初心者の通る道7
現状筆が止まってますので取り急ぎ書き溜め分だけ投下します。
局面図は後ほど折を見て追加予定です。
「「「よろしくお願いします」」」
先手(上手):ユリアンさん
後手(下手):キリルさん
下手ガイド:俺
「んじゃユリアンさん。対振りの練習なので四間飛車でお願いね。
戦法指定は面白くないかもしれないけど。」
「いえいえ、四間飛車なら指しやすいのでありがたいです。
…三間飛車とか言われたらどうしようかと思いましたが。」
あんなピーキーな戦法のリクエストなどよう出来んわ。
「では改めて」
『7六歩』
※なお棋譜記録はレーヨン君。
「え、えっと…。」
初手から手が止まり、ちらりとこっちを窺うキリルさん。
序盤の考え方から大きな差があると知ればこうもなるか…。
「居飛車を指す場合の序盤に大きな違いは無いよ。
強いていうなら、3四歩と角道を開けるのではなく8四歩と飛車先をつく方が盤石だが。」
「そ、そうなのですか?
王都では一手で角が使えるようになる3四歩の方が優れているという見解が強いのですが…」
「居飛車同士ならその考えでもいいんだけど、対抗系の場合は少し事情が違う。
そうだな…少し進めて見るか。」
『3四歩』
「ユリアンさん、角交換四間飛車の序盤を指してもらえる?
3手目角交換の流れで。」
「あいよ。」
『2二角成』
『2二同じく銀』
『6八飛車』
「これが角交換四間飛車という戦法の基本的な動きだ。
どこが問題か解るかい?」
「?
いえ…全然わかりません。」
「アラミドさんたちは?」
「いや、わからん。
お互いに角を持ってるし何の問題もないんじゃないか?」
「僕もそう思う。これの何がダメなの?」
「ふむ。
じゃあもう少し進めてみようか。」
『8四歩』
『8八銀』
『8五歩』
『7七銀』
『4二玉』
『4八玉』
『3二玉』
『3八玉』
『5二金』
『2八玉』
『6二銀』
『3八銀』
『7四歩』
『8八飛』
『1四歩』
『1六歩』
「こんなところかな。」
振り飛車側は銀を上げて飛車先を受けた後、美濃囲いに組んで向かい飛車に。
居飛車側は角交換に同銀と応じた後、飛車先を伸ばし、船囲いから早繰り銀を見せる陣容だ。
「さて、お三方は何が問題か解るかな?」
キリルさんとレーヨン君は変わらず意味不明といった表情だったが、アラミドさんは気付いた様子。
棋士団副団長の面目躍如といったところか。
「もしかして…居飛車側の玉位置か?」
「はい、アラミドさん大正解。」
「え!?」
「ど、どういう事ですの?」
うんうん、新鮮な反応で誠によろしい。
「一応認識にずれがないかの確認も兼ねて、アラミドさんに説明してもらおうかな。
お願いできる?」
「あ、あぁ…。
この2二の銀は見ての通り角交換を同銀と取ったからここにいるわけだが、この銀がここにいるとこれ以上玉を深く避難させることが出来ないんだ。
もちろんこの銀を移動させたり桂馬を跳ねたりするところに手数を使えばどうにでもなるけれど、その分相手が攻めに手数を使いやすくなるわけだし…。
対して振り飛車側は現状で既に2八の位置までしっかり玉を避難できてる。
この差は終盤で大きなものになる。
避けられるなら避けた方がいい。」
「「あ!!」」
そう、対抗系の序盤で俺が7六歩を推奨しないのは正にその理由だ。
棋書などでは「壁銀」と呼ばれる形で、一般的にこれは悪形とされる。
もちろん壁銀だからと言ってすぐ形勢の悪化につながるわけではない。
3三銀から矢倉に組むなど対処はいくらでもあるが、逆に言えば「対処しなければいけない形だ」という事でもある。
初心者にとってリスクのある選択肢は少なければ少ないほどいい。
俺は五割しか指しこなせない10通りの戦術を持つより、八割指しこなせる一つの戦術へ特化した方が有効だと思ってる。
オールマイティに対応できる棋力は理想ではあるが、どんな理想を叶えるにも段階という概念はあるものだ。
「じゃあ8四歩の優位性が解ってもらえたところで盤面を戻そう。
7六歩に8四歩とした後だ。」
『7六歩』
『8四歩』
『6八飛』
『8五歩』
『7七角』
『3四歩』
『6六歩』
「あれ?」
「どうかした?キリルさん。」
「あ、いえ。
今3四歩とするのはいいんですか?
