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くちなしの異世界  作者: kou
36/40

初心者の通る道9

局面図は後ほど折を見て追加予定です。

「突然に失礼する!ナオト殿はおられるか!」


アラミドさん、キリルさん、レーヨン君が村に訪れてから早三週間。

昼前のまだ日が昇り切っていない時分、唐突にその声は村に響いた。


「どなたさんで…って団長さんじゃないですか。

お久しぶりです。」


「うむ。お変わりないようで何よりです。ナオト殿。」


そこにいたのは王都棋士団団長と、その補佐たる数名の団員。

以前来た時と異なり非常に軽装で、装備は勿論、補給物資もほとんど無い様に見える。


「急な押しかけで誠に申し訳ないのだが、事態は急を要する。

不躾ですまないがまずは物資の補給と水を頂けないだろうか。」


「え、えぇ、それは構わないと思いますが…。


…何があったんですか?」


「かたじけない。

事情は補給作業と並行してお話しする。


まずは目的からお話しするが、留学中の我が棋士団のアラミドと我が国の王女を引き取りに参った。

既定の留学期間に満たないのは百も承知だが、至急王都へ連れ帰らねばならない。

どうか可及的速やかに二人の元へ案内していただきたい。」


その口調は俺に有無を言わさぬ凄みを秘めていた。


俺は同行していた団員さんに物資の保管場所と井戸の位置を教え、作業を手伝ってもらえるよう傍にいた村人にお願いした後、事情説明を兼ねて団長と道場へ案内する事にした。


「ご丁寧な対応感謝する。

今回二人の引き取りに参ったのは他でもない、獣人国との間で行われた外交シンバンで、我が国が甚大な被害を負いかねない事態が発生したからだ。」


「なんだって!?」


道場へ歩を進める道すがらに団長さんが教えてくれた内容は、正に青天の霹靂が如き出来事だった。

獣人国って事は、例の振り飛車至上主義の国か…。


「ナオト殿は獣人国の事をご存じか?」


「ええ、キリルさ…王女様から聞いてます。

振り飛車を定跡としている国くらいの情報しかありませんけど…」


「フリビシャ…それがあの戦法の名前か。

口惜しい…よもや我が国のジョバンジョーセキが敗北するとは…。」


「でも話に聞く限りでは今まで獣人国とのシンバンは一度もなかったんですよね?

どうして急にそんな事に?」


「どうも互いの王家同士で「どちらのジョバンジョーセキが優れているか」という対立が発生したようで…。

どちらか片方が折れればよかったのですが、どちらも自国が至上と主張して曲げず、その結果領土をかけてのシンバンに発展したようなのです…。

軍事侵攻なら我々棋士団の領分なのですが、政治外交は内政官の管轄なので我らが介入することは出来ず…」


「で、負けて領土を取られることになったと。

なんてこった…。


一体どこを取られたんですか?」


「今回争点に上がっているのは王国北方部の牧草地で、第二、第四王女の生家があります。

シンバン自体は二本先取の三回勝負となっているようで、現状はまだ一敗の状態なのですが、一回戦の負け方から領土喪失が現実味を帯びてきており、今のうちに第二、第四王女には生家の私物回収をお願いしたく、身柄を引き取りに馳せ参じた次第です。」


「なるほど…それで…。

いやでも…今王女様を連れて行くのは非常にまずいと思いますが…」


「どういうことです?


まさか王女様の身に何かあったのですか!?」


「いえ、王女様自体が問題なのではなく…今回の相手が問題というか…」


「…?

要領を得ないですな。ナオト殿らしくもない。


まぁ、いずれにしても儂は王都からの勅命を受けてここに来ました。

王女は是が非にでも連れ帰ります。」


(問題が起きるとしたら連れ帰った後なんだよなぁ…。)



:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-


「向かい飛車に会っては向かい飛車を斬り」


『向かい飛車に会っては向かい飛車を斬り』


「四間飛車に会っては四間飛車を斬る」


『四間飛車に会っては四間飛車を斬る』


「『立ち向かうが飛車を振りし悪鬼の化身と言えど、あに、遅れをとるべけんや』」


ダンッ!!

※SEです


「ここに!居飛車至上の旗を立てぇる!!


我らキリル居飛車党!将棋の王道を突き進みし真理の探究者!!

臆病者の振り飛車党よ!神妙にして縛につきなさい!!」


『うおおおぉぉぉぉぉ!!』

「うおおおぉぉぉぉぉ!」


頭に「居飛車最強!!」の鉢巻きを身に着け、両肩には白たすき、背後には「質実剛健」「正々堂々」と書かれたのぼり旗と、それを掲げ喊声を上げる3人の門下生+内政官の息子を従えた王女(だった女の子)がそこにはいた。


そして彼らと将棋盤を挟んだ向かいにいたのは


「穴熊ミレニアム端玉と、隅に閉じこもるより他ない居飛車党が、臆病者とはよぉくも吠えたものよ!」


バサッ

※SEです


「我らアラミド振り飛車党ぉ!!

三間四間を以って将棋界を切り開き、居飛車を屠る死神なり!!


我らの猛攻で崩せぬ囲いなど、この世に存在しないと知れぇ!!」


『うおおおぉぉぉぉぉ!!』


「振り飛車最高!!」と書かれたたすきに袈裟に掛け、背後には「美濃至高」「滅べ穴熊」と書かれたのぼり旗と、それを掲げ喊声を上げる5人の門下生を従えた副団長(だった男性)がそこにはいた。


「これは…一体…どういう…。」


道場に入るや否や、その強烈な対立雰囲気を目の当たりにして硬直している団長さん。


そう、留学してきてからの3週間で、キリルさんとレーヨン君はバリバリの居飛車党に、アラミドさんはベタベタの振り飛車党に傾倒してしまい、今や道場内で派閥を作る有様だった。


勿論派閥の違いがあるからと言って、それを理由に平時の好悪を歪めるような素振りはないが、こと対局となれば話は別だ。


互いの心情を隠すどころか、寧ろ「対立するのが楽しくて仕方がない」とでも言うかのように、どちらかとなく嬉々として敵意をぶつけに行く。

まるで有名な茸筍戦争を見ているようだ。


いやぁ、門下生の切磋琢磨を見るのは面白いなぁ。


「…ナオト殿…お三方を止めていただけますかな…。」


俺の内心とは異なり、あまりに子供っぽい光景に額に手を当て俯いている団長さん。


まぁ普通はそうなるよね。


閲覧いただきありがとうございます。


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滅べ穴熊(真顔)

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