第9話 新世界での依頼
「ちょぅ、え?は?」
知っている展開とはいえ人殺しを頼まれるとか非現実的だ
思わず変な声で聞き返してしまった
「ダメ…ですか?」
「ダメっていうか、え、姉妹だろ?」
「血はつながっていません」
「はい!?」
え、そんなカミングアウトこんな序盤に言う?
確かに言うタイミング描いてないけどこんな序盤なの?
「」キョロキョロ
「大丈夫ですよ。今は誰もいませんし医務室は完全防音なので聞かれることもありません」
「タイミングを見計らっていたのか?」
「偶然です。お姉ちゃんが残る可能性もありましたし」
たしかにモブ先生が俺を指名するのも、保険医が出払っているのも偶然によるものだ
狙ってできるものじゃない
「…はあ。理由はともかく報酬はどうするんだ?」
「聞いてくれるんですか?」
「報酬次第だ。殺人とか色々手間がかかるからな」
解決方法はうろ覚えだが理由は知っている
報酬は描いていない。一体何を差し出すのか…
「報酬は…これです」
「?なんだこれ、何かの欠片か?」
渡されたのは虹色に輝く欠片
ソシャゲー触ったことがあればオーブの欠片と言われても納得する感じだ
「詳しいことはわかりません。ですがこれを身に着けておくと力が湧くんです」
「滅茶苦茶怪しいブツじゃねーか」
一応手に取ってみる。その瞬間暖かい感じが全身を駆け巡った
手に腕に頭に足に、なにかが伝わるのが分かった
落ち着け落ち着け落ち着くんだ
とりあえず欠片を詩音に返す
「なるほど。正直怖いが言っていることはわかった」
「それじゃあ」
「いやいやいや、駄目だって。悪いがこういった依頼は基本受けないことにしているんだよ」
設定上、本来の仕事人は政府の表舞台で活躍するエージェントの集まりだ
そこでは殺しなど良心に反する依頼は基本断るものだ
それは勝手にやっている自分たちにも当てはまる
「相手が極悪人ならまだしも普通の学生で姉だからな~」
「そう…ですか」
あからさまに肩を落とす詩音
原作では普通に受け持った気がするが気にしないことにする
黒歴史を脚色するのは俺でもできるのだ。つか俺の作品だしな!
「………」
「………」
物凄く気まずい
依頼を受ける前にとんでもないことを聞いてしまったのだ
…これは受けるしかなさそうだな
「はぁ。わかったよ、色々対応してみる」
「本当ですか?」
「どう遂行するかについては絶対に口を出さないこと。キャンセルだけ受け付ける」
「ありがとうございます!」
今思ったんだが原作で描いていない部分では俺の意識がないわけだよな?
つまり俺の意識はここで途絶えるはz――――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「だから無理だって!」
――――ずだよな?
って考えている間に景色が切り替わっている
「あ、帰ってきました」
「アンタいい加減にしなさいよ!」
「なんだよ。うるさいなあ」
静がなにやらお怒りのようだが気になることがある
ここは…どこだ?
「こっちの拓也さんは知らないんでしたっけ。ここが私たちの家で事務所です」
「へえ」
思ったよりも豪華だ。リアル日本だと注文殺到しそうな物件
うん、タワーマンションに近いなこれ
原作イメージよりもずっと豪華だ!
「そんなことはどうでもいい。レイ姐さんを殺すって本当なの?」
さっきから静が怒ってる理由はそれか
ということは作戦会議のシーンかここは
「いや、殺すわけないだろ。何言ってるんだ?」
「「は?」」
彩夏と静が呆気にとられている
いやいや常識的に考えてやるわけがない
「つか殺せるのか?翔仁」
「かなり厳しいだろうな」
冷静に分析結果を話し出す
曰く、実力はわからないがマスタークラスとなるとかなりの実力だろうということ
そして何故かはわからないが常日頃からどこか警戒しているということ
「成功失敗かかわらずこちらが痛い目見るのは明らかだ」
「警戒している理由って?」
「さあな」
雑な伏線を張るな
割とすぐに回収されるから安心しろ
「それじゃあどうするのい?依頼は受けたんでしょ?」
「受けた依頼はこなす。が、キャンセルにもっていく方向で遂行する」
「どういうこと?」
「それはな…ふわぁ」
駄目だ。会話中だってのに意識が朦朧としてきた
体感時間だと休めてないんだよな~
「明日でいいか?俺の意識があるうちに休みたい」
「あん?…もしかして今の人格は休めていないのかい?」
「ああ…ふわぁ。原因はわからん、本体が休めているから死にはしないと思うが」
「別人格とお前の作戦が違う場合はどうするんだ?」
あん?ああ、言われてみたら確かにその可能性もあるか
「それじゃあ簡潔に考えている作戦を伝える。後はうまくやってくれ」
「はぁ、人格が変わってもアンタはのんきだね」
「ほっとけ」
眠たいながらも自分の思い描いていた作戦を伝える
うまくいくとは思えない。だがやるだけ価値のある作戦だ
「う~ん。うまくいきますかね?」
「兄弟いない俺にはこの方法しか思い浮かばん。何かあるか?翔仁」
「俺に振るな。異論はない」
「それじゃあ、あとはよろしく。お休み」
こうして俺は自分の黒歴史の異世界の新世界で初めて眠りについた