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2話 彼女は幽霊が見えるのか否か


 喫茶店。和風チックな店だ。

 そこで、私と委員長はテーブルに向かい合い、座った。

 頼んでおいた注文品(私はオレンジジュース、委員長はコーヒー――角砂糖をだばだば投入)を飲む。


「美味しいわねこのコーヒー」


 委員長はコーヒーカップを置く。そして長髪の黒髪を弄りだす。

 ……ああ、私も何か言わないといけないか。


「オレンジジュースも美味しいよ」


 何これ。私のコミュニケーション力が死んでて何も会話にならない。ハルと会話するときは簡単にできたのに――


*夕子はその考えを忘れる*


「夕子ちゃんってさ、寂しくないの?」


「――?」


 よくわからなかった。というか、女子高生がする会話ではない気がする。

 女子高生がいきなり女子高生に対して「寂しくないの?」と、ほぼ唐突ともいえる状況で言われても、それは、


「寂しく……ないよ?」


 疑問符ある言葉だけれど、そう答えるしかない。


「あ、違う違う。結論から聞こうとするのはおかしいよねー、あはは。昔からあたしって、相手が同じ状況に――同じ思考状態にいるって勘違いしちゃって、相手を置いてけぼりにしちゃうときがあるの。ごめんねー」


 学校にいるときの彼女とは少しばかり違う。


「大丈夫よ。それで――どうしていきなり私に、寂しくないかどうかなんて聞いたのかしら?」


 委員長は顎に手を当て、考えをまとめてから話す。


「夕子ちゃんってなんていうか、あまり人を寄せ付けたいと思ってないようにしてるよね。ここまでは合ってる?」


 人を寄せ付けたくないと思っている。まさにその通りだ。私は幽霊が見える。そしてそれを仲の良い友達がいた場合、その友達から奇怪な目で見られたくない――だからあらかじめ、他の女子と距離をとっている。

 だから委員長の質問に答えるなら、


「まあ、合ってるよ。私は一人が好きだからね。あまり人とは関わりたくない」


 もちろん、これは嘘偽りの答えだ。


「嘘、でしょ?」


 彼女の表情は、特段普段の表情と変わらない。表情が変わらず、嘘と言った――嘘だと見抜かれた。


「まあ、たとえ嘘でもなくてもいいかな。とにかく、貴方は必然と一人を好んでいて、それで寂しくないの?」


「寂しくないよ」


 私は一瞬も躊躇せずに答えた。一人でも寂しくなかったから。


「……本当に一人で寂しくないの? そりゃあ、両親や兄弟がいるから悲しくない――そう言われれば分かる。だけど、学校で一人ぼっちは寂しくないの? お節介かもしれないけどね、私は心配している。貴方が一人ぼっちのままに、実は心の奥底ではとても悲しい――そんな妄想をしてしまうと、あたしは貴方がどうしても心配なの。本当に、大丈夫なの?」


 大丈夫だ。私には、ハルがいる。そして『夕子(×)』もいる。

 一人じゃない。


*いや、違う。これはつまり、結局は一人なんだ。一人だということに変わりない。*

*それが一人ままごとだと気づいた夕子は――*


 大丈夫だ。私には、ハルがいる。そして『×』もいる。

 ××××××。


 ――? あれ、私は何を思っていたんだっけ?

 まあ、いいか。


「『私』は大丈夫だよ」


 『私』は本心からそう答えた。


「あれ、てっきり本当は寂しいって、悲しいって、そう答えてくれるとおもったんだけどなあ……勘違いかぁ」


 そしてコーヒーカップに口を当てる。彼女――委員長は長髪である自身の黒髪を気にしながら飲んでいるようだった。


「邪魔なら切らないの、その髪?」


「まあ、あたしのトレードマークというか、長髪のほうが印象いいから伸ばしているだけなんだけど、夕子ちゃんの言う通り切ったほうがいいかもね」


「……でも、切らないほうが委員長っぽいからそのままでもいいと思うわ」


 なんか、さっきと言ってることが逆だと私自身感じながらも、そう言ってしまった。


*私は長髪の委員長が好きなのだ。ハルと同じ、長髪、黒色の滑らかなで艶やかな髪質が、好きで好きで堪らない。*

*夕子のその考えを『夕子』は消去せざるを得ない。……既に修正が効きにくくなっていると気づきながらも、その考えを結び付ければ、夕子はハルをイマジナリーフレンドだと理解してしまう。*


 その後。

 なんやかんや、ガールズトークにある程度花を咲かせながら、喫茶店を去っていく。


 喫茶店から出た後、委員長は突然、下を俯いていた。俯いてないから表情は読めないだけど、身体が震えていた。それほど、何かに怯えていたのだと理解した。

 私は彼女を心配してしまう。


「大丈夫、委員長?」


「……あの、もし今から話す内容で、あたしが嫌いになっても、他の人にはその内容を話さないでほしい。その上で、あたしの話、聞いてくれる?」


 委員長のこんな姿、見たことがない。今までは、溌溂とした姿を見せてくれたり、相手のことを良く考え、奔走してくれているあの委員長がこんなにもネガティブさを前面に押し出した表情をするなんて、意外だった。あの委員長がちっぽけな存在に――か弱い存在に見えてしまう。

 そんな姿を見せられてしまっては私もこう答えるしかない。


「いいよ、委員長の話聞くよ。他言無用ってのも、しっかり守ってあげるわよ」


 言った。言ってしまった。言い切ってしまった。

 委員長は口を開く。


「あたし、幽霊が見えるんだ」

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