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くちなしの異世界  作者: kou
38/40

第一次人獣会談1

局面図は後ほど折を見て追加予定です。

「がはは!!

次の王国側の棋士ってのはお嬢ちゃんなのかい?


これはこれは!偉大なるキート王国も焼きが回ったかな!」


「それは対局の結果で判断されてはいかがでしょう?

大言壮語を吠えておいての惨敗は惨めですので。」


ここはキート王国会談室。

長机を挟み、片側にはキート王国代表として第四王女キリル・G・シルク、その横には補佐としてレーヨン内政官、アクリル内政官をはじめとする内政官各位が並ぶ。

その対面にはスキン獣人王国代表として、国王ジャンジャック・カウスキン、その横には国王補佐としてコネリオ・ブルスキンをはじめとする、スキン派閥上位の有力者が並ぶ。

キート王国と異なり、スキン王国をはじめとする獣人国は実力主義の為、最高権力者である国王が最も強い。


獣人国はスキン、レザー、ファーと3つの大きな派閥に分かれており、5年に一度、各派閥の代表が争い、最も強い派閥が国政を担う。

その為、長期にわたって停滞し続けていたキート王国よりも遥かに研鑽のレベルが高かった。


そう、それは王都所属の内政官クラスでは全く太刀打ちできない程に。


「ほぅ…言うじゃねぇか小娘が。

誰に口聞いてるか解ってるんだろうな?」


「その言葉はそのままそちらにお返ししますが?

私は誇り高きキート王国王族の血を継ぐもの。

シンバンの結果を以ってならばいざ知らず、それ以前の段階で他国の人間に軽んじられる筋合いはありません。」


お互い挑発に火花を散らしながら一歩も引かない。

国政に携わる者としては至極当然の姿勢である。


しかし、補佐として同席しているアクリル内政長官を含めた内政官、王族の面々は驚愕していた。


彼らの記憶にあるキリル王女に、このような芯の強さは無かった。

自分より年上の家族は勿論、家臣に対してすら及び腰で、思う事はあっても強くは言い出せない、よく言えば心根の優しい、悪く言えば自信の持てないお子様だったはずである。

それがどうだ、今は家族どころか他国の国王にすら一歩も引かずにやり合っている。


(これが…あのキリル王女なのか…ひと月も経たぬというのに、彼女の身に一体何が…

例の道場は何を教えているというのだ…)


それが変貌したキリル王女を見たキート王国側の総意であった。


「ふん。だらだら言い合っても始まらねぇ。

さっさと白黒つけるぜ!

ボードオン!」


『代償確認。

先攻キート王国代表キリル・G・シルク。236戦143勝。敗北の場合は制約書類19559番に基づく処理を履行

後攻スキン王国ジャンジャック・カウスキン。42331戦30182勝。敗北の場合は制約書類19559番に基づく処理を履行。

相違ないか。』


「ありませんわ。」

「あぁ、相違ねぇよ。」



「ではよろしくお願いします。」


「ふん。前の奴は頭なんか下げなかったがな。

お前はそこの奴とは派閥が違うのか?」


「まぁ、派閥と言いますか、対局時の挨拶は私の先生の流儀です。」


「ふーん…。生き死にのかかったシンバンで挨拶とは。

人間には馬鹿な奴がいるんだな。」


「…。」


『2六歩』


「御託はそこまでに致しましょう。

続きは盤上で…。」


「…!」


その声からは、底冷えするような怒りが感じられた。


ジャンジャックは今まで何度も負けられない勝負に勝ってきた。

派閥の中で勝ちあがる時、派閥対抗戦で勝ちあがる時、そして先の対キート王国との戦いにも。


どの戦いの相手にも、そして自分自身にも熱があった。

必ず勝つ、絶対勝つという勝利への願望、渇望が指し手には漲っていた。


しかし、今相対しているこの娘の指し手は違う。


指し手に熱は無い。だがそれを補って余りある、とてつもなく冷たい雰囲気がその指し手には滾っていた。


(こいつ…なにものなんだ…)


『3四歩』


例え今までの相手と違っていても、やる事は変わらない。

自分は国を背負ってるのだ。敗北は許されない。

動揺を抑えながら、自らの派閥が伝え、鍛えてきた定跡に沿って駒を進める。


『2五歩』

『3三角』

『7六歩』

『4四歩』

『6八玉』

『4二飛』

『7八玉』

『6二玉』

『8六歩』


「なに?」


(なんだあれは?

