私は何度も恋をする
彼女の名はラナティア。
世界に名を馳せる魔王である。
漆黒の髪に血の色をした瞳。常に遠くを眺めているような、そんなぼーっとした顔で彼女は一人、魔王城の玉座の間で勇者に殺される日を待っていた。
何度も、何度も、何度も……。
一体どれだけ殺されたか分からない。
初めてこの世に生を受けた時、目の前にいたのは神と名乗るものだった。
あなたはこれから世界を滅ぼしなさい。そして、勇者に滅ぼされなさい。
他にすることのなかったラナティアは、素直にその指示に従うことにした。
そして、人類があと少しで滅ぶ。そんな時に神の啓示を受けた勇者が現れた。
玉座で勇者を見下ろすラナティアは滅ぼされるために戦った。
勇者の仲間を殺し最後まで残った勇者によって腹を貫かれた。
「やった……。やったぞ! ついに、この勇者カルロスが魔王を倒したぞ!」
ラナティアは勇者の雄叫びを聞きながらその生涯を終えた……
はずだった。
ラナティアは再び魔王城で目を覚ますこととなる。
自分は死んだはず。そんな思いが頭の中をぐるぐると動き回る。
調べてみると、自分が死んでからすでに六〇〇年の時が流れていることを知った。
街は復興し、新たな文明が栄えていた。
そんな時、神がラナティアの前に現れた。
ラナティアは再び世界を滅ぼした。何故滅ぼしたかと問われれば言うまでもなく、神がそうしろと言ったからだ。
しばらくして、再び勇者がラナティアの前に現れ、ラナティアは滅ぼされた。
そして、さらに六〇〇年後、ラナティアは目を覚ます。
過去の記憶はある。
もう、やることは分かっていた。自分の役割をよく理解していた。
そして、七度目の転生を迎えた日、ついに目の前に現れた神に牙を剥いた。
結果は分かりきっていた。腕が千切れ、腹が抉れ内臓が地に落ちる。だが、決して死なせてはくれなかった。
神はラナティアの傷を癒しこう言った。
「自分のやるべきことをやれ」
と。
ラナティアに選択肢など存在しなかった。
殺し殺され、滅ぼし滅ぼされる。
そんな逃げられぬ運命を一体どれだけ続けてきただろうか。
せめて、前世の記憶を消して欲しかった。
滅ぼされるのが分かっていて世界を滅ぼす。
つらい、つらい、つらい。
この運命を変えたい。だが、変えられぬことはラナティアが一番分かっていた。
そして、彼女の心は崩れていった。
————
彼女の名はラナティア。
世界に名を馳せる魔王である。
「ついに、ここまでたどり着いたぞ」
玉座の間で彼女は勇者を見下ろしていた。
「この勇者カルロスが……」
何度も出会った。
「貴様を倒し……」
何度も殺された。
「この世界に……」
何も知らぬカルロスよ……。
「平和を取り戻す!」
ラナティアはゆっくりと立ち上がると同時に戦いが始まった。
魔王の攻撃が勇者の仲間を殺し、勇者の剣が魔王に傷をつける。
だが、運命は決まっている。
いくら勇者に対抗しても、運命からは逃れられない。
「魔王! これで最後だ!」
カルロスの剣先はラナティアをしっかりと捉えていた。
もう、指一本動かすことができない。喉が渇き、すぐにでも干からびてしまいそうだ。
ラナティアは最後の力を振り絞り口を開く。
「カルロス……」
カルロスは剣を構えたまま真っ直ぐラナティアに向かって走る。
「また、六〇〇年後に……会いましょう」
ラナティアは走るカルロスの姿を目に焼き付け目を閉じるのであった。
お読みいただきありがとうございます
この作品は元々長編の予定だったのですが、すでに長編ファンタジー書いているのでそっちを疎かにしてはいけないと思い、短編として投稿しました。
今回の話を長編でするとプロローグの部分になります。
これから魔王と勇者がどう関わりを持っているのか気になったと言う方は是非感想をお書きください笑
続きが気になる!と言う方が多数いればちゃんと書くかもしれませんよ|ω゜)チラッ
そして、ここぞとばかりに宣伝をさせていただきます!
「白い魔女と黒い賢者〜扉を開けたら異世界でした〜」
最近、死んで転生とか無理やり召喚とかばっかりだなぁ
と、思っているそこのあなたにオススメの作品となっております!
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よければこちらもどうぞ笑