないものと言われなくとも、見れば分かる。誰もが同じ答えをするだろう――これは、化け物であり、化け物以上の異常たらしめる存在だと。


 ……そこまで理解し、だから当然、身体が震えた。化け物の速度はそこまでではない。だけれど、恐怖で身体が縛られている。

 糸で縛られいる感覚。そのまま糸で絞られている感覚。

 身体のありとあらゆる部位に糸が雁字搦めにされている錯覚。

 幻覚でここまでのことが可能か否か――いや、そもそもこれは幻覚じゃない。これは、まぎれもなく、間違い用もなく疑いようもなく、現実だ。

 幽霊という現実が私の頭を駆け巡る。これは幽霊なんだと。

 そして私や委員長――人をかき消せるほどの化け物だと理解している。もしもこの存在に飲み込まれれば、死よりも異常なことが起こるに決まっている。眼前の存在が見えるのなら、誰もがそういう。

 私は考える。

 逃げても根本的な解決はしない。この幽霊は追ってくる。

 委員長を目掛けて追ってくる。

 私は同類となった委員長を助けたい。

 助けるなら必要な事を考え解を見つける――それはこの怪物を殺すこと。

 殺せるという可能性があるかどうかは知らない。だけれど、絶対に殺せるという意思がないとコイツには立ち向かえない。


「ゆーちゃんなら楽勝だよ! いつでもどこでも、いきなり刃物を取り出せるんだよ! 一刀流の達人――いきなり刀を顕現させるくらいおちゃのこさいさい。しかも、目の前の怪物もやっつけられる。あたしとゆーちゃんならね!」


 声が聞こえた。姿見えずともこれは間違いなく、ハルの声だと確信している。私は、私の心に委ねる。委ねて


*私の世界へとダイブする。*


*私の世界から取り出すのは、幻想の『最強の刀』*


 刀が顕現する。

 私は反射的に理解する。

 これは――あいつを殺せる刀だと。

 刀を幽霊に定め、そして私は刀を一振りする。


 残心。


 散っていく。最悪な存在である、狂気の存在は霧散していく。無いものとされていく。

 最悪な幽霊は、私の一太刀で消え去った。

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