後編
「レイト……久しぶり、だね」
「レイトさん……」
「おにい、ちゃん」
え、なに感動の再会みたいな雰囲気出してるのこいつら。
お前ら、俺に何したのか忘れてねぇか?
「ごめんね、レイト。あたし、一番大事なモノを見失ってた」
「私も、レイトさんのことが忘れられなくて……ずっと後悔してました」
「わたしも、気づいたんだ……いつだって、わたしを大切にしてくれてた人が誰だったのか」
じりじりと、俺に擦り寄ってくるクソビッチ共。
そんな後悔してる割に、今まで会いに来なかったよなお前ら!?
つか明らかに勇者死んでから、都合の良い男筆頭の俺を頼りに来ただけだろ。
はぁ。ブチ切れそうだわ。
「あたし、もう大事なモノは二度と見失わないよ。レイト……レイトの事を、見失わないから」
そう言って、カレンが俺の手を握ろうとしてきた。
当然、その手を振り払った。
勇者と散々イチャイチャしたような手で触んなよ。汚ねぇな。
「えっ……レイト?」
俺から手を払われたのがショックだったのか、傷ついたような表情でカレンはこちらを見つめてきた。裏切り者の中古から触られて、嬉しくなるとでも思っていたんだろうかこいつは。
「触るなよ、そんな仲でもないだろ?」
めんどくさくなった俺は、そう一言だけ伝えてやった。
既に恋人でもなきゃ、幼馴染でもねぇ……。
最悪の知り合い程度の奴には十分な対応だろ。
「いやだよぉ……そんな他人みたいな態度、取らないでよッ‼」
涙を流しながら、カレンは俺に怒鳴る。理不尽すぎる。
むしろ他人に対する態度と同じだけ、感謝しろよ。
マジでお前ら、自分のやった事忘れてんだろ。
俺に何をした? あんなことされて、どうして仲良く出来ると思える?
「レイトさん……そんな事言わないで下さい。私達、どこにも行く場所が無いんです」
心細そうな顔をしたフィリアが、上目遣いで俺を見て来た。
前だったら、悶絶するくらい可愛いと思っていただろうが、今は腸が煮えくり返る程の怒りしか湧かない。
「ん? そういえば、貴女誰でしたっけ? すみません、記憶になくて」
「えっ……レイト、さん……? うそ、ですよね」
「知り合いだったかな? うーん、思い出せないなぁ」
「やめてください……‼ どうして、そんな酷い事言うんですか……?」
お 前 が 言 っ た か ら だ よ ボ ケ ‼
自分が言われたらどう思うか、少しは分かっただろ?
いや、わかんねぇだろうな。だからクソビッチなんだろう。
「レイトさん……私、まだレイトさんの事が好きなんですッ!」
どの口で、そんな事が言えるんだろうか。
なんだかもう疲れて来たよ。こいつらと喋ってることほど無駄な事はねぇな。貰えるのがストレスだけとか……。
「お願いします、レイトさん‼ ゆるしてください。レイトさんのしたい事……なんでもします。好きにしていいですから」
好きにして良いなら、魔物の巣にでもぶち込みてぇわ。
まあ、流石にそれは出来ないけどな。
出来ない以上、この女にして貰いたい事なんぞねぇし。
あっ、ひとつだけあったな。
「何でも言う事聞くのか?」
「は、はい!! 何でもします。レイトさんに許されるなら……あっ、そういえばその、私、男性を気持ち良くする事なら、とても上手になったんですよ? レイトさんもきっと満足してくれると思います」
あー……。
「それじゃ、さっさと俺の前から消えてくれ」
「えっ、な、なんでですか!?」
何でって、ストレス溜まるからだよ。
あーくそ、もうこいつはいいや。無視だ無視。
なおも涙を流しながら、俺に向かって何かを懇願してくるカレンとフィリアをガン無視して、今度こそ自宅へと戻ろうとした。
すると――俺の背中に曲者が抱き付いてくる。
「お、お兄ちゃん……わたしも、一緒に」
そういや、こんな奴もいたな。
どうでも良い存在だったからガチで忘れてたわ。
「俺は一人っ子ですが……? あと離れてくれませんか?」
「ちがうよぉ! わたし、お兄ちゃんの妹だもん!」
「ウチは3人家族だし、いい加減にしてくれ」
「いい加減にするのはお兄ちゃんの方でしょッ!? 妹に対して、どうしてそんな酷い態度取れるの!? わたし、ルナだよ? もう忘れちゃったの?」
なんで、てめぇからキレられなきゃならねぇんだよ。
家族の縁切ったのは、てめぇからだろうが。
「俺に妹なんて、いないんだよ」
「ヤダヤダッ!! わたし、お兄ちゃんの妹だもん! お兄ちゃんと家族だもん!」
「あんまうるさくしないでください、近所迷惑なんで」
そう、この3馬鹿ビッチがうるさくしていた所為で、村中の人達がいつの間にか集まっていたのだ。
「お前ら……!」
「何しに来やがった、悪魔ッ!」
「消えろ! 悪魔はさっさと村から消えろッ!」
「性悪の臭いが移るから、早く出ていけ‼」
俺の草の根活動が実を結んだ所為か、もうこの村にこいつらの居場所などない。
「ち、ちがうの……あたし達は、ゆ、勇者に騙されて」
「みなさん、落ち着いてください……話し合えば分かり合えるはずです」
「やめてよ、みんな……わたし、村の人間だよ? 家族でしょ?」
言い訳している3人に、やがて村人たちは小さな石を投げ始めた。
地味に痛そうにしているこいつらの姿を見て、少し溜飲が下がる。
おっと、こんなのに構ってる場合じゃねぇや。
今日は大事な用事で村に来たんだからな。
「お願いレイトぉ……! もう一度、あたしと恋人になってよ!」
「レイトさん、私とやり直しましょ? 結婚して……幸せに」
「フィリアさんもカレンさんも、アルフォスの子供を妊娠してる癖になに言ってんだか……。お兄ちゃん‼ わたしなら、ちゃんとお兄ちゃんの子供を産んであげられるよ!」
ひえっ、勇者の子供を托卵する気だったのかよこいつら……。
ガチで怖すぎる。もしあのまま勇者が来ず付き合ってたとしても、この性格じゃいつか浮気でもして俺じゃない子供を育てさせられてたかも知れねぇな。
「あんた! なに余計な事言ってんのよ……!」
「例えお腹の子が勇者の子だったとしても、レイトさんと私が何度も愛を確かめ合えば、いつか子供もレイトさんの子になるの。血の繋がりなんて……些細な問題なんです‼」
精神がおかしくなりそうだったので、そろそろこいつらの話はシャットアウトした。新手の呪術師か何かかな?
まあ、こいつらが何言っても無駄だけどな。
何故なら――
「レイト! 早速着てみたんだけど、どうかな?」
「ああ、アリス……綺麗だよ」
俺が彼女の事を考えた瞬間、自宅の扉が開き、一人の女性が俺の元へと駆け寄って来た。花嫁姿となった、最愛の女性に俺は優しく微笑む。
「なっ――レイト……だれよ、そのおんな」
「レイト、さん……どう、して」
「う、そ。おにいちゃん……」
なに絶望したような顔してんだか。
ああ、言い忘れてたけど俺、結婚するんだわ。
変な奴らに邪魔されたけどよ――アリスの姿を見たらストレスも吹っ飛んじまったぜ。
やっぱりハーレムなんかより、一人の女性を愛した方が良いな‼
~FIN~
アッサリ完結‼
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