弱所である角の頭の歩を自ら突くなんて見た事がない!

間者からの情報にもない駒組だぞ!?)


『7二玉』

『8七玉』


(角の頭に…玉…だと!?)


ジャンジャックは困惑していた。

角の頭に玉を据えるなど、自国の序盤定跡は勿論、間者に調べさせたキート王国の序盤定跡にもなかった駒組である。


(そうか!これがこんな小娘に指させた理由か!!

俺らが潜ませてる間者の存在を見破った上で、それを逆用するために新しい戦術を持ち込んできたな!


年若い人間の方が新型への順応力は高い。

新戦術での不意打ちとは面白い事をやってくれるじゃねぇか!)


そう内心毒づきながら、ジャンジャックがキート王国内政官を見やると。


彼らは一様に目を見開き、顎が外れそうなほど口を開いた、見るからに「愕然」といった様相で盤面を凝視していた。


(ってお前らの差し金じゃねぇのかよ!!)


彼らの振る舞いはとても不意打ちを仕掛けに来た人間の様子ではない。

寧ろ「不意打ちを食らったかのような」振る舞いである。


(待て待て待て!て事はこのガキ、身内も知らない戦術をこの場で使ってるのか!?

そんな付け焼刃が俺に通じるわけねぇだろうが!舐めやがって!

一戦目と同じようにボコボコにしてやる!!)


『8二玉』

『7八銀』

『9四歩』

『9六歩』

『7二銀』

『5八金』

『5二金』

『4八銀』

『3二銀』

『5六歩』

『4三銀』

『5七銀』

『4五歩』

『6六歩』

『5四銀』

『3六歩』

『6四歩』


知らず知らずの内にジャンジャックの指、腕、頭に熱が戻ってきていた。

それは俄戦術で自分に勝とうという侮りへの激昂故であったし、獣人国が長年探していた肥沃な牧草地をようやく得られるという高揚感故でもあった。

しかし、それは代償として、将棋に於いて極めて重要な「冷静さ」という武器を鈍らせる毒でもある。


『2四歩』


(む?そっちから仕掛けてくるのか?

ふん、まぁこっちの囲いは万全だ。二筋を一方的に突破されることはないだろう。

これは同歩の一手だな。)


『2四同じく歩』

『3八飛』


「な…に…?」


二筋の突き捨てに次ぐ継続手は3筋に回る手。

これは左銀が5筋まで進出している事で薄くなった角頭を攻める手だ。

3筋の歩を進めて角頭を突く流れが解りやすく見えている。


「く…小癪な…。」


『4三銀』


ジャンジャックは手損を覚悟で銀を戻す。

銀で角頭を守れば3筋を守り切れるという考えだろう。


しかしその手は飛車の効きを大きく損ねる悪手でもある。


『4六歩』


「あ…。」


そう、銀が5四にいる内は、飛車の効きが生きていたので4六歩は指せなかった。

同歩同銀に同飛車があるからである。


4三銀と引いたことで4二の飛車を自ら抑え込む形になってしまい、結果4六歩を許してしまった。


固まるジャンジャック、そして…


「うふふふふふ…。」


静まり返った室内に響く酷薄な笑い声。


獣人国の面々は勿論、キート王国の内政官ですらぎょっと目を剥いたその声は、他ならぬ対局者であるキリル王女から発せられたものだった。

閲覧いただきありがとうございます。


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ヽ(・∀・)ノ

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