2二角成とされたらさっきと同じ壁銀になると思うんですが…。」
お、鋭い。
「うん。よい質問だ。
じゃあ巻き戻って、6六歩と角道を止めずに2二角成と角交換してきた場合を見てみよう。」
『2二角成』
『2二同じく銀』
「この局面はキリルさんのいう通り確かに壁銀だ。
じゃあここでもう一度壁銀の何が問題だったのかおさらいしてみようか。
レーヨン君。覚えてる?」
「…銀を動かさないと玉を避難させにくくなり、動かすために手数を消費したら相手が攻めやすくなるって話だろ…。
覚えてるよそんくらい。」
「おっけーおっけー。
じゃあ少し考え方の視点を変えてみよう。
この局面で、お互いが初期配置から『どれだけ駒を動かしているか』わかるかな?」
「「「え?」」」
「先手は角道を開けるのに1手、飛車を振るのに1手、更に角が駒台に乗っているので角を動かしたという意味で1手、合計で3手。
後手は飛車先を伸ばすのに2手、角道を開けるのに1手、銀を上げるのに1手、先手と同じように角が駒台に乗っているので1手。合計5手。
つまり後手は「後手なのに先手より2つ多く駒を動かせている」という事になる。」
「「「あ!!」」」
これは7七角の1手が意味を無くしてしまっている事と、振り飛車側から角交換を要求する事で、同銀の手が「銀を上げる」「角を取る」という2つの動作を1手で行った事に起因する。
将棋用語で表現するなら、7七角が「手損」になってしまっているのだ。
8五歩による角頭への攻めを7七角で受けるのは何らおかしなやり方ではない。
左金を美濃囲いに使いたいのなら、7七角は定跡手だ。
しかし、1手使って7七角と移動したのに、その後2二角と角交換してしまっては、7七に移動した1手が無駄になってしまう。
7七に移動した後角交換しても、8八から直接角交換しても、その結果だけ見れば何の違いも無いのだから。
「このように後手はこの時点で既に「2手得」している。
手得しているという事は僅かながら手数の余裕があるという事だ。
2手ある余裕の内1手を壁銀解消に使えば後手が不利にはならない。
つまりこの時点での角交換は「振り飛車不満」という事になる」
「「「なるほど…。」」」
言うまでもないが、これも壁銀と同じく、すぐ形勢の悪化につながるわけではない。
そもそもまだ序盤の序盤である。
このような最序盤で、一目で見える形勢悪化が起こる様ではお話にならない。
アラミドさんとの初戦、二戦目みたいな事案は例外中の例外なのだ。
「さて、では6六歩と角道を止めた局面に戻ろう。
この6六歩は振り飛車側から角交換を拒絶した手となる。
振り飛車側は7七角によって8六の地点を受けている為、仮に角交換に同桂馬として応じた後、角が無くなったことで8六を受ける事が困難になり、飛車先を突破されるリスクが高くなる。
それでは振り飛車側は不満なので、角道を止め、角交換を避けるわけだ。」
「先生。7八銀としてから同銀ではだめなのですか?」
「ダメではないけどその使い方は左銀が使いにくくなる。
居飛車から角交換されればキリルさんの期待通り同銀と出来てよい形になるけど、居飛車側が4四歩とかで角交換を拒否したら、その銀を使うために結局6六歩が必要になる。
それなら最初に6六歩を指せばいい。7八銀と違って選択肢を狭めないからね。」
「なるほど!」
閲覧いただきありがとうございます。
感想、もしくは↓より評価いただけると励みになります。
ヽ(・∀・)ノ




