将棋が好きな神様の悪戯9
「…負けました…。」
「はい、ありがとうございました。」
「……………。」
「……………。」
「…なんでだ。」
「え?」
「…なんで俺は勝てねぇんだ…。」
あ…。膝ついて項垂れおった。
負けたのがそこまでショックだったのか…。
まぁ解らんでもないが、にしても大袈裟だな。
「うーん…。
ま、対戦相手の弁だから君にとっては耳障りだろうが、それを承知の上で言わせてもらうなら、君の指し手は読みが足りてないかな。」
そう切り出すと、彼は俯いたままぴくりと肩を震わせた。
身に覚えがあるのだろう。
「一戦目の時は俺が指すのを急かしてさえいたよね?
二戦目の指し手も結構早かった。
でも指し手がどれだけ早くても、そこに読みが足りてないなら何の意味もない。
寧ろ必要十分な読みを入れている指し手は、普通ある程度は時間を消費するものなんだ。
指し手を急ぎ、人を急かし、一局一局に集中していない君の指し手は、根本的に読みが浅い。
だから俺の手の意味を理解できず、二手三手先の手を指されて初めて悪手に気づく。
でもその時には既に取り返しがつかなくなっている。
二戦ともそんな流れだっただろう?」
彼は俯いたまま顔を上げないが、言われている内容は十二分に解っているようで、要所要所で肩の震えを強くしている。
「まぁ、一言で端的に言うなら【君は俺より弱い】という一言に尽きる。
悪い事は言わないから団長さんとやらに鍛えてもらって出直してきな。」
団長さんは彼より強いらしいしな。
棋書やネットがなくても、実戦積めば段級位一つくらいはあがるだろ。
「言わ…せて…おけば…」
そう低く呟きながら、ゆっくりと立ち上がる副団長サン
あ、しまった。少し正直に言い過ぎたかな。
「この屈辱は必ず晴らす!!覚えておけよ!!」
そう言い捨てると、取り巻きの兵士を呼びつけ、三人そろって村から出て行った。
あーうん…。
それは所謂負け犬の遠吠えというやつでは…。
副団長+αが村を出て行き、どうしたものかと村の人達の方を振り返ると。
老若男女総勢20名ほどの村人全員が俺に向かって土下座をしていた。
「え゛」
あまりの光景にドン引きしていると、その中からいかにも村長っぽいおじさんがゆっくりと顔を上げ。
「この度は掛け替えのない村の子供を救ってくださり、ありがとうございます…。
感謝の言葉もありません…。」
あ、あー…。
そうか、まだちゃんと話してないもんな。
明らかに年上の爺ちゃんにタメ口で話すのは若干抵抗があるが、別に俺はこの村から何かもらったわけでもない。
寧ろ今から交渉しようという身だ。下手に出るのはよくないだろう。
「いや、勘違いしないでくれ。
その子の身分はまだ僕の管理下にあるし、単なる慈悲や優しさでやった事でもない。
そうやって頭を下げるのはまだ早いだろ。」
そう村長(仮)に言うと、彼はいいえと首を振り
「王国キシ団に一度渡った村人を取り返した例など私は聞いた事もありません。
少なくとも、我々ではどうあがいても出来なかった事です。
我らにとってキシ団の徴収は不可避の災厄に近い…。
そこから救えるという希望を見せてくださっただけで、あなた様は我が村の救世主様です…」
ええぇ…そういうもんなのか?
うーん…。
嫌な気分ではないがこそばゆいし、そもそも別に俺は幼女奴隷を助けたくてやったわけじゃない。
こっちの要件を話して、この子も親御さんの元に早く返してあげよう。
「そっちの事情は分かったが、こっちにも急ぎの事情がある。
この子は村に返すから、その代わりにこっちの事も助けてくれ。」




