将棋が好きな神様の悪戯8
この飛車銀両取りは前局の王手飛車に比べればインパクトに欠けるが、その影響力はそれに引けを取らない強烈なものである。
一見角が成るより飛車が成る方が重要度が高く、飛車が成り込むと同時に桂馬が取れるのだから、損得で見たら先手が得をしているように見えるが、実はそんなことはない。
とはいえ…この局面じゃ成り込む以外に方法はないから、きっとこの副団長サンもそうするだろう。
じきに彼は知る事になる。この局面に持ち込んだ事の意味を。
「…ふん。」
『2一飛車成』
『8八角成』
「…。」
『3二龍』
(折角龍を作ったのに飛車と交換するのか…。
まぁ香車には馬の紐がついてるから取れないしな。
3筋のリスクを緩和したと言えなくもないけど、これは勿体無いだろ…。)
『3二同じく銀』
『3六歩』
(これは歩を払う一手か。
悪手とまでは言わないけど、ぬるい手だなぁ…。)
『9九馬』
『6六角』
この角打ちは馬を消すか、それが無理なら自分も馬を作るという一手だ。
まぁ…本来もっと早く指すべきものなんだが…。
『8九角』
『1一角成』
さて。
ここまでの駒割りを見れば、飛車銀両取りがどんな意味を持っていたのかよくわかる。
飛車銀両取りは単に駒の両取りという意味だけではなく「銀をとると同時に角を成り込める」という大きなメリットがある。
つまりあの局面。先手が龍+桂馬なのに対して後手が馬+銀なのでこの時点で戦局はほぼ互角だったのだ。
更にその後、馬を作った俺は香車、桂馬を取ったが、副団長サンは飛車と龍を交換し、角を成り込む形で香車を取った。
結果、互いに馬を作り桂馬と香車と飛車を持ち駒にし、そして『俺だけが』銀を持ち駒にしている。
そして玉に対する馬の位置も俺の方が近く、更に今は俺の手番だ。
よって、現状は俺の優勢ということになる。
(副団長サンはそれに気づいているのかなっと)
『7八銀』
「…あ」
(流石に気づいたか。
もしこの銀を無視して別の手を指すと、6九銀成から簡単に詰む
なので、銀を取るしかないが…)
「く…くそ!」
『7八同じく金』
『7八同じく馬』
これも同じく無視すると6九飛車、もしくは6九金から詰む。
この状況から玉を生かすには、3七銀と銀をあがり、玉の逃げ道を確保する必要がある。が…。
さて…副団長サンはそれに気づくかな…。
「こ、これなら…どうだ!」
『6九香』
「…はぁ。」
「な、なんだ!この手になんか問題があるというのか!」
思わずついた溜息に食って掛かる副団長サン。
問題大ありだよ…。
「知りたいなら盤面で教えてあげるよ。」
『6八金』
「そんな手は俺にも読めてんだよ!」
『6八同じく香』
『6九飛』
「あ…。」
この飛車は馬の紐が付いているから玉では取れない。
だから5八玉の一手だけど、そしたら6八飛車成で詰む。
6九香では壁になっている銀が解消できないので、結局この手順で即詰みとなる。




