将棋が好きな神様の悪戯5
符号のみだとわかりにくいので盤面図を載せています。
将棋を少しでも齧ったことある方ならまず知ってる石田流の序盤定跡なので、イメージできるなら特に見る必要はありません。
ルールはもちろん千日手や二歩も同じ。
駒の名前も動きも配置も全く同じ。
どっからどーみても地球の将棋の丸パクリ。
どうなってんのこれ。
「おら、てめぇが先攻だっつたろうが。
さっさと動かせや!」
…まぁ今はそれ考えても仕方ない。
目の前の対局へ集中しよう。
先手か…。
まぁ、早石田かな。慣れない戦型で行って負けてもつまらないし。
操作は確か目の前のスクリーンへタッチするだけでいいって話だったな。
7七の歩をタッチし、次に7六をタッチする。
『7六歩』
歩が移動すると同時に、スクリーンから声がした。
読み上げまでするのか。ハイテクだなー…。
「ふん。まぁ普通だな。面白みのない。」
(ほっとけ)
『3四歩』
角道開けてきたか、ここで飛車先突かれるとノーマル三間にせざるを得ないからな。
早石田目指してるこっちには助かる。
『7五歩』
「何…?」
ん?なんだあの反応。
将棋がこんだけ強権握ってんなら早石田知らないわけないだろ。
まぁ現代将棋で早石田への風当たりが強いのは認めるが…。
「…所詮は素人か。雑兵を突き進めるだけでは勝てねぇぞ。」
『8四歩』
典型的な居飛車の序盤だな。
んじゃこっちも。
『7八飛』
「はっ!飛車と角を近づけるとはな!ど素人が!」
(?いや、振り飛車なら普通だろ)
『8五歩』
『4八玉』
「ははは。早くも逃げ腰か!
おらぁ!角の頭がガラ空きだぞ雑魚が!」
『8六歩』
「…まじか。」
「はっ。戦術の先が読めねぇ馬鹿が将棋で勝つなど有り得ねぇんだよ。
てめぇはこれで犯罪者決定だ!」
「…。」
『8六同じく歩』
『8六同じく飛車』
「ふん。もうてめぇに勝ちの目はねぇ。
潔く負けを認めろや!」
「…。」
「ショックのあまり声も出ねぇか…。
雑魚が。」
『7四歩』
「あ?今更遅せぇんだよ!」
『7四同じく歩』
「ええぇ…嘘だろ…」
「はっ!取るに決まってるだろ!
歩成りに気付かないとでも思ったかばーか!
舐めてんじゃねぇぞ!」
彼の大声を肯定するように、後ろに控えていた二人の兵士っぽい男性から俺に向けた嘲笑が上がる。
(いや、そうじゃなくて…)
『2二角成』
「無駄無駄ぁ!」
『2二同じく銀』
「…。」
「おう、どうした。手が止まってんぞ!
さっさと指せや!
下手くその分際でモタモタしてんじゃねぇぞ!」
「…ちょっと…聞きたいんだけどさ。」
「あぁ?」
「…君、本当に強いんだよね?」
「はぁ?当たり前だばーか!
俺が負けるとしたら精々団長くらいのもんだ!
俺ぁ王国キシ団副団長だぞ!
ゴタクはいいからさっさと指しやがれ!」
「…。」
どういう事だ?
本当に将棋の強弱が生殺与奪に直結するような世界なら、こんな盤面は起こり得ない。
少しでも将棋を勉強した事ある将棋指しならこんな状態には絶対ならない。
全力で回避するはずだ。
うーん…
色々違和感はあるけど、まずはこの一局を終わらせよう。
そうしないと何を聞くにも話が出来ないし。
それに…
「いい加減にしろよ…てめぇ…!
雑魚のくせにだらだら指してんじゃねぇよ!」
流石に少し、うるさいかな。
『9五角』
「あ?
ほぅ…飛車狙いか…。
まぁ関係ねぇよ!
俺は桂馬が取れる上に龍が作れるからなぁ!」
(飛車を成り込むことができれば…ね)
「ん?
あれ?
おいなんだよ!くそっ!
どういう事だよ!8九飛車成りだよ!飛車成り!
なんで反応しねぇんだよ!クソが!」
副団長さんとやらが駒を動かそうとする度、スクリーンがビービー警告音を鳴らしまくる。
こいつ…本気で気づいてないのか…。
81d○j○なら自滅してんぞ。
ウォーズ方式でよかったな。マジで。
「…王手だよ。」
「はぁ!?てめぇがなにかしたのか!
シンバンは王国法で決められた神の裁定だぞ!
対戦中の動作妨害は重罪だ!!一級犯罪行為だ!!」
「そうじゃない。盤面をよく見ろよ。」
「あ?」
「今の角打ちは王手飛車だ。」
「…は?」
「飛車取りと同時に【王手】なんだよ。その角打ちは。」
「……………はぁ!?」




